第19話 BLT

町を出て、アキュベルの森へと続く平原を馬車で進んでいく。風が心地よく、温度もちょうどいい。なんと過ごしやすい気候だろう。

街で買ったものにサンドウィッチがある。僕はそのサンドウィッチを食べながら馬車を進める。もちろん、僕だけがサンドウィッチを食べるわけにもいかないので、彼女にもサンドウィッチを食べさせてある。両手に持ちながら「もきゅもきゅ」と音が出そうな感じで口いっぱいにほおばっている。


「そんな風に食べたら、汚いですよ?」

「にゃにがきたにゃうぃというんだ! 美味しいものというのは……口いっぱいに食べることで感謝ができるぅ……とうぃうものだぁ!」 

「ごにょごにょ調で、何言ってるか分かりませんよ」

「少しぐらいは聞き取れたみゃろ?」

「まぁ、少しぐらいは」


バカみたいな会話だけれども、これぐらいしか馬車に乗ってるとやることはない。

サンドウィッチの中にはハムと卵、レタスが入っているいわゆるBLTサンドってやつだ。いつも村で食べていたBLTサンドのハムっていうのは全く脂っこくないもので、ハムの感じも肉のようなものを加工したもので、お値段何と30マネだった。コーヒー1杯100マネなのだから、破格なのが分かると思う。だけれども、さっき買ったBLTサンドは250マネで、村だったらコーヒー2杯とBLTサンドが買えて20マネもおつりが返ってくる。それほど、さっき買ったBLTサンドが高価なものかがわかるだろう。

だけれども、このBLTサンド。彼女が言う通り、かなり美味しい。村で食べていたBLTサンドは、言ってしまえばただ腹を満たすだけのもので、正直味といったら、父親の靴底をかみしめている方がおいしいと言えるだろう。なにが不味いっていうと、マヨネーズかどうかは分からないけれども、ソースがかなり不味いんだよね。本当に、なんであんなソースを作ったのか。そして、なんであれを売ろうと思ったのか良く分からない。神経が狂ってるとしか言いようがない、そういう味なんだ。あの味を再現しろといわれると、なんだろうねぇ……土を混ぜても再現できなさそうだし、最悪生ごみとかそう言う感じのエキスを抽出すればできるのかもしれないな。匂いは、いいんだけれども本当に不思議なものなんだよ。


彼女の口元には、おいしいマヨネーズソースがこびりついていて、唇は厚いハムのせいで脂っこくなってテカテカと光っている。

丁度、ハンカチもあることだし手綱を持ちながら、彼女の方に近づき、口元を拭いてやった。


「何をするんだ!」

「女の子は、口元を汚してはいけないんです。呪われますよ」

「……そんな事、聞いたことないぞ」

「僕の村ではそうだったんです。そうだったんですから、僕と一緒にいるときは守ってください」

「めんどくさいやつだなぁ……ただ、他人に拭かれるのはどうも嫌だ。自分で拭かせろ!」


と言って、彼女は僕の持っていたハンカチを取り自分で口元を拭き始めた。


そう言えば、さっき僕は彼女にキスをされたんだなぁ……。契約とか何だか言っていたけれども、本当に良く分からないよ。

キスということを深く考えてしまうと、恥ずかしくなってしまう。だから、あれはそういうものだとして、今後彼女と接していこうと思う。


「なんだか、木が少しずつ現れて」

彼女が言う。


辺りは少しずつだけれども、木が現れるようになった。僕たちはアキュベルの森に入っていっているようだ。

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セルムーン はいむまいむ @haimumaimu

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