第8話「もう一つの決着」
第8話「もう一つの決着」1
「あ~、何だか顔を合せ辛いわ……」
そんなことを嘆きつつ、クローズと看板が出たままのマジカルファーマシーの前で肩を落とす。そういえば昼食にシャンパティエへ行ってから、お店を開いていなかったことを思い出した。
公園での決心はどこへやら、知った顔に出くわすのを恐れて、メインストリートを避けてサイドストリートを通って戻ってきた。
体調が優れないのも相まって、何だか気だるかった。
店に到着するなり、中の様子を覗う。見たところ店には誰も居ないようだ。リーナもあの後から戻っていないようにも見える。
入るなら今の内か……。そっと裏に回り、出入り口の取っ手に手をかけ
「あれ? ティンちゃん、もう大丈夫なの?」
その時、すぐ背後からそんな声が飛んでくる。
「ふひゃぁ!」
思わず飛び上がりそうになりながら、変な悲鳴を上げてしまう。恐る恐る振り返れば、そこにはリーナが心配そうな表情を見せて立っていた。
「な、何よ、リィじゃない……脅かさないでよ」
「え?」
「あ、いや、こっちの話……。私はもう大丈夫よ。ちょっとだるいけど、大したことないわ」
「体の調子悪いんだから、あんまり無理しちゃダメだよ?」
「わ、分かってるわよ」
最近リーナがカレンに似てきているような気がするのは、気のせいだろうか……。そんな言い聞かせるような語りが、
「そういえば、私やルイをアトリエの中に入れてくれたのって……」
「うん、ルミお姉ちゃんと一緒に運んだよ。ティンちゃんの寝かせるところが無かったから、シエルお姉ちゃんの部屋になっちゃったけど」
「そうだったのね……ありがとう。皆にはそんなことさせてばっかりだわ」
「ううん、ティンちゃんがクレアさんを追い返してくれたし、ありがとうって言うのはリィのほうだよ」
そう言ってリーナはティンに抱きついた。笑みを見せながら、その口からありがとうと告げられる。
何というか、そんなリーナの行動にこっちが照れくさくなってしまう。普段、年よりも確りしているリーナが、こんなにも感情をストレートに表現してくる。
自分もこんなリーナのように、もっと素直になれればなと、思わされてしまう。
「そういえば、お店開いてなかったわね。今からでも開かないと」
「ううん、今日はもう閉店にしようよ。ティンちゃん、体調が悪いんだから、休んでなくちゃ」
「そうはいかないわ。カレンに任されてるんだし」
「お姉ちゃんにはリィから言っておくよ。だから、今日は休んでよ」
押しの強さはリーナの持ち前の性格らしい。そう言われるなり、リーナはティンを回れ右させるなり、その手を引いて表通りへと引き始める。言い返す言葉も無くそれに従うしかなかった。
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