第12話 16

「おい、勇者」

「なんですか?」

「飯は、まだなのかぁ?」

「まだじゃないんですかねぇ」

「そうか……あっ! そこをもう少し強く」


なんで、僕こんなことをしているんだ? 本当だったら今日は、というか兵士の人が僕の家に来て僕をこんなところまで連れてこなければ、今頃は父親と一緒に嫌々ながらも畑を耕していたことだろう。それはとても社会的な行動で、生産的な行動で、人としては正しい行いだと思う。

だけれども今の僕は、幼女のご飯が届くまで、少女の肩を揉んでいる。さらに言うと、この少女は月の武具という武器らしい……。

ダメだ。頭の処理能力が追い付かない。なぜ、武器が幼女の姿をしていて、飯を求めてさらには快楽を求めている。王様の話を聞く限り、月の武具というのは勇者が使うものだ。それであれば(暫定的)所持者である僕の指示に従っている方が、自然と言えるだろう。だけれども、彼女はその指示を言わせる隙も与えず、ただ僕に「ここを揉め」、「強く押せ」としか言ってこない。

もう一度聞きたい。なんで、僕はこんなことをしているんだ?

僕は、まだ疑っているけれども勇者という体でここに召喚されているはずだ。それなのに、勇者の仕事といえば勇者が所持する武器の肩もみだ。もちろん、武器の手入れは勇者じゃなくても大事なものだとは知っている。だけれども、何も最初からそんなことをする必要はないはずだ。勇者はおろか王様も使うところを見ても、この武器の邪悪さを感じる。


「……なぁ、勇者」

「はい?」


彼女は尋ねてくる。


「お前から見て、私は何歳に見える?」

「これまた直球な質問ですね」


正直言って、年齢って彼女に関しては何を基準に言えばいいんだろう。基準と言っては語弊があるけれども彼女にとって年齢とは、製造年なのか、それとも本当に彼女が人間で生まれてきた日からなのか。そこらへんが気になってくるところだ。


「どうだ? 勇者よ」

「う~ん……7歳ぐらいですか?」


とりあえず、見た目からマイナス6歳ぐらいの年齢を言ってみた。


「そんなに幼く見えるのか? もう少し努力をしなくてはなぁ……」


一体、何の努力をするのかは分からないけれどもとりあえず、何か意識しているということは分かった。


「いったい何歳なんですか?」 なんで俺は敬語を使っているんだ?

「知りたいか?」 彼女は、声色を優しくして聞いてくる。

「そりゃ、まぁ知りたいですね」


数秒間の沈黙が流れ、少し彼女が顔に真っ赤になったと思えば、彼女は顔を振り熱を冷ました。そして、彼女が口を開いた。


「私は……16なのだ」

「16……ですか?」

「何か、おかしいか?」

「いや……そういう訳じゃないんですけれどもね」


そう言うわけじゃないんだけれども……彼女、僕と同い年なんだね……。


「お待たせいたしました! 食事の方が完成いたしましたので、準備の方をさせていただきます」

大きな声が、食堂全体に鳴り響いた。

部屋の外の方を見てみると、メイドさん達が台車?の上に料理を乗せて、僕たちの方をじっと見ていた。そして、その中に王様が紛れていた。一体、王様は何をしているんだろう。

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