第4話 お掃除しましょ
(うっ、何コレ、人が…子供がいっぱい…死んで…)
「ここが最下層ってとこか」
あれから街をくまなく見て回った。
切り立った山を背後に王宮が作られ、それを中心とした扇状に街が広がっている。
最外周には城壁があり、その先は森が広がっている。
王宮から離れれば離れるほど治安が悪くなり、住んでいる連中はみすぼらしい姿となっている。
ここゴミ捨て場って呼ばれる所には…布に穴があいただけの服を着た孤児達が大量にひしめいていた。
そしてそのすぐ隣では、動かなくなって蛆が沸いている者まで居る。
「ふーむ、確かに汚いな…フェイリースの言う通りだ」
オレは連れて来た冒険者達へ声を掛ける。
「ねえあなた達、ここ、とっても不衛生だと思いません?」
「は、はあ?」
「ここに居る孤児達がいなくなったらとても綺麗になると思いません?」
そう言った少女に冒険者達は何を言われたか分からないと言った顔をする。
しかし、すぐに一つの事に思い当たったようで、愕然とした顔を向けてきた。
おいおい、あんたらは普通の冒険者じゃねえだろ。なんせ暗殺ギルドの方で募集したんだしな。
こっちの方が守秘義務が高い。
高額だが、依頼主の命令には逆らえないようにできている。
「掃除を致しませんとね」
(えっ、何を言って?)
少女は酷薄そうな目を子供達へ向ける。
扇で顔の半分を隠した少女は子供達からは目だけしか見えない。
それが一掃恐怖を沸き立てたようだ。あちこちで泣き声まで起こる。
「あなた達がここに居ますとね、この街にとって、とっても良くない事が起こりますの。景観も悪いでしょ?」
(ちょっ、ちょっと、いったい何する気…?)
「で、でもここ以外に行く場所が…」
「あら、行く場所ならわたくしが連れて行って上げますわ。大丈夫、痛いのは一瞬で済みますから」
子供たちは抱きあって震え始める。
少女はそっと口に当てていた扇を外し子供たちの方へ向ける。
(ね、ねえ、怖い事はしませんよね?)
「平民なんていくら死のうがどうとも思わないんだろ?」
(ちっ、ちがっ、アレは…思わず頭にきただけで!)
少女はフェイリースの言葉を無視して冒険者達に命令する。
「さあ、貴方たち出番ですわ。きれいにお掃除をお願いしますよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
◆◇◆◇
「お、おい、聞いたか。貴族の連中が冒険者を雇ってゴミ捨て場を掃除したらしい」
「ほう、そいつは奇特な奴らもいた…おい、ゴミ捨て場ってもしかして、孤児達の…」
「ああ、俺は見ちまった、冒険者の一人が子供の亡骸を担いでいくのを」
下町の酒場では今日のゴミ捨て場の出来事の話題で持ち切りだった。
「なんでも使えそうな奴らは縄で縛り、それ以外は街の外で焼却処分したとか」
「集まってた冒険者…あれ、暗殺ギルドの連中だ」
なんとも言えない雰囲気が漂う。
と、酒場の隅っこで一人の女性が号泣しだす。
「わ、私、育てられないから、うっ、あそこにっ!」
「お、おれも…まさかこんなことに…」
それを皮切りにあちこちで涙を流す人たちが。
「貴族って奴らは俺たち平民をゴミとしか思ってねえ」
「そうだ、貴族が悪い!あいつらのせいだ!」
そこかしらで貴族の所為にする声が上がる。
―――ダンッ!
その時、机に拳を叩きつけ大男が立ち上がった。
「勝手だなあんたら!俺はあそこの…ゴミ捨て場の出身だ。知ってるかあそこの生存率を…10人居たら大人になれるのは…1人いるかいないかだ!」
酒場が静まり返る。
「今死ぬか、後で死ぬかの違いだ…」
男はカウンターに行き料金を払い店を出て行く。
そして店の裏手に回る。
「いい演技でしたわ」
そこには扇で顔の半分を隠したご令嬢らしき人物が居た。
「別に全部が演技って訳でもねえよ。それより…」
「ええ、使えそうな子達は私が面倒見ますわ。使えそうにない子達は残念ですけど…」
「死体に期待してもしかたねえ、生きてる奴らだけでもなんとかしてくれ」
そう言って男は闇に消えていくのだった。
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