第10話「想いのかたち」2

 そして翌日。

 マジカルファーマシーを開店させる前に、メンバーは再びルミの家へと集まった。そう、魔法防護服のクリスタルに魔力を充填するためである。

 今日はティンも来てくれていた。昨晩、あの後気を失い、そのまま朝を迎えていた為、カレンに休んでと言われていたが、昨日三人でも苦戦していた作業に、少しでも力になれればと一緒にやってきていた。思うに、彼女の回復力たるや、超越しているものさえある。

「じゃ、手早く魔力を充填するわよ」

 早速と言わんばかりにティンが言うと、ルミは部屋から魔法防護服を持ち出し、リビングのテーブルに広げる。

 ピンクを基調にし、セーラー服風に仕立て上げられた、ルミお手製の服である。仕立ての全てをルミがこなした為、この服はルミ専用の物となっている。リボンを留める胸の部分に、クリスタルがあしらわれていた。

 ルミらしいデザインで、全体的に可愛い印象を覚えるが、袖がセパレートであったり、巻きスカートにしていたりするところが、行動性を重視していると言える。

「この魔法防護服ができれば、クレアさんに対抗できるかもしれない。みんな、頑張って完成させようね!」

 ルミの声に皆が頷きを見せる。そう、この魔法防護服と素敵なステッキさえ揃えば、クレアを押さえ込むことができるかもしれない。

 ――昨日、カレンが放った一撃。

 ティンの魔術さえ粉砕させてしまう程の力を発動させた。しかし恐ろしくもあるが、次々と腕の利く者達を瞬殺してきたクレアに、丸腰で真っ向から挑むなんて死に等しい。

 これさえ完成できれば――!

 それぞれにテーブルを囲むと、目配せながら魔法防護服のクリスタルに向けて手をかざす。

「それじゃ、行くわよ!」

 ティンの掛け声とともに、部屋の空気が一変する。魔力の流動に伴い空気が張り詰め、徐々に緊張感を室内にもたらし始めた。

 ルミも両手を確りクリスタルにかざし、自分の持てるだけの魔力を放出し始める。昨日、シエルの家で横たわる兄を見る度に、思うことがあった。

 ……もし、自分もその場に居たら、お兄ちゃんを護れたのかな……。

 リーナの話によれば、ルイの食らったクレアの魔術は、その気迫もることながら、ティンの放つ魔術に迫る物があったという。

 それに、ルイにしても防護魔法を自らにかけていたはず。つまり、彼女の魔術は彼の魔力を凌駕する威力をもっているということである。

 ――まともに戦っていたら死んでいたかもしれない。

 まさか本当に「排除」するつもりなのだろうか? そう思えば思うほど、クレアが自分たちを消し去ろうとしているのが伺える。

 もうこれ以上の犠牲を出すわけにはいかない。下手をすれば取り返しのつかないことになりかねない。

 クレアが許せない。そんな独りよがりな理由で、自分たちに命の危険さえ及ぼすなんて!

 ……お兄ちゃんのかたきはボクがつ! そして、皆を護るんだ!

「あと一息よ! 頑張って!」

 ティンの活が入り、気を保ちつつ仕上げにかかる。さすがにティンもここ最近のことで魔力の消費に体がついていっていないようだ。そうは言うも辛そうな表情を見せている。

 それを見るなり、ルミは徐にテーブルに近づき、服のクリスタルに直接手を触れた。

「ル、ルミ!? 何やってるのよっ!」

「みんな、魔力を止めて良いよ。最後はボクが仕上げるから」

 両手にそれを握り締めるなり、ルミは徐に自らの魔力を開放し始める。

「ルミちゃん、一人でなんて危険だよ!」

「そうよ、ルミ! あなたが倒れてしまったら元も子もないわ!」

「大丈夫だよ。……これは、ボクがやらなきゃいけないんだ」

 徐々に強まる魔力の流れに、三人が慌ててルミに駆け寄る。危険なのは分かっている。でも、自分にはこれを完成させる義務がある。

 クリスタルを握る手に力を入れる。そして、意を決し、持ち前の魔力を全て注ぎ込む。途端、ルミを中心に周囲から魔力が暴走し、風を巻き起こす。リビングに並ぶ物を巻き上げ、三人を大きく揺るがし始めた。

「ルミ、止めなさい! あんたの体が持たないわよ!」

 ルミのしようとしていることに一抹の不安を禁じえない。すかさずティンが制止にかかる。

 しかし、それを気に留めるでもなくかたくなに魔力を開放し続ける。クリスタルはそれに大きく反応を示し、搾り取るかのようにそれに喰らいつき、貪っている。思った以上に気が流されていく。

「だ、大丈夫、だよ……」

 正直嘘だった。今にも一気に全てを持っていかれそうになる。もはや思念や気力で意識を持っているに過ぎない。

「もう少しだから……!」

「ルミ、やめてっ!!」

 その緊張感に痺れを切らしたシエルが、堪らずルミにそう叫んでいた。

 ――その次の瞬間だった。

 それは、バァン! と甲高い破裂音とともに雷撃を放つと、ルミを吹き飛ばしてしまっていた。

「え……っ!?」

 突然のことに何が起きたのかに理解が遅れる。

 魔力の流動が消え、部屋に張り詰めた緊張感が晴れて行く。巻き上げられていた物が床へ落下する最中、カレンが自分のステッキを構え、その穂先をルミに向けていた。

 まなじりにその想いを溜め込み、肩を大きく上下させては息を切らせている。

「カ、カレン!?」

 シエルの驚きをよそに、カレンはすかさずルミの元に駆け寄り、背を起こしてはその身を抱きしめた。

 このまま続けさせていたら、ルミの身に危険があったに違いない。ティンやシエルの制止を聞かないところを見て、強制的にも止めさせる必要があった。

「お願いルミちゃん、一人で何でも抱え込まないで……っ。できることがあれば、私たちも協力するから……」

「カ、カレンちゃん……。うん、ゴメンね。でも、ボクは……」

「そうよ、カレンの言う通りよ。私達が居るんだから、無理することなんてないのよ?」

「何でもかんでも背負い込むのはあんたの悪いところよ。まぁ、責任感が強いのは良いところだとは思うけど」

 何か言いた気に答えるルミに、三人がそれを遮る。それに観念したか、ありがとうと答えては笑みを見せていた。

 自分が何とかしなきゃと思うあまり、かえって皆に迷惑をかけてしまう。魔法防護服だって、素敵なステッキだって皆の協力があって作ることができたんだ。皆と協力すれば、クレアに対抗できるはずだ。

 クレア対策はこれで万全だ。後は、クレアとの交戦に控えるばかりである。

 ――絶対負けない!

 これで決着を付けなくては……!

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