透明ロボットクックロビン第20話(一部地域では放送されません)
それは、幻の回『クスルフ・ポウンの島』だった。
なぜ「幻」かというと、その日に限って各地で大きな政治スキャンダルが相次いで特番が組まれ、そうした大事件と縁のない周辺諸地域の小さな放送局でだけしか流されなかった回だからだ。
そうした僻地ではビデオ録画などしているファンはほとんどおらず、現在に至るまで動画サイトでアップロードされることもなかったのだ。
さて、そのエピソードはというと。
主人公は、別の銀河から別次元を通ってやってきた天涯孤独の風来坊。
地球の人々とは縁もゆかりもない。
ましてや恩も義理もなく、危機に陥っても助けてやる必要がない。
だが、邪神の力を借りて世界征服を企む悪の科学者ハマーンスタインが無力な人々を力ずくで支配しようとするとき、主人公の怒りは頂点に達する。
彼は空間転移と光学迷彩で姿を消すことのできる巨大ロボット『クックロビン』に乗り込み、迫りくるサイボーグやロボット軍団に立ち向かうのだ。
この回の舞台は、遠い昔に邪神の力を与えられた人々が、その恐ろしさに気づいて隠れ住んだ絶海の孤島。
島を支配下に置こうと狙うハマーンスタインと、それを阻止しようとする主人公の葛藤が描かれる。
南国の海を背にした主人公が、まばゆい太陽の下で金属の肌をしたサイボーグ戦闘員を迎え撃つ様は、とてもロボットものとは思えない。
やがて、戦いの場は悪の秘密基地へと移るが、ワックスで光る床と縦線の入った木製の壁、ペンキ塗りの引き戸はどう考えても体育館にしか見えない。
追い詰められたハマーンスタインは基地の中から巨大なタコに似た巨人を出現させる。
これこそ、島の人々が受け継いだ邪神の力を解き放って出現させた超古代兵器「クスルフ・ポウン」だった。
破壊される基地の中から脱出する主人公を救出すべく、「クックロビン」が発進する。
その出動プロセスときたら!
発進基地に勤務する何十名ものオペレーターが延々と命令を復唱し、横たわる鉄の巨人がクレーンで吊り上げられる。
その胴体がドック内にロックボルトで固定されると、海水が怒涛のように流れ込んでくる。
巨大ロボットは、上昇してきた発進台に乗せられ、クレーンとロックボルトから解放される。
やがて、射出台が斜めにせりあがってくると発進台も傾く。
オペレーターが正確な射角を維持すると、「角度よし!」「発射準備よし!」がどこまでも復唱される。
主人公が命がけの脱出を図っている間に、視聴者には巨大ロボットの維持管理と運用には膨大な数のスタッフと莫大な予算が必要であることが示されるわけである。
さて、海中から発進した「クックロビン」は、海岸で主人公を拾い上げる。
このシーンでは、巨人と小人の対照が、合成とわかっていても鮮やかに描かれる。
乗り込んだ主人公はつぶやく。
「インビジブル」
巨大ロボットの姿は消えるが、物理的になくなるわけではない。
空間を曲げて光を屈折させ、実体の周りを通過させるのだ。
魚眼レンズで捉えられた主人公の視界に、ロボットが叩く相手のタコ頭がある。
だが、カメラの視点からは怪物の巨体だけが吹っ飛んでいるように見える。
怪物「クスルフ・ポウン」は、ギリギリと軋む鉄の歯車のような声で呻く。
「私は音を見、光を聞くのだ!」
インビジブルが見破られたのである。
距離を取った「クスルフ・ポウン」は、身体のあちこちからしゅるしゅると触手を伸ばして「クックロビン」を捕えようとする。
だが、主人公はまたもやつぶやく。
「ディスプレイス」
ロボットの巨体を捉えたかに見えた触手は空を切り、お互いに絡みあう。
空間の狭間に滑りこんだため、触手のある次元からは物理的になくなったのだ。
だが、一方では攻撃もできない。
戦うためには、時空を超える武器が必要となる。
「銀河ボウガン!」
主人公の叫びと共に、巨大ロボットの手の中にクロスボウが現れる。
ネットの動画によれば、これでとどめを刺すのが毎回のパターンらしいのだが……。
怪物「クスルフ・ポウン」は、同じ次元に滑り込んできた。
巨大ロボット「クックロビン」に、四方八方から無数の触手が迫る。
勝ち目がない!
だが、主人公はつぶやいた。
「残念だったな、ここには、音も光もない」
触手の群れは、何もない場所で絡み合う。
「どこだ、どこだあ!」
主人公は冷笑する。
「ここだ……俺は、ここで生まれ、いずれここに消えるのだ」
次元の狭間を抜け、元の地平に降り立つ「クックロビン」。
やおら振り向いて、次元の彼方の怪物を狙ってクロスボウを放つ。
音もなく消滅する怪物「クスルフ・ポウン」。
哀しいまでに冷たい青空の下で佇む巨大ロボットの雄姿を称えるがごとく、エンディングテーマが流れる。
どこかでお前が 待っているなら
俺はここでも 生きていけるさ
見ていなくても 構いはしない
俺はお前を 信じているから……。
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