第7話「束の間の時間」

第7話「束の間の時間」1

 体の至る所がきしむように痛みを伴う。命かながら屋敷に着くなり、執事にとがめられる。もはや構ってはいられない。しかし、体は思うように動かず、自分の命令を無視して、フロアに倒れこんでしまう。慌てたメイドたちによって部屋へと担ぎ込まれてしまった。

 マジカルファーマシーで調達した薬が傷口につけられる。染みるような痛みに思わず顔をしかめてしまった。でも、これで直ぐに良くなる。なんたって、カレン様の薬なのだから。

「一体、どういうことですかっ!?」

 ベッドに寝かされ、落ち着きを取り戻すと、怒声にも似た執事の質問が飛んでくる。正直ウザイ。でも、彼の言うこともみっともだ。

 いつも良くしてくれている執事には、とても感謝している。それに、カレンとも結びつけてくれたのも彼だ。でも、今は放って置いて欲しかった。

「シルト様、クレア様のお体に障られます。どうかここは……」

 一人のメイドにそう言われるなり、執事――シルトはお大事下さいと残し、メイドへ何か言いた気に渋々部屋を後にした。

 それを見送るなり、忠告をしたメイドが一つ小さく溜め息をついた。彼女はいつも側に居り、身の回りの世話などをしてくれている。

「クレア様……あまり無理をなさらないで下さい」

「分かっていますわ……」

 思わず布団を被り込んでしまう。そんなことは言って欲しくなかった。

「……私にも、何をなされているのか、教えてはいただけないのですか?」

 再び小さな溜め息をつくなり、彼女はそう聞いてきた。

 このことは誰にも言ってはいなかった。言うつもりも無い。今まで何一つ、自分でしたことが無い。周りの人間に頼りきって生きてきた。

 だから、今は自分だけでやり抜きたい。クレア・レインとしてのプライドがそうさせていた。

 ――カレン様のことは、わたくしが誰よりもお慕いしている。だから誰にも邪魔はさせない!

 メイドの質問には答えず、クレアは静かに寝息を立て始めた。

 その後、体調が崩れて屋敷から出られなかったことを補足しておく。

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