ディープなオタク組織のメンバー
さて、それから1時間もしないうちに、僕はマスクと伊達眼鏡を外した真坂と共に、4畳半のボロアパートにいた。
シミで薄汚れた壁紙には、太い筆に墨をたっぷり含ませて書いたと思われる、右から左へ「女人禁制」と横書きした長巻紙が貼ってある。
そう、ここは、男たちだけが集う秘密組織なのだ。
その名も「倶楽部七拾年」。
忘れられた1970年代の特撮やSFアニメを楽しむ、男だけの会である。
女ごときに理解できる世界ではない。
この会を知ったのは、つい先月、真坂が「お前、こういうの好きだろう」と持ってきたDVDがきっかけだった。
70年代後半に大ヒットを飛ばして社会現象にもなったロボットアニメである。
何を急にと思ったが、よく見れば一部地域では放送されないまま制作会社が倒産してず、DVD‐BOXにも収められていないTV版のエピソードだった。
事情を聞いてみると、放送当時や再放送時に録画されたVHSをDVDやブルーレイに起こして楽しむサークルがあるというのだ。
さっそくついて行ってみると、このボロアパートにはマスクと伊達眼鏡をした小柄な少年が古い特撮の巨大ロボットものを見ていた。
真坂が僕を紹介すると、その少年は妙に甲高い声で入会を承諾した。
必ずマスクと伊達眼鏡を着用するという奇妙な条件をつけて。
趣味を静かに楽しむために、会のメンバーが声をかけた仲間だけを見分けるためだということだった。
そんな恰好をした連中が頻繁に出入りすると目立つので、鑑賞者は常に2人と決まっている。
筋肉隆々の無口男「ヨウイチ」。
背格好の似た小太りの男「ケイ」。
そして、リーダー格らしい、甲高い声の少年「サキ」。
SNSのグループなどはなく、集会とメンバーの組み合わせの連絡は、いつもメールで来る。
そして今日の集会は、僕と真坂の番だということだ。
暗い電灯の下で、ブラウン管につないだ安物の中国製DVDデッキ。
あまりに安物過ぎてリージョンコードもコピーガードも関係ないというある意味スグレモノだ。
さらにブラウン管では、液晶ではあり得ない鮮明な色合いになる。
そんな最高の条件下で、僕は待ちに待った『商人戦隊ボルタック』を堪能することができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます