第3話 憑いてるのは私の方?

(って、この状況はいったいどういうことですか!)

「ああ、死人がごちゃごちゃ言うやな」


 男がこの世界に降り立った時、ちょうど自殺をしようとしている少女を見つけた。

 確か、死人になら取り憑けるのだったよな。

 これはちょどいいと交渉した所、うまい具合に乗っ取れた。


 顔ははっきり言って美人だ。

 身体付きもよく出来ている。

 地面に付く前でよかったぜ。

 付いた後だとゾンビよろしく、ボロボロだったからな。


(ちょっ、ちょっと止めてよ!私の身体を返してっ!)


 スカッスカッと少女の身体を殴りつけようとする、少女とまったく同じ見た目の半透明な幽霊のような存在。

 そんな存在を少女は気にせず、鏡の前で服を脱いで身体を鑑賞している。


(変態!スケベッ!このっ、バカッ!早く服を着てよ!)

「ハッハッハ、これはもうオレの身体だからな、どうしようがオレの勝手だろ?」

(勝手な訳ないでしょ!ちょっとぉ、詐欺じゃないのコレッ!?)


 男が身体を奪った人物、名をフェイリースと言う。

 どうやら成仏できずに浮遊霊となったご様子。


「知らねえよ、なにか未練でもあるんじゃないか」

(未練も無いのに死のうとする奴なんて居ないわよっ!)

「まあ、自殺は地縛霊になりやすいって言うしな」


 詐欺よっ、人を騙すなんて最低よっ、て言い寄ってくるフェイリースを騙される方が悪いの一言で片付けながら何かを考え込む。


「さてと、ふむ…おいおい、殺人未遂かよ」

(あなた…私の記憶を!?)


 ヤメテッ!プライバシーの侵害よ!などと先ほどよりさらに暴れ始める。

 ちょっと周りの小物がガタガタ振動しているのは気のせいだろうか?

 あれがポルターガイストとか言う奴かな。

 などと考えながら少女の体を奪った存在は記憶を辿っていく。


「お、結構おバカそうな王子じゃねえか。これは誠意を込めて謝れば許してくれそうだな」


 記憶を辿りに王子の部屋へ向かおうとする。


「っと、その前に、どっか目薬はないか?」

(あなた、一体なにするつもり…)


 しかし、王子の部屋へ辿りついたところ、護衛の兵士に行方を阻まれる。


「お前を近づけるなと命令されている」

「私が悪うございました!お願いします!一言謝罪をさせてください!この通りです!」


 涙でグシャグシャになった顔を見せ、大声で泣き喚く。振りをする。

 髪をぼさぼさにし、大量にさした目薬で真っ赤になった目でさらに懇願する。


(ちょっ、ちょっと止めてよっ!なんてみっともない真似を!)


 一生懸命ポカポカと殴ろうとしてくるがすり抜けてダメージは無い。


「フェイリース…」


 そこへ騒ぎを聞きつけて王子が出てくる。

 少女は咄嗟に土下座をし頭を地面に擦り付ける。

 出来る限り無様な様を見せ付ける様に。

 半透明のフェイリースは魂が抜けたような顔をしている。魂だけに。


「先ほどは申し訳ありませんでした!なにとぞ、なにとぞお慈悲をっ!命だけはどうかお許しください!」


 普段のフェイリースから想像もできない哀れぶりに、王子が大慌てで部屋に招きいれる。

 部屋に入った後も泣きながら土下座を崩さない少女を見て王子がため息をつく。


「分かった。今回のことは不問にしよう。幸い現場を見たものは少ない。双方とも話題に出さなければ問題ないだろう」


 お人よしな王子様だ。中途半端な優しさが人を傷つける武器となるなんて考えもしないんだろうな。


「だが、今後僕達に関わることは許さない。立場上の付き合いは仕方ないが、お前から話しかけるのは禁止とする」


 そうかい、そいつは好都合だ。心配しなくてもこっちからはもう関わらねえよ。

 散々愛を囁いておきながら、新しい女ができたらすぐにポイッてな。

 一度優しくしたなら、最後まで面倒を見てやれよ。特に今の彼女。


 フェイリースの記憶から推測した王子の人となりは、万人に優しく、そして自分にも優しい、そんな人物に見えた。


 フェイリースの行いは確かに悪であっただろう。

 だがそれを、見て見ぬ振りをした周りの連中も同罪だ。

 特にこの王子、気に入った相手には手心を加えるタイプだった。

 それは、フェイリースが増長した原因の一つでもある。


「分かりました。今までありがとうございました。私は…しばらく家に自己謹慎しております」

「それがいい、僕もお前の顔を見なくてすむ。用事は終わったな、ならば出て行ってくれ」

「失礼致しました」


 しおらしく部屋を出ていく。

 部屋から出て扉が閉まったらそこへ向かってアッカンベーをしてやる。

 護衛の兵士がそれを見て驚いている。

 おっとしまったまだ護衛の兵士が居たか。


「おいっ、いつまで呆けてるんだ」


 自分の部屋についた少女は茫然自失の表情でふわふわ漂っているフェイリースに問いかける。

 反応が無い、まるで屍のようだ。って死んでんだっけかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る