第5話 兵士の震え
馬車の中には僕の他に兵士が一人いる。
王様のところにつくまでかなり時間がかかるので、この兵士の人と色々と話をしていた。最初のうちは、勇者の末裔の話から始まって、今では最近の兵士の家族の話とか上司が面倒だとかを兵士の人が愚痴ってきている。いつもであれば聞くのが面倒な話でも、今だと面白い愉快な話に聞こえる。
馬車からかすかに見える景色は、田舎だった僕の住んでいた町を離れていくたびに草原や水辺そして大きな町へ様々に変化していった。
その変化で、僕はあることに気づいたんだ。どんどんと王様のところに近づいていくと、その分だけその街の雰囲気が暗くなってきているということだ。
何といったらいいかわからないけれども、つまりはそこの町で生活している人達がなんだか暗いんだ。
時おり、休憩のために街に寄ったりしたけれども、その町の人達はそう言う土地柄なのかもしれないけれどもかなりよそよそしい感じで、対応をされた。決して印象が悪いだとかは思わないけれども、こんなこと徴兵の時にはなかったし、少し不思議に感じた。
だから僕は兵士の人に聞いてみることにしたんだ。どうして、王様のところへ近づくたびに、こんなに街の雰囲気が暗くなっていくのかと。
すると兵士の人は驚いた顔をして、少し暗い声のトーンでこう話してきてくれた。
「そうか……君の町にはまだ届いていなかったのか。それなら、なぜ勇者の末裔が必要かも分からないよな」
そう、言われたので「どういうことですか?」と聞き返した。
「……事の始まりは、君も徴兵されたときに起きていた第六次セルムーン戦争の事件だ。戦争というのは何か知らの犠牲がつきものだが、我々は出してはいけない犠牲を生んでしまったんだ」
「出してはいけない犠牲?」
「君も、教育生のころ教わっただろう? この国の歴史。この世界の歴史。そして、人類の歴史というのを」
「魔物が支配していて、七人の勇者がその支配を解放させたっていう伝説の話ですか? それなら、何度も教育されましたけれども」
「……それが伝説であれば、犠牲は生まれなかったのかもしれないな。俺も、最初その話を聞いたときは耳を疑ったさ。俺だって、伝説として教わったんだからな」
兵士の人は、話すたびにどんどんと強張った表情になっていく。
「戦争での戦闘の際に、何かの拍子でその……魔界への扉を封印していたものが外れてしまい、魔界からこちらの世界へと魔物が侵攻してきているから、調査に行ってこいって王様に言われたんだ」
「……はい」
「だけれども、伝説として俺も教わっているわけだから王様も戦争のせいで疲れておかしくなってしまったんだなって、その時は思っていたんだけれども、王様の命令には背くことが出来ないから、とりあえず現地に急行したんだ」
兵士の人の表情は、徐々に暗くなっていく。
「王様曰く、魔物が進行してからは急いでアルカラ帝国との休戦協定を結んだといっていたけれども、現地に急行していくほかの奴らは、妄言だとかって言っていたんだよ。俺もそう思う一人だった。王様といっても、もうかなりのお歳だからな。それは少し幻覚をみてしまうかもしれないってね」
「はい」
「それで、現地についてよく見てみると、王様の言っていた通りセルムーンでの人間同士の戦いは行われていなかったんだ。これで休戦協定を結んでいたといことは、正しいと理解できたんだ」
「はい」
「そして、もう一つ正しいことがあったんだよ」
兵士の人はついに体と声を震わせて、こう言い始めた。
「セルムーンの町に、魔物が現れていて。そして、人間と戦っていたんだ……」
僕には、まだ分からなかった。兵士の人にこれだけの話をしてもらった後なのに、まだ、その話が信用あるものとは思えなかったんだ。だって、いきなり魔物とか魔界への扉とかっていわれても、普通の人間は信用できないだろう。そんな伝説、つまりは偽りの情報を羅列されても困るんだ。
そんなことを考えているうちに、兵士の人はちゃんとした表情に戻り、窓から外の景色を確認した。
そして、兵士の人が言った。
「とりあえず、ようこそと言っておきます。ようこそ、べスタート王国の首都カーラスの中央のカーラス城へ」
ついに僕は、王様の待つところに着いてしまったんだ。
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