第9話 うまい!うまいぞぉおお!
「いやぁ、戦争だねえぇ」
(ちょっとコワイ…)
子供達と冒険者達は料理に向かって我先にと群がっている。
そんなに慌てなくても十分な量は用意しているんだがな。…足りるよな?
「あんたは食べないのか?」
オレは隣に居るゴースト執事に問いかける。
「私の食べ物は魂ですよ」
「ふーむ、魂ならあいつらにいくらでもくっ憑いてるだろ?あれ貰えよ」
「ふむ、なるほど」
ゴースト執事はスゥと冒険者の後ろに行き、取り付いている悪霊を次々と取り込んでいく。
「これはこれは…質のいい魂ですな。おおぅ、これはまた悪質な魂…食べ応えが…」
ゴースト執事は満面の笑みを湛える。気に入ってもらえて結構なことだ。
「あっという間にこれまでと同等の力が手に入りましたよ…ほんと私のしていたことはなんだったのか」
「だから言ったろ、綺麗な魂は、どんなに汚したとこで、元から汚い魂には敵わない」
「なるほどなるほど、暗殺者ともなれば、汚れた魂がくっついていて当然」
そんな奴等をこれからもお前に献上してやる。
どうだ、オレに協力する気が起きたか?
少女はそっと隣の執事に問い掛ける。
「良いでしょう、貴方様が何をなさるつもりかは分からない。だが、コレだけの物を頂けると言うのなら従うことはやぶさかではない」
「それとな、汚い魂は綺麗な魂を見てさらに汚くなる。力を増したいのなら綺麗な魂は出来る限り多く残すことだ」
「……そんな事想いもしませんでしたな。ほんと私は今までいったい何をしてきたのでしょうな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「よしっ、なかなか筋がいいぞ!」
「ハイッ、先生!」
えっ、なんだこれは?あいつは確か泣く子も黙る我が暗殺者ギルドの麒麟児、それがなんで子供と戯れてんだ?
うぉっ、アイツだけじゃない、そこら中で同じ風景が見られる。
ある日、年若い女性が悪魔の館に尋ねてきた。
その女性はここにいる冒険者達のギルド、暗殺ギルドの受付譲であった。
この館の主、フェイリースとの契約期限が迫ってきたので、今後の打ち合わせに訪れたのであった。
「ん、ミリスじゃねえか。どうしたこんなとこに?」
その受付譲が振り返ったそこには朗らかに笑う青年が。
えっ、いやお前、朗らかに笑うキャラじゃねえだろ?
戸惑いの表情で一人の若者を見やる暗殺ギルドの受付譲。
「ね、ねえ、やばいクスリでもヤッタ?駄目よ、クスリだけは手をだしちゃ」
「失礼な奴だな、なんで俺がクスリやってんだよ?」
ん、あれは?青年の後ろにはぞろぞろとボロボロの姿をした子供達が。
「あれはなに?まさか…噂どおりここで…」
「ああ、今回のイケニエ?みたいな」
イケニエだって…!?
今この街では一つの悪い噂が広がっている。
とある館で、殺してもどこからも文句を言われない孤児達を集めて実験を行っているとか。
そうか、あそこで戦闘訓練を受けているのが、実験によって強化された平民の子供達なのか。どうりで子供にしては動きがいいはずだ。
「すぐ帰ろう!ほら、お前こんなとこで耐えられる奴じゃないだろ?な、今日で契約も終わりだし」
コイツがこんな朗らかな笑顔をするってことは…もしかしたら壊れかけているのかもしれない。
コイツは暗殺者ギルドに属しているが、本当は優しい奴なんだ。いつも仕事のたびに部屋の隅で落ち込んでるそんな奴が、こんな状況で正常な精神を保てるはずが無い。
「そういや今日で一ヶ月か…このまま継続して雇ってくれないかなぁ?」
何を言って…もしかして、やばいクスリで…いかん、なんとしてでも連れ帰らねば!
「おっ、またいい魂連れてんのがいるな。レイズ!」
「ハッ、さっそく頂くとしましょう!」
あれ、なんか急に肩が軽くなったような…
「あっ、お嬢様!連れて来ましたぜ」
えっ、お嬢様?女性が振り向くとそこには、扇で口元を覆った貴族の少女と、初老の執事が立って居た。
女性は知らず、喉の奥でヒッと声にならない悲鳴を上げる。
だ、ダメよ!ここで負けちゃ!
「あ、あなたが雇用主のフェイリース様でございますね。本日を持って我がギルドとの契約が終了いたします」
「契約の延長を」
「も、申し訳ありませんが、団体契約の延長は行っておりません」
「そうでしたか…」
団体のはね…個人契約に切り替える事は出来るけど、それは言わない方がいいだろう。一刻も早くマルクスを連れ出さなければ。
「レイズ、子供達を例の場所へ、マルクス、あなたは冒険者達を集めてください」
「「ハッ!」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
あ、あれ?私は今何を見てるのだろう?あの冷酷非情、悪意の塊と言われていた暗殺ギルドの面々が…
「お嬢様!個人契約に切り替え、今後もここで働かせてください!何でもします!下男でも、奴隷でも!俺をここにおいてください」
そう言って頭を下げていた。
「ど、どうしたのですが突然?」
少女もこれは想定外の出来事らしく戸惑っているようだ。
「お、俺、この館から出たくないんです!」
「はぁ?」
「この館にいると悪夢を見ないのです!あれだけ毎日うなされていたと言うのにそれがパッタリと!」
それってクスリで…
「クスリから離れろよお前…」
「ね、ねえマルクスは帰るよね?ね?」
「…俺もできれば残りたい」
ど、どうして?こんな悪魔の館なのに?
女性が驚いていると、さらに驚愕する出来事が!なんと、少女がギルドの面々一人一人を抱きしめていくではないか!
「あなた達への悪意は私が全部頂きました、もう外に出ても悪夢にうなされることはないでしょう」
「そ、それは本当で!」
「ええ、また悪夢を見るようになれば私の元へ来なさい。その悪意、私が頂きますわ」
男達はまるで女神を見るような目だ。なんか変な宗教みたいで怖い。
「しかし…急に男手がなくなると困りますわね。なんとかもう一度契約しなおしは出来ませんの?」
「べ、別の者なら」
「あら、じゃあそれでお願いしますわ」
少女は嗤った。その笑みは、まるで悪魔の笑みのようであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なあ、暗殺ギルドの連中、なんかおかしな宗教にはまってないか?」
「なんでも例の悪魔の館、そこに集まって集会を開いてるとか?」
「うぉぉおお、やめろよ!俺の家あそこから近いんだぞ!」
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