終わる世界と始まる世界

 硝煙が舞うーーー

 血飛沫が飛び交うーーー

 劈く轟音が世界に吸われて消えていくーーー


「おい、ライア……! そいつはもうダメだ! 早く行かねぇと!!」


 分かっている。

 彼はもう死んだのだ。

 もう何人目だろうか。


「......行こう? 私達も早く、みんなと合流しないと」


 隣で少女が励ます。悲痛な叫びを噛み殺すように。


 世界に打ち込まれた大量破壊兵器、それを発端とした破滅と混沌の連鎖。


 あらゆる地域は、戦場と化していた。


 ライア達の戦場はニューフロンティア跡地。

 ここはもともと、大都市の一部であった。しかし、科学技術の進歩により栄華を極めた都市は今では悔恨と怨嗟の轟く頽廃した廃墟でしかない。

 12歳にして両親を亡くした少年ライア・グレーサーは統制軍に拾われ、人数不足の小隊に組み込まれる形で今日まで生きてきたのだった。


 だが、100人ほどいた隊員は今では3人しか生き残っていない。


 ライアの隣を進む少女の名はアイリ・アルフィール、ライアと同じ孤児であり、隊に入った頃からの幼馴染である。

 2人の後ろを哨戒しながら歩く少年の名はジェイク・アンドレア、彼もライアの腐れ縁の幼馴染であり親友であった。

 奇遇にも生き延びた3人は別部隊と合流するために動いている。


 ーーー戦争はもう終わる、いや、終わらせる。ニューフロンティアを制圧すれば、この辺り一帯は安全圏になる!


 隊長はそう言っており、これが最後の任務になるはずだった。こんな結末は誰が想像しただろうか。


「見えたぞ、あの旗は友軍だ! 生き残れるぜ、俺たちは!」


「・・・っ! 助かったの?」


 3人の間で僅かに緊張が解ける。

 俺たちは生き残ったんだ……。

 この時はそう、思っていた。


 ***


 ーーー拠点は閑散としていた。


 味方の気配は感じられない。やはりここも全滅してしまったのだろうか?


「おい嘘だろ!? ここの第3小隊は指折りの精鋭ぞろいじゃなかったのかよ?」


「ジェイク、静かに。敵に聞こえるわよ?」


 そう言うアイリも動揺を隠しきれていない。

 第3小隊は数ある小隊の中でも正規軍人を集めた精鋭部隊だ。

 それが全滅したとなれば本格的に自分たちの生還の目は薄くなる。


 ーーーいや、何かがおかしい。


 夥しい量の敵のか味方のかも分からない血痕はあれど、死体はまったく見当たらないのだ。

 この状況で死んだ仲間を埋葬する余裕があるとは到底思えない。

 だとしたらなぜ……?

 

 刹那、後ろから強烈な閃光が走った。3人はそれぞれ戦闘に備え小銃を構える。現れたのは黒衣を纏った人影だ。


「動くな!! 所属と名前を教えて貰おうか!」


 ジェイクが叫ぶ。

 しかし、人影は怯む様子もなくこちらへと足を進める。


「くっ、悪く思うなよ!!」


 銃声と共に凶弾が放たれる。

 だがーーー


「おい・・・? 今当たったよな・・・?」


 人影は微動だにしない。銃弾は確かに命中したはずなのに。

 違和感と恐怖が場を支配する。

 と、次の瞬間ーーー


 ジェイクの銃を持つ左手が鮮血と共に宙を舞った。


「ぁあああぐぁぁっ、腕がぁぁぁっ!!」


 あまりに唐突な出来事にライアもアイリも身動きが取れない。

 そして、ジェイクの腕を弾き飛ばした張本人であろう人影もまた微動だにしないのだ。


「……くだらん………!!」


 人影の声が空間を裂く。

 初めて発せられたその声は凄まじい重圧をばら撒いた。


「所詮は偽りの力なり……! 滅ぶべくして滅ぶのだ…………!」


 その人影ーーーもとい男は右腕を高々と振り上げる。


「我が名はダルグレイ!! 再醒使徒が三柱!! 愚かなる怠慢の民よ!! 無力を知りて塵と消え行け!!!」


 ダルグレイの右腕が光り始める。


 ーーー絶望はまだ、終わらない……


 ***


「クソったれが、何なんだよこいつは!!」


「動かないで、今止血するから!」


「また仕掛けてくるぞ!! 俺に構ってる場合かよ!!」


 ダルグレイの右腕は光り続ける。一体ジェイクは何をされたのだろう?


 ーー考えろ! さっきジェイクが攻撃された時、奴の腕は光っていなかった……!


 自然に体が動く。

 2人を守らなければ……!!

 突然、ダルグレイの右腕が光を失う。


 ーーー来るッッ!!


 ライアは猛然とダルグレイに迫る。恐怖など感じる余裕も無い。


「小賢しい……!!」


「ライアっ、ダメっ! 殺されちゃう!」


 ーーー分かっている。


 奴は強い。いや、そもそも次元が違うのだ。

 言うなれば“魔法”のような“何か”を使っている。銃弾は確実に奴を捉えていた。

 だが、“何か”によってそれは弾かれた。

 正攻法じゃ通じない相手だ。こいつが相手なら第3小隊の全滅も頷ける。


 だが…………!!


 ーーー試してやるよ、お前みたいな化け物に、俺の拳術が通じるのかをな!!


 ライアはアイリ達から離れる軌道を通ってダルグレイに迫った。

 そして、ダルグレイが右手を翳した刹那、小銃を投げつけて左に大きく跳躍する。

 先程、ダルグレイとジェイクは真正面に対峙していた。

 つまり、奴の攻撃は正面にしか当たらない……!

 

 予想通り、奴の“魔法”で投げつけた小銃が真っ二つに分解された。


 だがーーー


 ーーー今、奴は隙だらけだ。

 ーーー奴の守りが防弾チョッキのような物なら、俺の拳は通るはず。

 ーーーそれでもダメなら、関節技を極めてやる。


 交錯は、一瞬だった。


 次の瞬間………

 ライアはダルグレイの眼前で動きを止めた。左腕に強烈な熱さを感じる。見ると、腕から肩にかけて大きく肉が抉られていた。激痛に思わず悲鳴が漏れ、後ろからアイリが叫ぶのが聞こえる。


 奴に、触れることすら叶わなかったという事実による無力感で気が遠くなっていく。

 

 ーーー所詮この程度かよ、俺はッッ......!!


 

「うおおおおっっ!!!」


 突然の叫びに意識が戻る。飛び出したジェイクがミリタリーナイフを片手にダルグレイに斬りかかっていた。


「この腕の代償はきっちり払ってもらうぜッ……! おい、ライア、ボケっとしてんじゃねぇ! アイリを連れてとっとと先に行け!」


 ーーー何を言っているんだ、こいつは。それじゃあまるで死ぬつもりみたいじゃないか……!


 ジェイクは極度の興奮状態にあるのか、激痛を感じさせない動きでダルグレイに迫る。

 ダルグレイはさっきの“魔法”を切らしているのか避けるのに精一杯だ。

 だが、ジェイクは大怪我を負っている。

 

 ーーー見捨てて行ける訳がないだろ!!


 そう言おうとしてジェイクに遮られる。


「俺は必ず生きて追いつく!! それまではお前がアイリを守れ!! 俺のしぶとさはお前が一番知ってるだろうが!!」


 そしてーーー


 ライアはその言葉に従った。

 あの大怪我で無事に済むはずがないことは分かっていた。

 友を見捨てたのだ。


 ーーー約束だ、生きて戻れよ! ジェイク!!


 自分は何を言っているのだろう。

 友を見捨てたくせに。

 ただこの場から逃げたかっただけのくせに。

 完全に自信を喪失したライアにはそんなことを考える暇も無く、アイリの手を引いて走り出した。


 ーーーもう、何も考えていなかった。

 ーーーただひたすらに走った。

 ーーー何も考えずに。

 ーーー何も考えられずに。

 

 俺は一体、何をーーー


 気がつくと、袋小路に入っていた。


 後ろを振り返る。アイリはまだ生きている。

 安堵と共に疲労が襲いかかる。


 「......大丈夫、ジェイクがこんなところで死ぬはずないもの」


 アイリは自分に言い聞かせるように言う。


 ーーーわかっているさ、あいつは死なない、死なないはずなんだ。


 2人とも、精神状態は限界に近づいていた。

 だが、まだ止まれない。

 ジェイクは敵を煙に巻くのに長けた男だ。ここで立ち止まっていては、先を越されるかもしれない。

 アイリの手を引いて、さらに進もうとする。


 だがーーー

 異変は訪れる。

 正面に立つアイリはライアのことを見ていない。

 否、ライアの後ろにいる“何か”を見ているようなーーー

 アイリの瞳は、小刻みに震えていた。


 彼女の瞳に強い光が反射する。


「憐れなる愚物共よ……! 滅びの定めから逃れる術など無い……!!」


 ーーーなぜ、この声が聞こえる。

 ーーーなぜ、お前は此処に居る。

 目を背けてきた現実が束になって襲いかかる。

 閃光が、弾けたーーー




 数刻前ーーー


 ジェイクは全身から血を流しながら、それでもダルグレイに飛び掛かる。

 否、それはもはや纏わりつくと言うべき状態であった。

 ダルグレイはそれを振り払うのみで止めを刺そうとはしない。


「憐れな愚物よ……! 無力な自己犠牲ほどの無様はあるまい……! 貴様には介錯の価値もない……! 苦痛のままに滅ぶがいい……!!」


 ダルグレイは歩みを止めない。

 だが、ジェイクは最後の力は振り絞り、ダルグレイの腕に絡みつく。


「問おう……。 貴様は何故我に挑むか……? 貴様はもう滅ぶのみ……! 自ずから苦難を選ぶ必要はあるまい……!」


「ふざっ…けんなよ…俺は…テメェを倒して…あいつらに…合流…す…るんだよ…俺が…倒れたら…あいつら…に…追いつけねぇ…だ…ろうがぁ………」


 ジェイクは薄れ行く意識の中で叫んだ。


「笑止……! 問うた我が浅はかなり……! 所詮偽りの愚物よ……! 終焉の地で一人果てるがいい……!!」


「待ち…や…がれ…こ…のクソ…野…郎……俺は…まだ………………」



 一筋の閃光が走る。



 ーーー拠点はまた、静寂に包まれる。


 荒れ果てた地には骸は決して残らない。

 残るのはただ、血痕のみ……。


 ***


 ライアは突然の衝撃で我に返る。

 誰かに突き飛ばされたのか?

 ふと見上げるとアイリが微笑んでいた。

 子供を見つめる母親のように。


 ーーーそして、ライアは気づく。


 アイリが自分を庇っていたことに。

 アイリの胴には大きな風穴が開けられていることに。

 吹き出した鮮血は、アイリの白い服を染めてゆく。

 その深紅の模様はまるで、いつの日か2人で絵本で見た、薔薇のようで...

 ライアは突然の出来事に混乱して声が出ない。


「よかっ…た…」


 ーーー嘘だろ…?


「やっと…ライアを…守って…あげられた……」


 ーーー誰が守ってくれって言った?


 アイリはいつも花が見たいと言っていた。

 汚染されたこの世界では見ることできない綺麗な花を。

 アイリは地に崩れ落ちた。


 皮肉にも、鮮血の薔薇を胸に抱きながら...。


 ***


 ーーー待ってくれよ。

 ーーーお前も俺を置いていくのか?

 ーーー俺達はずっと一緒だって約束したじゃないかよ……!


 ライアがアイリと出会ったのは6年前のこと、アイリが孤児になってから食事にありつけず、空腹で倒れていた所をライアに救われ、行動を共にするようになった。

 その後、隊に配属されたあとも縁は続く。アイリは体があまり強くなかったので、戦闘においては専ら守られることばかりであったが、日常においてはしっかり者であり、ライアとジェイクの母親代わりのような存在だった。


 彼女はいつも言っていた。


「もっと強くなって、ライアもジェイクも私が守ってあげるんだから! 私たちはずっと一緒にいるんだから何時までも足を引っ張れないもんね!」


 ーーーそんなことは求めちゃいない。

 ーーーただ、君がそこにいてくれるだけで、俺たちには十分だったんだ……。


 ライアは崩れ落ちたアイリを抱きしめる。彼女はこんなに軽かっただろうか。女の子に体重の話は禁句だ、と言われたことを思い出す。


「ライ…ア…大丈…夫…だよ…泣か…ないで……ね…?」


 ーーー嫌だ

 ーーー嫌だ嫌だ

 ーーー嫌だ嫌だ嫌だ

 ーーー嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 あああぁああああッッ!!!!


 ライアの押し殺していた感情がジェイクを失った痛みと共に蘇る。


 ーーー俺を、1人にしないでくれよ。

 ーーー俺は強くなんかないんだ。

 ーーー俺を守ってくれよ。

 俺の傍で、ずっと…………!!


「い…いよ…ライ…ア…のこと…ずっと守って…あげ…る…だから…1つ…私…のお…願い…聞…いてく…れ…る?」


 ーーー当たり前だろ?

 ーーー何でも聞いてやるよ。

 ーーーだから………!


「ラ…イア…は…強い…から…助け…て…あげ…て…欲しいの……世界には……困っ……ている…人が……たくさん……いる…か…ら……救って………あげて……ね……私のとき…みた…いに………」


 ーーー俺はお前を救いたいんだよ…!

 ーーー他の奴なんか、どうだって…!


「私…ね……嬉しかっ…たんだ……ライアが…いつも…助けて………くれた………こと…初めて…会…った………とき…から………今…まで……ずっと……忘れ…て…ない…よ…だか…………ら………お願………い…………ラ……イ…ア……だ……………す………………き………よ……」


 少女は静かに目を閉じた。

 その体が光となって消えてゆく。

 後に残るは、血痕と少年の慟哭のみ……。


 ***


 再び、ライアは仲間を失った。

 醒めない悪夢は、何時まで続くのか?

 はじめから分かっていたんだ。

 成果を上げても、いつか失う時が来る。

 さっきまでは、自分にも何か出来るのだと信じていた。

 レベルが上がっていたんじゃなくて、今までは運に救われていただけだった。

 たくさんの戦場を越えたのも、全部。



 ーーーもう、疲れたよ。


 そしてーーー

 終わりの時はーーー




 ーーー何時までも経っても訪れなかった。


 ライアは眼を開く。


 眼前には1人の男がダルグレイとの間に立ちはだかっていた。


「悪いな、使徒さんよ。これ以上の狼藉は俺が、いや、違うな。ーーー俺達が許さない………!!」


 ダルグレイが身構える。

 彼はここにきて初めて、明確な臨戦態勢に入ったのだ。


「何匹集まろうが所詮は愚物……! だが、貴様からは“チカラ”を感じる……! 此れを滅ぼすことこそ我が使命なり……!!」


 ダルグレイの全身から闘気が漲る。


「おっと、本気のテメェと張り合うつもりはないね。俺には時間がねぇんだよ。希望こいつを連れていかなきゃならないんでな!」


 男は突然、羽織っていたマントを翻す。


 ーーー次の瞬間、ライアの意識は再び闇に沈んでいく。


「貴…………我………滅………使………世……許………………………!!!」


 最後のダルグレイの怒声はライアの耳には届かなかった。




 ーー……再醒ノ時ハ来タレリ……ーー




 肌寒さを感じ、ライアは眼を覚ます。

 ここは、何処だろう。

 腕の傷はまだ残っている。

 俺は死んだのか?

 いや、最後に誰かが……?


「気がついたか、兄ちゃん」


 剣呑な声で意識が覚醒する。声の方を見やると最後に見た男の姿があった。仮面を着けているために素顔は見えないが、男もまた全身を包むローブが血に染まっている。


「俺のことは気にすんなよ。別に兄ちゃんを助けて出来た傷じゃねぇからな」


 男はライアの前に膝をつき、顔を合わせてくる。仮面越しにもその気迫が感じられた。


「時間が無い。本題に入らせてもらうぜ。俺は異世界から来た人間だ。兄ちゃんには俺達が為すべきことに協力してほしい。内容は詳しく話せないが、そうだな、世界を救ってくれ、とでも言えばいいか?」


ーーーこの男は何を言っているんだ。

ーーー俺は何も救えなかった。

ーーー今更、世界なんて……。


「時間は限られてるんだ。悩んでる時間はねぇよ。もし、協力が得られないなら、その時は兄ちゃんにはここで死んで貰う、というか、放っとけば出血多量で死んじまうぜ?」


ーーーああ、命はあんたにくれてやる。

ーーーもう、俺には無用の長物だ。


「まぁ、そうなるか。それなら死んで貰う、と言いたいところだがな、兄ちゃん、お前はあの子の最期の言葉を忘れたのか?」


 苦しむ人たちを救ってほしい。

 それがアイリの遺言だった。

 忘れる筈がない……!


「兄ちゃん、男なら約束ぐらいはちゃんと守りやがれってんだ」


 ーーーおいおい、随分と人の会話に詳しいじゃねぇかよ。

 ーーーそれなら、なぜアイリを助けてくれなかったんだっ………!!


「俺を悪人扱いするのは勝手だがよ、俺は神様じゃないんだぜ。何でも拾うことなんて出来ないさ。それに、俺が着いた時は既に………」


 男はそこで口をつぐむ。


「いや、もういい、これが最後だ。1つだけ言わせてもらう」


『お前は、世界を救えるよ。アイリの愛したこの世界をな!!』


 ーーーこんなクソッタレな世界をか?


「そうだ。あの子とお前が出逢ったこの世界だよ」


 ーーー俺に、出来るのか?


「ああ、出来るさ。確かに失ったものは戻らない。だがな、これ以上失わないように足掻くことなら出来る。それに、」


『お前が救える世界は、1つじゃない』


 ーーー1つじゃない、だと? 何を言って…


「これ以上は今は話せない。だから選べ。お前が進むなら、自ずと道は見えてくる。必ずだ」


 ーーーわかったよ。

 ーーー救ってやるよ、世界を、幾つでも。


 過ぎし日のジェイクの言葉を思い出す。


「俺は英雄になりてぇんだ。いや、こんな世界だからこそなってやろうぜ! 皆の希望になれるようなすげぇ英雄によ! なぁ!?」


 あの頃、ただ生き残ることしか目標がなかったライア達にとって、絵本で読んだ『英雄伝説』に出てくる主人公は憧れの的だった。

 いつしか戦いを重ねる中で、そんな幻想など忘れていた筈だった。


 ーーーそうだ、俺らは英雄に憧れていたんだ。

 ーーー俺らはずっと一緒だもんな。

 ーーーなら、俺がやるべきことは……!


「ほう、顔つきが変わったな。決心はついたかい、兄ちゃん?」


 ーーーああ、もちろんだ。


「そうか、ならいい。今すぐ始めさせてもらう。もう後戻りは出来ないぜ?」


 ーーー男なら約束は守れ、だろ?


「ふっ、それでいい。それでこそ、俺が見込んだ男だ……!」


 刹那、周囲が閃光に包まれる。

 ダルグレイのそれとは違う、不思議な光だ。今から、何が始まろうというのか?

 

 ーーーあんたも、魔法使いなのか?


「まあ、そんなところさ」


 光が強さを増して行く。


 だが、もう心残りはない。ライアは覚悟を決めて立ち上がる。


 ーーーそういえば、あんたの名を聞いてなかったな。教えてくれないか?


「おいおい、名を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だぜ? まぁ、大した名じゃないんだがな、ーーーっていうモンだ」


 突如、周囲を包む光が強くなり、視覚と聴覚を刺激する。男の名乗りはそれに遮られた。


「もう時間だ。頼んだぜ、兄ちゃん」


 光が歪曲し、視界が歪んでくる。ライアは思わず目を閉じた。


「俺の代わりに止めてみせろ、絶望の連鎖を……!!」


 意識が深淵へと吸い込まれていくーーー




 ーー……再醒ハ成サレタ……ーー


【Move from ScienceWorld to DiverseWorld】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る