第9話 月の武具
〇
王様に「ついてきたまえ」と言われて、従わないわけにもいかないので黙ってついていく。王の間は、細長い長方形の部屋で王の席? からそのまままっすぐ行くとさっきこの部屋までくるために乗っていたエルメンターがある。そして、王の席の奥の方にもまだ空間があって、そっちの方へ僕と王様は歩いていった。
そして、突き当たりの壁が目の前に現れた。
「普段であれば、この壁は素直にその役割を果たす」
王様が勝手にしゃべり始めた。
「しかし、私がその部屋に入る際には壁の役割では無く扉の役割を果たすんだ」
そう言うと、王様は壁に手を当て「王の称号のもの、今ここに在り」と呟いた。
すると扉の奥の方でガタッという音が聞こえ、壁は押し扉のように奥へと開いた。
「さぁ、入ろうじゃないか。この壁の向こう側。王と勇者しか入れない月の間へと」
壁の向こう側の世界に足を一歩踏み入れてみる。さっきまでの神聖な感じとはうって違って、なぜだかわからないけれども懐かしい感じがした。
月の間と言われるこの部屋は、火を灯してもいないのに明るく部屋の真ん中に机が置いてあるだけだった。
そして、僕と王様はその中心にある机に向かって歩き続けた。
机のところについたとき、王様がこう言ってきた。
「今更なのだが、君はまだ勇者伝説のことをただの空想上の話だと思ってはいないか?」
僕の図星を点くその質問は、僕にとっては厳しい質問だった。
「……確かに、僕は勇者伝説のことは空想上の話だと思っていますよ」
ここで変に嘘をつくのは何か間違っていると思ったので、僕はとりあえず今自分が本当に思っていることを王様に伝えた。
すると王様は「はっはっはっ!」と笑い、「やはり君は本物の勇者だ」と言った。
「私はね、この王の職位に着いてからもう二十年近くになるんだ。だけれどもこの月の間の存在を知ったのは魔物が攻めてくるようになってからのことだったんだ」
王様なのに、城のことを細部まで知らないのは少し危ないと思うけれども今はなにも言わないでおこうと思う。
「そしてね、その月の間の存在を教えてくれたのは私の父、つまりは先代の王では無かったんだ」
先代の王じゃなかったんだな。
「存在を教えてくれたのは、不思議なことに君の先祖である勇者エルマレルだったんだ」
「は?」
やばい。ここまで王様の頭が逝かれているとは思っていなかった。とうとう、現実と幻想の違いまで分からなくなってしまったのか?
「私が魔物が出現し、少なく弱い軍勢を出撃させ、何人も無駄な死を出していることに悩んでいたとき、さっき手を当てていた壁の近くに白い影が見えたんだ」
「白い影?」
「そう、白い影だ。私は、その白い影のほうへ行ってみたんだ。すると、その白い影は人の形、いや人そのもので私は驚き尻餅をついてしまったんだ」
王様でも驚いて尻餅をつくことがあるんだな。
「するとね、不思議なことにその白い影が手を貸してくれて、私はそれで立ち上がることが出来たんだ。そして、その白い影はしゃべり始めたんだ。『私はエルマレル』だって」
はは。面白いことを言うな。
「そして、その白い影は壁に手を当てて『勇者の称号のもの、今ここに在り』といってさっき見たいにこの部屋に入っていったんだ」
……。
「私が初めてここに来た時からこの机は置いてあって、その白い影は私に色々と教えて消えてしまったんだ」
「色々と教えて?」
一体、白い影は何を王様に教えたというんだ?
「この部屋の入り方、この部屋に入れる人間。なぜこの部屋が作られたのか……」
それとかは何となく分かる。
「そして、ここに今の勇者の末裔が現れた時に判別する方法と、その勇者の末裔が本物だった時に渡すもの、とかを教えてもらった」
「そうなんですか」
「さっき、君に聞いたのは本物の勇者の末裔を判別するために聞いただけだ。そして君は見事に、本物の勇者だということを実証してくれた。本当に助かるよ」
実証も何も、僕は今思っていた気持ちを話しただけなんだけれどもなぁ。
「そして、君に渡したいものがある。白い影、多分エルマレルが言っていた、というか預けていったものを」
王様は机に手を当て、壁と同じようにつぶやいた。
「王の称号を持つ者、今ここに在り。静まりし聖なる武具を、今ここに」
言葉をつぶやき終わると、机が光始め、魔法陣のようなものが目に見えるようになった。
「勇者アウィッツよ。今ここに、君の、君のための魔のものを打ち砕く武具が現れる!」
魔法陣のせいなのか、その聖なる武具の魔力のせいなのか、そもそも地震が起きているのかは分からないけれども、城全体が揺れ始め立っているのもつらくなった。
四つん這いになり、揺れが収まるのをまってみる。その間机の方に目をやっていると、上の方からその聖なる武具が降りてきてきた。
「さぁ、勇者よ! これが伝説の武具。勇者の武具である、月の武具だ」
月の武具…………。
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