第3話「戦闘開始!」3

 午後の営業はやむを得ず中止し、ルミはカレン達を調合部屋に集めていた。ティンを治療していたルフィーも、ただごとではないとその場に居合わせている。

 ルミの事情説明を耳にしては、皆、神妙な面持ちで押し黙っている。今後の対策のことを話し合うつもりだった。

「いい? みんな。それに先生も。ティンちゃんが、何をするでもないうちにやられちゃった。相手はそれくらいの魔法が使えるみたいだし、ボクの攻撃もあんまり効いてなかったよ。おそらくほぼ完璧な防護魔法が使えるみたい」

「え? ……だって、クレアさん病気で寝込んでいたのに、そんな魔法が使えるの?」

 カレンの疑問も当然。ルフィーの話によれば、ここ一、二年ほど学園への出席回数もぼちぼちで、目立って成績が良かった生徒でもなかったという。そのが、それほどの力量を持っているとは思えない。ルフィーが現場を見て、学園の教師が仕掛けたものだと思ったほどだ。つじつまが合わない……。

「ボクにも分からないけど、ちょっとあのは普通じゃないみたいだよ」

「そうね、残留魔力から微かに特殊な魔力を感じたわ。もしかしたら、何か特別なことをしているんじゃないかしら」

 ルフィーは過去の事故によって視力を失い、その視野を魔力でもって補っている。その為か、魔力や思念といった物を強く捉えることができる能力を持っていた。彼女の言葉なら、信憑性がある。

「先生、特別な何かって、なんですか?」

「それは分からないわ。でも、それによってあの魔力を手に入れている可能性は、否めないかもしれないわね……」

 ――特別な何か。魔力を増強させるものではないだろうか? というのがルフィーの見解だった。

 しかし、今までそんな物があるなどという話は聞いたことがない。異常効果を身体にもたらす木の実「アルトーノ」というわけでもなさそうだ。アルトーノであれば、残留魔力に異常は検出されないからだ。

「私のほうでそれが何なのか、文献を探してみるわ」

「お願いします、先生。……それで、ボクらがすべきことは一つ。クレアさんと鉢合わせたり、見つかったりしたら、直ぐに逃げること。多分、先生だって彼女には敵わないかもしれない。ボクもどうかは分からないけど、彼女を何とかやって食い止めてみる」

「待ってルミちゃん。そんなことしたらルミちゃんが危ないよ! クレアさんの目的が私なら、私がクレアさんを説得するよ」

「ダメよカレン! そんなことをしても無駄だと思うわ。あのはあなたを、す、好き、だとか、その……と、とにかくそれは許しません!」

 顔を真っ赤にして力説するシエル。言っていることはよく分からないが、カレンがクレアを止めに入ったとしても、それこそが彼女の思惑であり、カレン自身が危うくなるということだ。クレアは何を考えているのか解らない。カレンが連れて行かれてしまう可能性もある。

 シエルとしては、自分以外の者がカレンを狙っているという事実に危機感を覚え、それ以上に非情な行動でカレンを追い詰めるやり方がとても気に入らなかった。クレアにどんなことをされるかも分からないし……。カレンの貞操は私が守る! 方向は違うが意に決めていた。

「そうだよ、カレンちゃんはクレアさんの前には出ないほうが良いよ。カレンちゃんのことは、ボクが護るから」

「私も援護するわ。カレンをそんなの元に行かせたら、危険極まりないわよ。それに、ルミばかり危険に晒すわけにもいかないもの」

「う、うぅ、みんなごめんね、私のことなのに……」

 肩を落としてカレンがつぶやく。当事者のカレンとしては、大切な人達が危機に晒されるも、何もできないことを悔やむしかなかった。目じりに涙を浮かべ、俯いてしまう。

「謝らないで、カレン。これはあなたの問題じゃないわ。この私こそが、カレンに見合うパートナーということを証明するのよ! あんな小娘こむすめに負けて堪るものですかっ!」

 勢い良く椅子から立ち上がっては、宣言よろしく胸元で拳をぐっと握り締める。気合入りまくりなのは分かるのだが、自分が恥ずかしいことを口走っていることに気がついてないのか、はたまたその言葉に酔っているのか、その瞳の奥や背後に熱き炎を燃え上がらせていた。その端でカレンが別の意味で俯いて、シエルの服の裾を引っ張っている。恥ずかしいから落ち着いてよ……。一同はシエルを見上げて唖然としていた。


 ――戦闘開始の鐘が鳴る。

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