第11話 食堂

『勇者よ、私はこの怒りをどこにぶつければいい?』

「その体でどうやってぶつけるっていうんですか?」

『あまり私を見くびってもらっては困るぞ、勇者』

「?」

『今、お前が見ている私の姿はただの武器の形しか見えないだろう。もちろん、これも私の姿の一つだが、真の姿とは全く違うものなのだよ』


なぜか、すごく自慢げに言ってくるけれども僕の心に響くことはない。


『さぁ、見よ! 王と勇者よ。私の真の姿を!』


すると、上で静止していた月の武具が発光をし始め、ついには目を隠さないと目が痛くなってしまうほどだった。光が収まり、目をゆっくりと開いて月の武具が浮いていた場所を見ているとそこには月の武具はなかった。


「おい! 王と勇者よ。どこを見ているのだ?」


月の武具がなくなっても声は聞こえた。僕は月の武具が浮いていた場所から一直線に下に目線を移した。するとそこには、背の小さいいわゆる魔法使いの格好をした女の子が立っているじゃないか。


「なぜ、そうも私をじろじろと見るのだ?」

「いや、まさかと思うけれども、君が月の武具の真の姿なの?」


彼女は、僕よりも背が低くく、幼い印象だ。そして、何よりも、彼女の着ている服が彼女の体の大きさにあっておらず、少しぶかぶかで面白い。

王様も、彼女の姿に驚いて目を丸くしながら見ている。


「いかにも! 私は七月の武具の一つ、アルミリィア。人名としては、リベラシオン=アルミリィアだ」


「「人名?」」


「人名があってはいかんのか?」


いや、そういう風に言われてもそもそも武具に人名があるなんて、考えもなかったし、そもそも人なのか?


「とりあえず、私はお腹が空いたぞ。王よ、飯を準備させろ」

「えっ? あっ、はい」


王様も混乱しているようで、敬語になってる。


「あと勇者」

「はい?」

「私は、お前たちを待っていたからかなり疲れてしまった。肩を揉め」

「えっ?」

「はよしろ」

「はっ、はい!」


やばい、怖いわ。この月の武具、リベラシオン=アルミリィアって子は……。



                 〇


僕と王様と彼女はとりあえず食堂へと移動した。そして彼女が席に座り、王様が下の人達に料理を作るように指示を出しに行って、僕は彼女の肩を立ちながら揉んでいる。

ここで一つの疑問が浮かび上がったら、それは頭のいい証拠だ。もちろん疑問が思い浮かばなくても、安心してくれていい。

僕たちは元々、月の間に居たんだ。そして、今僕たちが居るのは城の食堂。もっと言えばエルメンターにのって下にある食堂にやってきたんだ。

本来であれば僕と王様は、このすごく貴重で大切なもの(良く分からないけれども)を壊さないように、大切にするために何かしらのアクション、つまりは彼女を外に出さないようにするべきなんだけれども、なぜか僕たちは今食堂に居る。

それはなぜかというと、すべてこのアルミリィアという子の性格がもたらしたものなのだ。

彼女は「食事をするならやっぱり食堂じゃないと! そこでついでに肩を揉んでもらえばいいんだし」と言って、月の間をさっさと出ていってしまったのだ。これに驚いた僕と王様は彼女を追いかける形で、月の間の封印をせずに王の間を通り過ぎて、彼女がエルメンターに勝手に乗り込むと、僕たちもそのエルメンターに乗りこみ、彼女がエルメンターを食堂のところまで操作すると、僕たちはそれをじっと眺めていて、エルメンターが到着して食堂へ向かいついた後も、すべて彼女の後についていくだけだった。彼女の行動力もすごいが、この城の地理を完璧に把握しているところを見ると、色々と新たな疑問も芽生えてくるものだ。


「勇者よ、そこはツボでは無い」

「そうですか……こっちはどうですか?」

「おぉ……これはなかなか」


この幼女は、おっさんなのか?

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