第4話「異常な愛情」3

 図書館での作業はやはり難航していた。シェリーとともに何度となく、カテゴリーにこだわらず本を取り替えては調べていくも、それらしい記述はまったくと言っていいほどなかった。唯一分かったことと言えば、このフロアにはない――つまり、一般貸し出しのフロアにはその情報は得られないということだろう。

 シェリーにお礼を告げて別れると、ルフィーはある場所へと向かう。まさかとは思う。しかし、万が一ということもある。

「特別観覧室の許可を頂けませんか?」

 受付カウンターの一角にある特別観覧室の受付。当然ながら普段ここの利用者数は格段に少ない。なぜかと言えば、そこは名の通り、特別に許可された者のみ、観覧を許されるフロアだからだ。許可証がなければ観覧は不可能である。

 ルフィーは錬金術師の称号を得たときに、その許可証を授与された。実際、この許可証を持つ者はこの街でさえ少ない。それほど所蔵される書物や文献は、貴重であり重要な物を保管しているということなのだ。

 そう、そこにならあるかもしれない。ただ、そこにクレアが足を踏み入れたかどうかは定かではない。何はともあれ、中へ入らなければ……。

 許可を得たところで、金属の重い扉を開き、地下へ続く階段を下りる。地下は二階に分かれており、それぞれに上階と同じくカテゴライズされている。古い文献などは、あまりに古すぎて観覧禁止されている物などもあった。

 地下一階。相変わらず薄暗い部屋で、天井は普通の民家と同じくらいか。本棚も手が届くほどの高さで見やすい。早速、調合関連の棚へと足を運ばせた。

 目を見張るほどの珍しい文献が並ぶ。どれもが歴史の長い書物であり、中には王国時代から所蔵される古書などもあるほどだ。早速一つ手に取り、中を探る。相変わらずいまだに難しい項目が並び、自分もまだまだだと思い知らされる。精進あるのみだ。

 いくつかチョイスして、中を読みまわす。そこで、あることが気になった。

 ――クレアさんは、カレンちゃんを慕ってるって言ってた。それで、カレンちゃんを自分の物にするんだって……。

 ファーマシーでルミが説明に言っていたことだった。

「……ということは、まさか」

 シェリーは手にした古書のページを掻き回した。どこかにその項目があるはずだ。

「そこまでですわ」

 その時、突然すぐ背後からそんな声が飛んでくる。途端に、身に染み入るような気迫がじわじわと感じられた。その独特の語り。そして、学園で聞いたことがあるその声。

 今の今まで気配を感じなかった。こんなことは初めてだ。自分の気配を魔力と共に消し去る者など、それこそ一流の魔術師の術である。まさか、これほどまでに魔力を増強しているということか……!

「……っ!」

 思わず息を飲み、慌てて振り返る。やはりそこに居たのは、クレアだった。ステッキをルフィーの首元に突きつけ、不気味な笑みを浮かべて射抜くような目で睨みつけていた。

 この威圧感、身震いを覚える。思わず本を手から滑らせてしまった。

「あら、いけませんわ。大切な書物を落としてしまうなんて」

「あ、あなたどうしてここに……!?」

「ふふふ。私も許可証を持ち合わせてましてよ。当然ですわ」

 レイン家のご令嬢――それだけでも、彼女は特別扱いされるに格好の理由だった。自分が苦労の末に手に入れた許可証。彼女はたったそれだけで手に入れている。境遇とは恐ろしいものだ。

「余計なことをしてくれましたわね。ただでは置きませんことよ?」

 怪しい笑みを浮かべると、ステッキに魔力を込める。一気にその魔力に支配される空気。ルフィーは思わず後ずさり、身を震わせた。

「あなたも、邪魔ですわっ!」

「ダメよっ! ここには大切な書物が……っ!」

 言うが早いか、ルフィーはクレアの魔術が発動すると同時に、自分のステッキを持ち出し、フロアに防護魔法を張り詰める。

 次の瞬間に部屋は光に満ちて、ルフィーはその後のことを覚えてはいなかった。


 ――第二の犠牲だった。

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