第1話「気になるあの娘」2

「ちょっと、手をお離しなさい!」

 逃げるように北区に駆け込んでは、少女が乱暴に手を振り解いてくる。ここまで来れば人の通いも少ないだろう。ルミは足を止めて、未だいきり立ってにらみを利かす少女に向き直った。

「君、一体何をしてたの?」

「あ、あなたには関係ないですわ! いきなり邪魔なさらないで!」

「マジカルファーマシーの前で、お客さんの後を追ってるでしょ? いつもこんなことしてるの!?」

 そうだとしたら、かなり厄介なことだ。もしかしたら、先ほどの主婦が、この少女がファーマシーの関係者だと勘違いしていたのなら、ファーマシーへの影響はないとも言えなくなる。そんなことがあってはいけない!

「ですから、あなたには関係……」

「あのね? 君がファーマシーのお客さんにやってることで、ファーマシーにお客さんが来なくなったりしたら、カレンちゃんのお店がどうなると思ってるの!?」

「……う、ぅっ!?」

 我が子を叱る親のような説教に、また何か突っかかってくるかと思いきや、少女は詰まるような声を出して突然押し黙ってしまった。

 今までの勢いはどこへやら、まるでショックを受けたように、徐々に表情を暗くさせて肩を落としかけていた。そんなに強く言った覚えはないんだけど……。何というか、悪い気がしてしまう。

「え? あ、ご、ごめんね。ちょっと言い過ぎたかな……?」

「……あなた、あの方の何ですの?」

 起伏の豹変に気負いしつつ謝ってみれば、今度は意味の分からない質問が飛んでくる。俯いていて表情は伺えないが、雰囲気から怒気を帯びているのがひしひしと感じられた。思わず身を引いてしまう。

「え……?」

「あなたはの何ですのって聞いてますのよっ!」

「カ、カレン様!?」

「そうですわ! あなた、いつもカレン様と一緒に居ますわね?」

 今度は上目遣いににらみを利かせては、じりじりと練り寄ってくる。妙な気迫を含んだそんな様子に、ルミは思わず足をすくませた。何か一流の殺気を感じる……。

「え? う、うん、お、お向かいさんだし、それに……」

「それに!?」

「……お、幼なじみだから」

「ムッキ――――――――――――――ッ!!」

 突然、癇癪かんしゃくを起こしたのか、長い髪を振り乱しては頭を掻きむしり、地団太を踏んで鬼のような形相を剥き出しにしていた。なんとオゾマシイお姿なんだろう。綺麗に召した服が台無しだ。

 ルミは思わず尻餅をついて目じりに涙を浮かべてしまう。一体このは何なのだろう? 支離滅裂も良いところだ。こんな混乱を招くなら声をかけなければよかったと、心底思うのだった。

「あなた! 幼なじみと言えども、カレン様にお近づきになるなどと、ぜ―――――っっっっったい! 許しませんことよっ!?」

 唾を吐き散らしながら、座り込むルミに覆い被さるように捲し立てる。

「カレン様を愛するのはこのわたくし! クレア・レインだけですのよ!? あなたのようなは引っ込んでいることですわ! 覚えておきなさい! オーッホッホッホッホッホ!」

「つ、付き人!?」

 先程までの悪態はなかったかのように、左手の甲を右頬に添えつつ優雅な高笑いを見せて立ち去っていく。乱れに乱れた姿が台無しにしていたが……。

「な、何だったの? あれ……」

 あの凄みに精魂吸い取られてしまったか、涙を流しつつうわ言のようにルミは呟いた。もう配達どころじゃない。腰が上がらなかった。

 あのに関わったらいけない……。本能が警鐘を鳴らしてそう叫んでいる。無意識のうちに身震いを覚えながら、魂の抜けた表情を浮かべていた。


 ――これから生き地獄のような日々を過ごすことになろうとは……。

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