第6話 悪魔の館
全ての部屋を回り、浮浪者などが紛れ込んでいないことを確認する。
こんなご時勢だ。空き家なら無断で誰かが住み込んでいてもおかしくないが、よほどこの館はここの住民達に嫌われているのだろう。
部屋には赤いシミがたっぷりだったしな。以前のご主人は随分と狂気のお方だったようだ。
「フェイリース、目を瞑ってないで悪霊とか居ないか調べてくれ」
(ムリムリムリ、あんた私をなんだと思ってんのよ!か弱い少女に悪霊と戦えってんの!?)
少女は屋敷の裏手に回る。そこにはさび付いた無数の武器を並べられた、小さな闘技場のような物が在った。
武器の一つを手にとってみる。
と、その時背筋に悪寒が!
少女はとっさに手にとった槍を後ろに振りかぶる。
(キャッ!)
だが、後ろには何もなかった。
いや、フェイリースが居たか。
悪寒の正体はコイツか?いや違うな…確かに何か居るようだ。
(ちょっと、急にどうしたのよ!あぶないじゃない)
「まあ、ちょっとな」
屋敷は全部回った…先ほどの悪寒は…あの時の…地獄の門に似ている。
そういやこれだけの屋敷だ、あるはずだよな…地下室。
「フェイリース、ちょいと地面に潜って地下室がないかしら・」
(イヤよ!むちゃいうなや!)
鬼の形相である。うん、今なら悪霊と言われてもしっくりくるな。
(何を想像してんのよ!ねえ、ここやばいわよ。ほんとやめて帰りましょうよ)
「はぁ、仕方ねえなあ。これだけは使いたくなかったが」
少女は地面に横になる。
(えっ、何?こんなとこで汚いわよって!えっ、光の珠)
少女の身体から光の珠が浮かび上がる。
そう幽体離脱と言う奴だ。
これなら、屋敷の何処へでも侵入できる。
(ちょっ、ちょっと、これ息していないんじゃ…心臓も止まってるような)
(まあ、仮死状態だからな)
(えっ、戻って!早く戻って!私の体死んじゃう!)
(じゃあ捜してくれるか?)
(分かった、分かったから!)
光の珠が再びフェイリースの体に戻る。
フェイリースはしぶしぶ屋敷の探索を了承する。一人じゃ怖いと言うので少女も一緒について回る。
(ここに階段があります。…ああ、言わなきゃいいんだった)
なるほど、見つけても言わなければ行かなくて済むか。
悪知恵が働くな。ちょっとドジな所があるけど。
少女はポカリとフェイリースの頭を叩いて階段の上に置かれているであろうソファーを横に避ける。
(いたっ、ちょっとなんであんたからだと触れるの!?)
「まあ、そういう風にできてるからだろ」
(納得がいきませんわ!)
フェイリースが見つけた隠し階段を降りて行く。
その先は書斎らしき場所へ辿り付く。
そこには…
「不死の書…か」
ゾンビ、バンパイア、リッチなどの『生み方』の書物が大量に保管されていた。
ここでやっていたものが何か朧げながら見えてきたな。
(これはまずいですわ。こんな物を持っていると知られたら…査問…そして死刑…)
「そんなに不味いものなのか」
(ええ、モンスターを生み出す方法を記載した物は禁書に指定され、持っているだけで処罰されます)
少女は一つの戸棚へ向かう。フェイリースがやたらとチラチラ見ていた戸棚へ。
(え、えっと、その先は…なんだか嫌な気配が…)
「先があるのか?」
(あっ…)
ほんと天然な奴だ、こっちは助かるがな。
――フフフ、生贄が自分からやってくるとは
ふと声が聞こえた気がした。
オレは部屋の隅の天井をじっと見つめる。声が聞こえた方向に。
すると、薄もやのような物が見えてくる。
オレは口を覆っていた扇でそれを振り払う。するとだ…
(ほう、私が見えるのか?)
そこにはボロボロの法衣を着た老人が浮いていた。
(ヒィイイイ、おばけえ!)
「だからお化けがお化けに驚くなと」
(うっさいわよ!人のことおばけおばけ言うなや!)
フェイリースは俺の後ろに隠れる。
「あなたがこの館の主だった者ですか」
(くくく、随分肝の据わった小娘だな)
本が一冊飛んでくる。
オレは扇でそれを叩き落とす。
そして落ちた本を拾う。
「リッチか…それにしては貧相な姿だな」
それはリッチについて書かれた書物であった。
少女はその本をめくっていく。
なるほど、一ページめくるごとに魂が吸い取られるようだ。
(足りぬのよ、まだまだ生贄が!)
リッチになる為には憎悪に染まった魂が必要と書かれている。
どうやらこの御仁、ここでそんな魂を作り上げていた模様。
「憎悪の魂ねえ…ねえあなた、善人の魂を憎悪に変えて取り込んでも効果は少ないと思いません?」
(なに…?)
「憎悪の魂など世界中に溢れていますでしょう。なぜわざわざ自分で作ろうとなさるので?」
リッチは考え込むように押し黙る。
モンスターになると知能が弱るのかな?
それともそれしか道が無いように思えてしまうのか。
「ふむふむ、リッチはアンデットの王か…ねえ、あなたの王国の手伝い、私にさせて頂けないかしら」
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