第14話 食事
今、食卓には面白い光景が広がっている。多分、この国の歴史においても初めてのことだろう。
まず、王様が肉をナイフで切り、勇者がそれを見ながらパンを食べる。そして、その勇者の武器が「あの娘がかわいいから」という理由でメイドの人が作ってくれたオムライスを食べている。たびたび王様が武器に対して「何か飲み物いりますか?」と聞き「うん、大丈夫」と武器が返す。僕は、武器の口が汚れていたら布でふいてあげることにしている。
「口の周りが汚れてるぞ?」
「あんまり強く拭くな……」
拭かれて少し嫌そうにしているけれども、声はどこかうれしそうに聞こえた。
料理は本当に豪華で、とても美味しくこんな機会がなければ、多分一生食べることが出来ないようなものだ。こんなものを王様は毎日食べているんだから、本当にうらやましいよ。
「勇者、お味のほうはいかがかね?」 王様が、王様的な口調で聞いてくる。
「とてもおいしいですよ」
「おぉ、それは良かった」
食事は続く。彼女のほうはオムライスを食べ終わり、これまたメイドの人が特別に作ってくれたパフェを食べて笑顔になっている。チョコレートが口の周りを汚しているので後でふくことにしよう。
王様と僕も食事を終え、コーヒーを飲んで落ち着いている。
…………。
何をしているんだ? こんな風に落ち着いてちゃいけないだろ。なに、呑気に食事をとっているんだ。王様も王様だ。コーヒーなんか落ち着いて飲んじゃって……現状は良く知らないし、まだあんまり信じてはいないけれども危機的状況下なはずなんだろ? それなのに、なんでこんな風に落ち着いていられるんだろうか? 僕は、てっきりさっさと魔王を倒してこいだとか言われて、出かけさせられるのかと思っていたからちょっと今、どうしたらいいか分からなくなってきたよ。
「王様、こんなに呑気に食事をしていてもいいんですか?」
僕は、王様に聞くことにした。しっかりとこう言うことを聞いておかないと、ダメだからな。
「……そうだよね。やっぱり、ダメだよね」
薄々気づいていたのか王様。そうです、その通りですよ。こんなのおかしいですよ。この世界の危機とか言っている中心の人がこんな呑気に食事してちゃダメですよ。
王様はとりあえず冷静になるために冷水を飲み、彼女に声をかけた。
「月の武具、アルミリィア。そろそろ、勇者と魔王討伐に出てはくれないだろうか?」
王様は、かなり冷静な落ち着いたトーンで彼女に言った。
「そんな時間? ……めんどくさいけれども、行けっていうんだったらいくわよぉ」
本当にめんどくさそうにそう言った。腹は立ちはしないけれども、王様にこんな風に言えるのは彼女ぐらいだろう。
「勇者。めんどうだからさ、さっさと契約を済ますぞ」 頭を掻きながら、彼女は僕の役職を呼ぶ。
「契約? 契約ってなんですか?」 契約という言葉が気になったので、聞いてみることにした。
「……本当に何も知らないんだ。さすがエルマレルの末裔っていった感じね。いいわ、教えてあげる」
そういうと彼女は、「コホン」と咳払いをして、説明を始めた。
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