第5話「第二の犠牲」2—2

 アトリエリスト――ルフィーがシェリーの呪いを解くために構えた工房で、魔法調合、錬金術の研究機関としての役割を持っている。シエルの実家であり、彼女がこの工房を継ぐことになっている。ルフィーが次期学園長に抜擢されたことを受け、ここを空けることが多くなったため、今やほぼシエルの工房と化していた。

 シエルの研究の中で、この工房に使えるであろう物があった。まだ構想段階で詳しい形にはしていないが、三人でかかれば確実に物にできるはず。

 それは――

「ステッキの改良と魔法防護服……?」

「そうよ。いつか作ろうと思ってたけど、いい機会だわ。構想としてはこうよ」

 ステッキは、実践魔法を発動させるために指での呪いを省略し、ステッキに魔力を集中させて、容易に発動させるためのものだ。シエルはそのステッキを改良し、魔力を増強させる効果を持たせようと考えていた。

 そして、魔法防護服を作ることで、クレアからの攻撃から受けるダメージを軽減させることができないかと考えている。この服は、魔法繊維で織られた生地を使用することで、作ることが可能だ。そこで裁縫が得意であるルミの協力を仰いだのだった。

「で、でも、魔法を増強させる方法なんて、先生だって分からなかったのに……」

「方法はあるわ。クレアがどうやって増強しているかは分からないけど、使える物があるの」

 材料のしまわれた棚に近づき、施錠された戸を開けた。そこに纏められた物を一つ取り出す。

 見事なまでに透き通り、真球を形作るそれは、魔力を溜め込む性質を持つクリスタルだった。大変高価な代物であり、これもまた普通に流通する物ではない。アトリエはもはや貴重な材料の宝庫でもあった。さすがは蒐集しゅうしゅう家のルフィーである。

「これって、すごい高価なクリスタルでしょ!? 使っちゃって良いの……?」

「緊急事態なのよ? お母様も分かってくれるはずよ」

 このクリスタルを核にし、強い魔力を持つ者から、もしくは自らの魔力を封入することで、魔術の発動時、魔力に共鳴したクリスタルがそれを増強するというわけだ。術者の魔力が弱くても、大きな効果をもたらすことができる。そして、魔法防護服にも魔法繊維をベースにし、クリスタルを核とすることで、封入された分の魔力が防護魔法を持続させることが可能だ。

 真っ向にクレアへと向かっていっても負けは確実。でも、これならば勝ち目はある! 三人はそう確信した。

「私とカレンでステッキを作るわ。ルミはこの魔法生地で魔法防護服の制作に入って!」

「う、うん! 分かったよ!」

 役割が分担されたところで、各々早速その作業に取りかかり始める。ルミ自身も、これに懸けてクレアとの決着を付けると意を決した。クリスタルを握りしめ、瞳の奥に熱き炎を巻き上がらせる。


 ――これ以上の犠牲者を出すわけにはいかないっ!

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