第6話 魔法の篭≪エルメンター≫

「今更なんだけれども……」

馬車を降りて、いつもと違った空気に触れ少し心を高ぶらせていたんだけれども、兵士の人の一つトーンが低い声に、これまた心を|驚かされた。


「何ですか?」

「勇者の末裔というのは……君が伝説上であったとしても君も認めるんだよね?」

「まぁ、そうですね」

「それならいいんだけれども……君の名前って何?」


そう言えば、名前をまだ言っていなかったな。なんか、勇者の末裔だって色々言われていて、他に考えることなんてしなかったからな。


「僕の名前はですね、アウィッツと言います。アウィッツ=エルマレルです」

「アウィッツ……北東の方言で強いという意味か……」

「それは言わないでください」


名前のことだけは言わないでほしい。親からもらった名前だから一応は大切にしているつもりだけれども、それにしても単純に強いっていう意味の単語をつけられても……ってはなしさ。


――― 


「我が城の主。我が国の主。べスタート=アルファンタ=コフィル三世陛下に対し、わが兵より、使いの謁見を申し立てます」

「我が城の主。我が国の主。べスタート=アルファンタ=コフィル三世陛下より、話を伺っております。王の間へ直接向かってください」


「……なんですか、あの堅苦しい言い方は?」

「あれはね、この城の一種の警備システムみたいなもんなんだ。あぁいう風に堅苦しい言い方をすることによってね、城の関係者を識別してるんだよ」

「なるほど」


僕は、馬車に降りた後まず村で迎えに来た五人の兵士と一緒に城へと入城した。そして入場するときに十人、兵士が追加され、城の内部の警兵室のところで兵士の代表(馬車の中で話をしていた人)が王様のところへ行く許可を取ってくれて、それでまた警兵が五人加わった。

総勢二十人の兵士と警兵と一緒に、王様のところへ行くなんてそうそうないだろう。ましてや罪人でもないのに、こんなに武装している人間に囲まれるなんて生まれてこのかた考えたこともなかったよ。



王の間までは階段を登っていくのかと思っていたけれども、なんか大きな篭みたいのに乗り込んで、それで王の間に行くらしい。

城の中というのは、僕個人の想像なんだけれども、煌びやかで無駄な装飾があって、色としてはイメージカラーは赤色で、銀色の鎧がいかにもな感じだと思っていたんだけれども、実際の城の中身は何もなくて結構つまらないもんだな。


「アウィッツさん。この篭の名前を何と呼ぶか知っているか?」

「知りませんね」


篭の中は確かに広さはあるけれども、こんなに大量の人がいたら空気も空間もきついものがある。その中であの兵士さんは軽い感じでこの篭の話をしてきた。


「この篭の名前は、エルメンターと呼ばれる魔法装置なんだ。さすがに、教育兵として勉強をしてきたんであれば、魔法の基礎知識ぐらいは知っているよな?」

「まぁ、嫌ってほど勉強させられましたからね」


この世界は、人間が自由に暮らせる世界だ。もちろん、今のところという制約がつくけれども、僕としては不便のない暮らしができる世界だ。

元々はこの世界は魔物が支配していて、かなり人間に対して恐ろしいことをやっていたようだけれども、魔物から解放された今の世界でも魔物が支配していた時の遺物が残っている。そしてその遺物は意外にも、この世界に対して良い影響を及ぼしているものなのだ。


そう、それこそが魔法だ。

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