第11話「壊れた歯車」

第11話「壊れた歯車」1—1

 それは今まで自分がしてきたことへの、疑念だった。

 学園で学んできた技術の全てを盛り込んだ。しかし、薬は失敗を繰り返し、遂には完成させることすらできなかった。

 執事――シルトの一言だった。

「お前には、もう待つことができん。ここはマジカルファーマシーのカレン様にご依頼することにする」

 ショックだった。今まで味わったことのない、敗北感。そして、自分への後悔。学園では、こんなことはなかった。ありえなかった。

 そう、全てはクレアの為だ。魔法学園で主席を取るまでの技術を取得したのは、元からクレアの病を治癒するためにある。

 シャロンとクレアは幼なじみだ。昔から体が弱く、会うとなると必ず屋敷の彼女の部屋だけだった。屋敷の外で倒れてしまう可能性があったから。

 学園に通うとき、授業以外の時間は非常時に備えてシャロンが傍についていた。それも徐々に少なくなっていき、遂にはクレアが学園へ通うことがなくなってしまった。

 突然の病状の悪化。一日の大半をベッドの上で過ごすことになってしまう。それを見るに、もう耐えられなかった。

 自分の得意な魔法調合で、彼女の魔法薬を作る! そう心に決めてからは、魔法調合のクラスを中心に、まさに没頭していた。特別クラスをも取り入れ、学園に居る時間とほぼ同じくらい、調合の授業を受けていた。

 その成果もあって、調合の技術は学園の主席を獲得するまでになった。卒業試験の歴代順位は、第九位を飾ったと聞いた。

 その話を聞いたときは、本当にうれしかった。でも、それを手放しではよろこべない。

 その後すぐに、メイドとしてレイン家へ仕えることになる。当然、クレアの専属医師となる為である。

 それ以来、特別な部屋を与えられ、魔法薬の研究に専念した。しかし、病状を抑える薬はできるものの、本来の魔法薬は失敗を繰り返してばかり。

 ――クレアは、カレンの手によって、いとも簡単に治癒された。

 自分のやってきたことを、覆された瞬間だった。

 悔しさなんかより、自分の情けなさを痛感した。それからずっと、自分に作り出せなかった理由を考えていた。でも、その答えに有りつくことはできない。それよりも、クレアが自分から離れてしまったことに、大きなショックを受けていた。

「あなたには関係のないことですわ!」

 昨日、クレアに釘をさされてしまった。彼女が快復してから、その行動がとても尋常ではない。その原因を探るためにも、カレンに弟子入りを申し出たのだった。

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