オタク組織の秘密

 次の日。

 凪原は登校しなかった。

 どうしたのかと思っていると、今度は幸平が補導されたらしいという噂を耳にした。

 放課後になってすぐ、こっそり電源を入れていた(校則では禁止されている)スマホに幸平からのメールが入った。

 学校近くの公園に来てほしいとのことだった。

 急いで行ってみると、そこにはクリーニングから下したばかりのような制服を着た幸平が、疲れた顔でベンチに腰掛けていた。

 よお、と苦笑いしながら手を上げて挨拶する幸平に駆け寄って事情を聞いてみた。

 立ち上がって直立し、すまん、と頭を下げてから語り始めたのは、こういうことだった。


 真坂が巻き込まれていたのは、DVDやCDの海賊版を手掛けていた大きな組織の末端だった。

 「倶楽部七拾年」は、そのカモフラージュだったというわけだ。

 そこにいたメンバーは、真坂も含めて全て高校生だった。

 リーダーは、あの「サキ」。

 本名は久志野沙希(くしの さき)といって、割と金と人脈に恵まれた家の娘だということだった。

 この何不自由なく暮らしている娘が退屈しのぎに手を出した火遊びが、この組織だった。

 まず、沙希が用心棒にと引き入れたのが、「ヨウイチ」である。

 本名は笠間洋一。

 何でも、中学生の頃は柔道をやっていたのだが、足を痛めたために高校柔道をあきらめなければならなくなり、不貞腐れてそこらの盛り場をうろついていたところで沙希に声をかけられたらしい。

 オタクの「ケイ」は那波(なば)敬といって、やっぱりオタクだった。

 アニメショップなんかに足しげく出入りしていたので、海賊版を裁く売り子にしようとしたらしいのだが、あの性格とルックスだから(人のことはいえないが)役に立たなかった。

 結局、あのアパートの一室で画像のコピーやらなんやらをする羽目になったのだった。

 そこで沙希が目を付けたのが幸平だ。

 校内の女生徒からの情報で、売り子に使えそうだと踏んだ沙希は、「バルビュス」に通っては顔を売り、機会を見て幸平に「告白」という形で接近した。

 真坂は断った。

 僕も話を聞いて初めて知ったのだが、真坂には彼女がいたのだ。

 だが、沙希もそんなことは計算ずくだった。

 断られたら断られたでしつこく迫り、とうとう密会にこぎつけた。

 そこを敬に盗撮させ、売り子にならないと校内にばらまくと脅迫したのだ。

 真坂は折れた。

 下校時に、あのアパートで海賊版を受け取っては盛り場をうろつき、ネットで買い手を募る毎日で、プライベートはなくなった。

 その上、海賊版を売りぬかないと自分で買わなければならなくなる。

 資金稼ぎのため、真坂のアルバイトは増えた。

 不審に思ったのは彼女である。

 休日に会う時間さえなくなったことで、浮気を疑われたのだ。

 うしろめたいのと巻き込みたくないので、本当のことは言えない。

 とうとう尾行までされるに至って、下校時に通う海賊版作成の現場までつきとめられるのは時間の問題となった。

 そこで、人脈と脅迫でメンバーの人間関係を調べ上げた沙希が思いついたのが、「倶楽部七拾年」のトリックである。

 つまり、僕という友人がいる真坂に、白羽の矢が立ったのだった。

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