金魚鉢11 記憶~女狐回顧
「絶対、誰にも言うんじゃないぞ」
びくりと、フクスは狐耳を震わせていた。
「言わないよな? フクスはミーオと違っていい子だもんなっ?」
「よーし、いい子だぁ。後でご
オーアは
「あっ、ごめんな。やりすぎた」
苦笑を浮かべ、オーアがすまなそうに黄土色の狐耳をたらしてくる。彼女は優しく眼を細め、フクスの頬に指を
「オーアさん……」
「表情、だいぶ柔らかくなったな。ここに来たばかりのころは、人のことを
そっとフクスの頬を撫で、オーアは笑みを浮かべる。彼女の言葉に、フクスは大きく眼を見開いていた。
「なぁ、フクス。ここはお前にとって
眼を伏せ、オーアが
――金魚鉢は、亜人少女たちの苦界。1度入ったら2度と出られず、美しい奴隷のまま一生を過ごす。
けれど、フクスの考えは違っていた。
「そうとは、思えません……」
自分の思いを口にしてみる。その言葉に自身が持てず、フクスは
そんなオーアを見つめながら、フクスは言葉を続ける。
「たしかに普通の人から見たら、ここは苦界なのかもしれない。私たちは奴隷なのかもしれない。でも、ミーオやオーアさんを見ていると、そんな風には思えないんです」
「私たちを見ていると……」
「みんな、戦ってる。そう、思えるんです」
言葉を発しながら、フクスは眼を伏せていた。
闇を見つめるだけの
彼女が、ときおり同じ眼をフクスにみせるからだ。不安なったフクスが声をかけると、ミーオはいつも何でもないと笑顔を取り
その笑顔に、
ミーオはこの金魚鉢という苦界に呑み込まれまいと、必死になって戦っているのだ。
それに――
「オーアさん……。兄さんからお金、とってませんよね……」
フクスの言葉に、オーアの顔がぼっと赤くなる。
「なっ、なんでそれを……」
「兄がこっそり教えてくれました」
「あの童貞……。教えるなって、あれほど言ったのに……」
ぼりぼりと頭を
「その……。お前たち見てるとな、昔の私と重なるっていうか……。その……」
「昔の、オーアさん?」
「私とラタバイ爺のことさ……」
優しくそう言って、オーアは笑ってみせる。遠い昔に思いを
「私の実家はリッター家ほどじゃないがそれなりに古い名家でね……。物心着いた頃から屋敷の地下牢に
「その人……」
「もちろん亜人だよ。でも亜人である以上に、人間らしいひとだった……」
笑みを深め、オーアはフクスを抱きしめる。柔らかな彼女の感触に、思わずフクスは身を固くしていた。
「フクス、私はね、この金魚鉢を守りたいんだ。私たち亜人が、唯一人として戦えるこの場所を。ここがあったから、私は戦うことができている」
そっとフクスを抱き寄せ、彼女は言葉を続ける。
「もし、この金魚鉢が盗られるぐらいなら、壊したほうがマシだ……」
かすかに震える彼女の声に、フクスは身を固くする。そっとオーアの顔を覗き込むと、彼女は
何かを思いつめたようなオーアの顔を見て、フクスは静かに彼女を抱きしめ返していた。
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