第3話「戦闘開始!」2

 ルミがファーマシーに戻って落ち着きを取り戻したころ、ティンはシエルの服を着込んで、二階の寝室に寝かされていた。シエルが家に飛んでルフィーを呼び出し、ただ今、診察に入っている。その様子を見守るように、カレンが側についていた。心配でならないのだろう。

 そして店頭では、団員の事情聴取で参考人が集められ、あれこれ状況を聞き出されていた。代わりにシエルが参考人として出ている。ルミは調合部屋のテーブルに着いて、目を赤くしては鼻をすすり上げ、肩を落として放心していた。

「ルミお姉ちゃん、大丈夫……?」

 そんな様子を見て、リーナが心配そうに声をかけてくれる。さっきまで泣きじゃくっていた彼女に、なだめられてしまう。リーナだってショックだったに違いない。ティンの回復を強く信じている。

「リーナちゃん……うん、大丈夫だよ」

 暗い顔をしていてはいけない。リーナにまた不安を与えるわけにもいかない。涙を拭い、笑みを見せて答えた。それに、リーナの表情がすっと和らぐ。

「ルミお姉ちゃん、カッコ良かったよ!」

「え? ……何が?」

「うん! クレアさんに立ち向かって行ったとき!」

 あの時はクレアに集中していたせいか、周りのものが見えていなかった。実は、突然部屋を出て行ったルミを、シエルとリーナが追っていたらしい。もちろん、ルミの行動の一部始終が二人に見られていたわけだ。

 あの啖呵たんかを切るようなセリフ、普段やったりしない実践攻撃魔法、大泣きしてしまったこと、全てにける行動……。なんて恥ずかしいところを見られたものか。一気に顔を真っ赤にさせてしまう。

「えぇ!? ……そ、そんな! み、見られてたんだ……」

「シエルお姉ちゃんもビックリしてたよ」

「シエルちゃんも見てたの!?」

「うん、そうだよ。凄いわねぇって言ってた」

 満面の笑みを見せてそんなことを言って放つ。何をどう凄いと言ったのだろう……。

 カレンやシエル、それにティンは、ルミが実践魔法を得意としていることは知っている。学園での成績は魔法調合より実践魔法のほうが断然に良い。運動も得意で、躍動的な動きと魔法を組み合わせるすべは、ルミのスタイルだった。

 ただ、皆に見られるのはやたら恥ずかしい。

 自分でも、明るいけど普段はおとなしいほうだと思う。皆もそう思っているだろうし、そういう評判はお客さまや周りのお店の人たちから頂くこともある。

 それが感情大爆発で、パフォーマンスの如く魔法を打ち放つなんて、普段を考えたらそれはありえないことだ。

 凄いわねぇ――シエルの言葉が、本当に「凄かった」ことを現していたのが分かる。思わずショックを受けてしまう。

「なんか、複雑だよ……」

「ううん、リィたちじゃ何もできなかったよ。ルミお姉ちゃんがティンちゃんのお返しをしてくれて、うれしかったよ」

 ルミの腕に抱きついて、えへへと笑ってみせる。リーナも悔しかったんだろう。でも自分にできることは少なすぎる。あのまま悔しいだけで、終わっていたかもしれない。そんな意味でも、ルミの存在は大きかったのだろう。

「リ、リーナちゃん……?」

「あの人、なんか怖いよ。リィも狙われてるのかな……」

 ――あなた達は邪魔なのですわっ! 排除して差し上げます!!

 カレンの周りに居る――主に自分たちが標的にされている。自己中心的な考えでカレンを自分の物にしようとしている。なんて考えを持っているものか、それだけでも腹立たしい。さらに彼女は手段を選ばない。ティンが犠牲になった今、ルミばかりではない、リーナやシエルも、その範疇内の標的とされているのは間違いないだろう。

 リーナが狙われる。このには護身する術がない。狙われたら確実に逃れられないだろう。それだけは避けないと。

「大丈夫だよ、ボクが護ってあげるから。リーナちゃんは安心して良いよ」

 優しくその頭を撫でなる。不安げな表情が和らぎ、くすぐったそうな笑みを浮かべた。子供らしい無邪気な笑み。この娘から笑みを消すわけにはいかない。絶対に護る。そう心に決めた。

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