第521話 枝葉と新芽③
魔獣たちが咆哮を上げる。
森の奥にて、魔獣たちが一斉に駆け出した。
標的は《アズシエル》だ。
本来ならば敵対することの多い多種多様な魔獣が団結して襲い来る!
『――フッ!』
《アズシエル》の操手――
そして白き鎧機兵は魔獣の群れにめがけて跳躍する。《雷歩》を使った超加速だ。
『まずはお前からだ!』
『少し数を減らさせてもらうぞ!』
そう叫んだ。
突端、
『我が必殺の《
――《黄道法》の放出系闘技・《大転昇》。
簡潔に言えば、《飛刃》による竜巻だ。
敵が密集した状態で放てば、凶悪な影響を及ぼす技でもある。
二~三セージル程度の小型魔獣では抗うことも出来ずに宙へと飛ばされ、無尽に切り裂かれた。大型魔獣でも無傷ではいられない。
『――フハハハハッ!』
凶悪な刃の嵐はややあって収まる。二十体近い魔獣が巻き込まれて命を落とした。
だが、それでも半数は残っている。
特に三体いる十セージル級はすべて健在だった。
黒い体毛を持つ途方もなく巨大な虎・《
茨の森を思わす角を持つ牡鹿・《
巨大すぎる大口を持つ赤い河馬・《
どれも固有種を除けば、最強クラスの魔獣だった。
『これほどの魔獣が一堂に会するのは壮観ではあるな』
操縦棍を強く握りしめて、
十セージル級が三体。
他にも二~六セージル級が十数体いる。
客観的に見れば相当な危機である。
少なくとも単騎で挑んでいいような状況ではない。
(嗚呼。愉しいな)
思わずそう感じてしまう。
強敵との対峙は、やはり心が躍る。
まあ、彼と対峙する時ほどの興奮はないが。
(……ふむ)
そこには大猿の掌の上に立つ黒衣の男がいた。
名はフェイク=ボーダーと言ったか。
語ったことも、偽物を名乗ることも思わせぶりな男だ。
(あの男は捕えたいところだが……)
それは中々に難しいかもしれない。
あの手の男は、幾つも切り札を持っているものだ。
――魔獣遣い。
危険な存在だが、それだけの男ではないと直感が告げていた。
(どうすればよいか……)
双眸を細めて考える。
あの男は決して放置してはいけない。
これはサザンの領主としての判断だった。
まあ、正確にはアイシャを守るための判断ではあるが。
(あの男を殺す訳にもいかない。魔獣を使役する方法はなんとしても暴かねばならない。あの男をここで殺すという選択肢もあるが……)
それは出来れば避けたかった。
魔獣の使役があの男だけの技術ならばいい。殺すことで闇に葬れる。
だがしかし、すでに別の者――例えば、あの男の仲間にも伝わっているのなら、それも潰さなければ危機は去らない。
(それがはっきりしない限り殺すことは避けるべきだ)
何とも悩ましい状況だった。
そうこうしている内に黒衣の男――フェイクが片手を上げた。
直後、再び魔獣たちが駆け出す!
先陣を切るのは小型から中型魔獣たちだ。
三体の大型魔獣は、様子見のように少し遅れて動き出した。
『――雑兵だな』
《アズシエル》は横薙ぎに《飛刃》を繰り出した!
その一撃だけで殲滅は出来ないが、三体ほど両断で来た。
しかし、魔獣は恐れることもなく襲い来る。
それどころか、両断された小型魔獣の上半身を《剣鹿》が蹴り飛ばしたのだ。
魔獣の死骸は凄まじい勢いで《アズシエル》に迫る。咄嗟に《アズシエル》は
四セージル級の中型魔獣たちが《アズシエル》の四肢を封じようとする。
が、それに対し、《アズシエル》は地面を踏み抜くことで対応した。
四肢を掴んでいた魔獣たち。周辺にいた魔獣たちも大きく跳ね飛んだ。
――《黄道法》の放出系闘技・《地裂衝》。
恒力を地表に奔らせて敵を弾く闘技だ。
雑魚を一掃した《アズシエル》は《雷歩》で突進する。
立ち塞がるのは三体の大型魔獣だ。
まず迎え撃ったのは《剣鹿》だった。
茨の森のような角を突き付けて駆け出した。
《アズシエル》は
《アズシエル》は三万六千ジンもの恒力値を持つ最強クラスの機体だ。
例え十セージル級の魔獣であっても力負けはしない。
しかし、膂力に加えて、この巨体の全体重を乗せた突進は相当なものだった。《アズシエル》は後方に火線を引いた。
そこを狙って襲い来るのは《黒虎》だ。
前脚を振り上げて、動きを止められた《アズシエル》に襲い掛かる!
(他種の魔獣が連携を取るのか!)
双眸を鋭くする
同時に《アズシエル》は後方に《雷歩》で跳躍して攻撃を回避した。
だが、《剣鹿》の方の突進は続いたままだ。
間合いもすぐさま詰められていく。
(まずは一体!)
《アズシエル》は刺突の構えを取った。
渾身の刺突でまずは《剣鹿》から潰すつもりだった。
しかし。
――ふっと。
大きな影が月光を遮ったのだ。
背筋に悪寒が奔る。
直後、
――ズズンッッ!
巨大な物体が大地に落下してきた。
地面には亀裂が奔る。
見やると、それは《牙門》だった。
この魔獣もまた、タイミングを見計らって跳躍していたのだ。
しかも、三体の中で最も鈍重そうな巨体での大跳躍だった。
直撃していれば《アズシエル》であっても押し潰されていただろう。
(……これは)
間合いを取り直しつつ、
(強力な魔獣ほど知能は高いものだが……)
明らかに戦術や連携を考えて動いている。
その証拠に、突進の先にいきなり現れたはずの《牙門》に《剣鹿》がぶつかるようなことはない。直前から減速していたのだ。
巨大な牡鹿は、今はゆっくりと旋回して歩いていた。
黒い虎も、獰猛すぎる河馬も、それぞれ間合いを測っている。
(これは意志を奪うような使役ではない……)
魔獣たちは自分の意志でここにいる。
ますますもって危険な状況だ。
何をどうすれば、ここまで魔獣を操れるのか。
いや、操るという表現も今となっては適切ではないかもしれない。
別種の魔獣でありながら、明らかに協力していた。
協力して大切な者を守っている。
(……あの男)
大猿を従えて沈黙する黒衣の男を改めて見やる。
(やはり、捕えなければならないな)
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