第8話「もう一つの決着」3

 体調が戻り、カレンがルミの家から帰ったのは夜のとばりが降りたころだった。

 完成した素敵なステッキを抱え、意気揚々と家に入る。すぐそこのテーブルに腰を降ろすティンを見つけるなり、駆け寄っては早速それをお披露目して見せた。

「ねぇねぇ、見てよ! 完成したんだよ、素敵なステッキ!」

「え? あ、あぁ、ホント?」

 何か歯切れの悪い反応を見せるも、テーブルに広げられたステッキを手に取る。

 握りは良く、両手で持つには程よい長さを持ち、長さに対して重さもさほどなく、誰でも扱えるかもしれない。デザインは彼女達の見繕いにしては、いささか大人しめかもしれないが、それらの操作性を重視した形として現れているようだ。

 そして、肝心のクリスタルには、やや不足を感じるが魔術を増強させるには十分な魔力を蓄えているように見える。ルミと三人で魔力を封入したにしては、十分な出来栄えだ。

「これなら、十分通用するかもしれないわね……」

「え?」

「私がクレアに放った、あの大技も簡単に出せるわよ」

 リーナから聞いたルミの話によれば、それはもう――

「目の前に雷が落ちたのかと思ったよ!」

 少々怯えた様に語る彼女から、その時の凄まじさと彼女が感じたであろう威圧感を感じざるを得なかったという。確か、作業中に地震のようなものを感じたのを覚えている。まさに、彼女の渾身の一撃の瞬間だったようだ。

「そ、そんなに……?」

「体が保てばね」

「え……」

「まぁ、冗談よ。でも、あんた達にしては上出来よ。後、魔法防護服はまだなのね?」

「あ……うん。やっぱり、私たちの魔力じゃ、ステッキだけで精一杯だったよ」

 心底疲れたように肩を落とすカレンの苦笑いを見るなり、彼女達が苦戦したことが伺える。実際カレンたちの魔力を併せた所で、一握りのクリスタルに魔力を溜めるのは精一杯なのは目に見える。

「だから、服は明日にしようってことになったよ」

「そうね。無理にやろうとしたら、前みたいなことが起きかねないわ」

 かつてシェリーの魔法薬を作り出す時、無理によってカレンは高度の熱を出し、何日も床に伏せてしまうことがあった。そんなことを二度とさせる訳にはいかない。

「明日は、私も手伝うわ。そうじゃなきゃ、あんた達が持たないじゃない」

「え? でも、ティン、体調悪いでしょ? 無理はさせられないよ」

「そんなことは大丈夫よ。私を誰だと思ってるの?」

 テーブルから立ち上がり、徐にティンはステッキを構える。そして、カレンに向かって、その照準を合わせた。

「ティ、ティン……?」

「カレン、あんたに話があるわ」

 天井に釣られたランプが、炎を揺るがす。微弱な魔力がリビングを満たし始める。ピリピリと身に刺さるかのような緊張感が、徐々に浸透する。それがティンから発せられているのは明らかだった。

「ティン、どうしたの……?」

 その異変を感じ、カレンは目の前に居る、生来の親友が何を考えているのか、多少不安を覚えた。

「私と、勝負しなさい」

 その表情に、冗談めいた普段の含み笑いは見られない。


 ――何か覚悟を持った、そんな目をカレンに向けていた。

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