第5話「小鬼」

 午後の病院は、多くの患者でみ合っていた。

 そうした患者たちの間をうように、若い医師や看護師たちが、足早に通路を抜けて行く。

 順番を待つ患者や付きいたちが、待合室の椅子に座り、大型テレビに映されたワイドショー番組を、興味半分のうつろな目で眺めていた。

 ワイドショーで流されるのは、何故だか嫌なニュースばかりだ。外国のテロや暴動、国内外の災害や汚染、短絡的たんらくてきな傷害事件や殺人事件などなど。

 時折ときおり気紛きまぐれのようにピンポオンとチャイムが鳴り響く。受付の呼び出し声に、自分だろうかと視線を上げて反応する待ち草臥くたびれた人たち――。

 それらの人々とは異なる所、日常と重なった並行して同居する世界では、赤や青の奇怪な小鬼たちが、静かにおどり続けているのだった。

 彼ら異形いぎょうの怪物たちは、声もなく、音も立てず、ただひたすらにまわしい舞踏ぶとうり返す。

 油断をすれば、彼らは踊る。

 人の黄昏たそがれかたわらで。


(おしまい)

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