第12話「ねじれ」3
今や使われることもなくなってしまった部屋は多い。かつての王国に仕えていた時代に建てられた、レイン家の屋敷。
シルトが知る限り、その時代は多くの要人なども出入りがあり、それらの方々をもてなす為に用意された部屋も多くあった。
国が統一され、エリステルダムがこの地方の街として形成されるようになり、レイン家はこの地を統治する王国政府の一員となった。
そのころからこの屋敷に多く存在する部屋はその機能を失い、ひっそりとその役目を終える時を待っている。
そんな部屋の一つに、例の調合部屋があった。
どんな実験や魔術の暴発にも耐えうる頑丈な構造を持った部屋であり、貴族時代のレイン家に仕えた錬金術師が使っていたという話だ。
しかし、この部屋にはもう主は居らず、天命を
それが誰なのか――この屋敷に居る者の中で本業として魔法調合が行えるのは、シャロン・フレデリカだけである。
あの、どこの馬の骨か分からぬ小娘。自らに仕える主の病さえ治せなかった。ご令嬢の病は、マジカルファーマシーの店長、カレン・セイリーによって見事に治癒された。
そんなことを差し置いて、今度は何をしようというのか。主をたぶらかし、何をさせているのか。
……自分の役目を奪われてそれは無念だったろう。
それを逆恨みにし、主を使って彼女たちに奇襲をかけようとしているのか……。
「…………」
静まり返った薄暗い廊下。シルトの前には、重々しく樫の扉に閉ざされた部屋がある。例の調合部屋だ。
冷たいドアノブに手をかけ、重いドアを開け放つ。若干かび臭いその部屋はさらに暗く、静まり返っている。
手にしたランプに火を
中央に置かれた調合台には、当時使用されていた古い調合機材が片されている。使われていない部屋があるとはいえ、掃除は行き届いているため、ほこりっぽさはない。
明かりを辺りに回す。壁際に据え付けられたランプには
中へと足を踏み入れると、調合台のその向こう、棚に光る物を見た。
徐に棚へと近づくにつれ、それが液体の入った小瓶であることを知る。混沌と他を寄せつけない、不思議な色を放つ液体の入る小瓶。
……これを作っていたのか。
小瓶を一つ手に取った。シルトにはこれがどういった液薬なのかは分かりかねるが、その湛える物が一筋縄ではないことは分かる。
この薬をクレアに与えることで、復讐劇に一枚噛ませていたのだろう。直接与えることはしなくとも、お嬢様の身辺を一手に受け持つ彼女ならば、普段の投薬や食事などに織り交ぜて服用させることは十分に可能であろう。
「……なるほど、これで掴めたぞ」
そっと
しかし、当の本人は朝からその姿が見えない。仕事を手放してどこへ行ったものやら。ほとほと呆れてしまう。
その元凶を探し出すほど悠長にもしてはいられない。この薬をカレンの元へ持ち込み、見てもらうことにしよう。あの方であれば、この薬やシャロンたちの行動に関することが分かるかもしれない。
――壊れた歯車はねじれ、もう戻ることはできない。
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