第17話 馬車に揺られて

馬車を走らすということは、教育生のころに何度もやったことがある。その当時はいかに早く武器を運ぶか、人員を戦地に送るかを手厳しく言われて一時期は馬を操ることに恐怖を覚えていた。

久しぶりに馬車に乗り馬を操ってみると、意外と昔の感覚というものは残っていて簡単に馬を操ることが出来た。昔のように急ぐこともなく、人もそんなに居ないし武器といっているけれども、武器とは程遠い容姿を持つ女の子がいるだけだ。


城がどんどんと後ろになっていくたびに、僕たちは静かになっていった。最初のうちは威張り散らしていた彼女も、初対面の僕に少し緊張を始めたのかわからないけれども、さっきからずっと外の景色を眺めているだけだった。

会話のない移動というのは教育生の時は当たり前だったけれども、こう二人だけの旅というときに会話がないのは少しつまらない。だけれども、彼女が緊張しているように僕も少しだけれども緊張をしている。ただ、彼女と一つ決定的な違いがある。それは、僕にはその緊張よりも前に、この状況を飲みこむというのが大きくなっているんだ。だから、僕は本当に緊張まで飲み込まれてしまっていて、一巡して冷静に慣れているんだ。


今馬車で通っている道は、さっき兵士の人と一緒に馬車に乗って城へと向かってきた道のが逆方向だ。僕たちが目指すのは、とりあえず海だから途中の街のエクシティウムという町まで行かないといけない。僕たちの国というのは、帝国軍と戦っていたのもそうだけれども、国内の中でも少しだけれども争いが起きている。その争いのせいで、海のほうへ行く際には途中の町のエクシティウムで、海のほうへ行く時通る関所の交通許可証を入手しなくてはいけないんだ。基本的には身分証があるものは全員許可証を発行してくれるので、そこまで困ることはないけれども、さっさと自国内なのだから自由に行動ができるようにしてもらわないと困る。一回一回途中の町に寄るなんてこと、急ぐ旅ならば絶対にしないことだよ。

急ぐのであれば、その近くの町だけによる。それが普通なはずだ。


エクシティウムはこの道をまっすぐ行ってアキュベルの森というところを東に行った先にある。アキュベルの森というのは、これまた伝説上の話があって昔この森にはアキュベルという心優しき巨人がいたというのだ。その巨人は人々に優しく接していたが、あるとき心の悪い人間に殺されてしまい、命を落としてしまった。人々はそれに悲しみ、この森の真ん中にアキュベルの墓を作り、彼のことを忘れないために森に彼の名前を付けたというわけだ。勇者伝説よりかは、話の内容はしっかりとしている。まぁ、巨人っていうところは話がぶっ飛んでいる気がするけれどもそこらへんは伝説ということで片がつくだろう。

アキュベルの森は、南北に延びる道つまりは今通っているこの道であれば、途中に警兵などが待ち構えているので比較的安全に通行出来るけれども、東西に延びる道は盗賊の道と呼ばれるほど盗賊が出没する道になっている。

どうにか、盗賊と出会わないようにと祈るけれどもどうなるかは分からない。


彼女の方を見てみる。彼女は、お腹いっぱい食べて馬車の心地いい揺れに揺られそれにつられてやってきた睡魔に攻撃を受け、眠ってしまっていた。これでも勇者の武器だというのだから笑ってしまうよ。

勇者の武器が、睡魔如きの攻撃にやられてしまうんだ。先が思いやられるよ。

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