マジカルファーマシー 〜まじかるルミちゃんクライシス〜
神崎 諳
第1話「気になるあの娘」
第1話「気になるあの娘」1
「カレンちゃーん! 頼まれたもの持ってきたよ!」
マジカルファーマシーの工房に明るい声が響き渡る。決して広くはない部屋では、まさに地獄絵図を思わせる緊張と喧騒があった。魔法製薬という分野において、その作業はさながら、事象の実験を繰り返す研究者のそれに相当するものがある。
「あ、ルミちゃん、ありがと! そこに置いててもらえるかな」
手を止めるでもなくカレンの返事が飛んでくる。何度もここへ足を運ぶことはあるが、とてもじゃないがこの修羅場の中に飛び込める勇気はなかった。
「カレンちゃん頑張ってね!」
「うん、ありがとう!」
いつものように忙しさを見せて繁盛している工房を後にすると、ルミは向かいのライム雑貨店に戻っていった。
最近、マジカルファーマシーを利用するお客さんがどんどん増えてきている。当然ながら、カレンの母親であるシェリーの病を治す薬を作り出した名薬師である。名立たる魔法調合師も症状を抑える程度で手が施せなかった病を、必死の思いで作り上げた薬で見事治癒させたのだ。
そんな噂が出回らないはずもない。たちまちファーマシーは街の人気のお店に仕立て上げられた。
ルミとてその功績は幼なじみとしても誇りに思う。ずっと応援していたことだし、夢が叶ったこともともにうれしい。
しかしルミには、最近気になることが一つあった。
店番をしながら街の通りを見回すと、マジカルファーマシーが正面に見える。笑顔でファーマシーを後にするお客さんに混じって、ある人影がこそこそと動き回っているのが、よく見る光景になっていた。
今も尚、その人物は出て行ったお客さんの後を追っていく。歳は自分より少し下くらいで、どこかのご息女なのか、綺麗に着飾った、髪の長い女の子。お客さんの連れにしては妙にこそこそしていて、多少怪しさを感じる。そればかりじゃない。彼女はここ最近時間を問わずやってきては同じ行動を繰り返していた。
……同業者の偵察か何かかな……?
それにしては、何というかあからさまな行動だ。今のところ何かお店に迷惑があったわけではないので、とりあえず様子見はしているが……。
「……ルミ、聞いてる? ちょっと顔が恐いよ」
突然目の前に兄の顔が現れる。鼻先が触れるくらいのドアップ。思わず真っ赤になって顔を
「い、痛たぁ……。お兄ちゃん!? ビックリするじゃない!」
下着を晒した哀れもない自分の姿に気づくやいなや、慌てて体勢を戻して兄に抗議する。
「そんなに恐い顔してたら、お客さまが来なくなるよ」
どうやら少女の素行を凝視するのに夢中になっていたらしい。どれほどの強面をしていたものか。それにしてもとんでもないところを見られてしまった。
「普通に声掛けてよっ」
「何度も呼んだよ。ルミが気づかなかったんじゃないか」
「は、恥ずかしいでしょ……っ」
「ん? 何か言ったかい?」
「な、何でもないもん!」
どうしたものかと首を傾げる兄をよそに、そそくさと店の奥に消える。
顔の火照りを気にしつつも、在庫の荷物を纏め上げる。これから配達に行かなくてはならない。兄に気を取られている場合じゃないと、気を取り直した。
配達分の荷物をバッグにしまい込むと、肩にかけて街道に出る。絶えず賑やかな商店街を通る南区のメインストリート。先ほどの怪しい少女の姿は既になく、相変わらずマジカルファーマシーの客入りは良い。
早速住宅街のある西区へと向かう。春休みに入った頃合いのためか、同じ年頃の子たちが街道を行くのが見える。そう言えば、その子がファーマシー付近に現れるようになったのはその時期と重なる。今日で一週間目。一体何をしてるのだろうか。見る限りではお客さんを追って行っているだけにも見えるのだが……。
時計塔がそびえ立つ公園を横切る。見上げれば大きい文字盤が時を示すのが見える。エリステルダムの歴史を見続けてきた建造物で、今なおこの街に時を知らせてくれていた。
その時計塔を中心にできたこの公園は、エリステルダムの中心に位置する。かつて王国時代には城がそびえ建っていた場所で、今やその広大な跡地には、屋台が出たり、井戸端会議をする主婦が居たり、子供たちが遊んでいたり、そんな風景がよく見られる。そして、各区へのメインストリートへのバイパス的な役割も持っていた。
今日も同じ風景を横目に公園を後にしようとした……そのとき、西区入り口付近で何か口論している人影を目撃した。主婦らしい女性に、少女が妙に食いつくようににらめつけていた。
その少女にものすごい見覚えがある。例の少女だった。よく見れば、主婦の持っている袋はマジカルファーマシーの物だ。いつものようにお客さんを尾行したようだ。何をしているのかと思えば、こんなことをしているなんて……。
このまま放っておくわけにはいかない。最悪、ファーマシーの経営に影響が出てしまうなんてこともないとも限らない。何気なく二人に近づいていった。
「ちょっと、なんなのよあなたは! さっきから私の後をつけて来てるでしょ!」
「そ、その袋の中身をお見せなさい!」
「いきなり何を言い出すのかと思えば! 一体なんなのよ!」
「その袋を
見事に噛み合わない会話が繰り広げられている。この少女はなぜにそこまで中身を見たがるのか。周囲が横目で迷惑そうに見ているのを感じて、ルミは慌ててその中に割って入った。
「す、すみません、どうしたんですか?」
「あ、ルミちゃんじゃない。どうしたもこうしたも、いきなりこの子が」
「あぁ! あなた、マジカルファーマシーの向かいの……!」
今度は何かと思えば、彼女はいきなりルミを指差すなり、仲介を無視してそんなことを叫び上げる。
「ルミちゃんこの子の知り合いなの!? 早くどこかに連れて行きなさい!」
「うぇ!? いや、ボクはそうじゃなくて……。ちょ、ちょっと君! こっちに来なさい!」
これ以上場を混乱させたら
引きずられながら何か喚き散らしているも、そんなことかまっていられない。何というか恥ずかしくて仕方なかった。
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