エピローグ

第443話 エピローグ

 雲海の上。

 焔魔の森の遥か上空にて。

 宙に浮かぶ黄金の少年は、自分の掌の中を見つめていた。

 そこに握られているのは水色の宝玉。

 二つに両断された宝玉だった。


「……まさかね」


 少年は小さく呟いた。


「自力で脱出するなんて思いもよらなかったよ」


 このような真似をされたのは初めてのことだった。

 それも人間風情にだ。

 流石に自尊心が傷ついてしまった。


「……やってくれたよ」


 その上、力の一滴を与えてやったガンダルフまで降された。

 慈悲深く寛大な自分でも苛立ちは覚えてしまう。

 ――パリンッ!

 掌の中の割れた宝玉を完全に握り潰す。

 粉雪のように粉砕されて宝玉は夜の空の中へと消えた。


「慈悲をかけたのが間違いだったか」


 黄金の少年は呟く。

 彼の眼差しは遥か地上にある一人の少年に向けられていた。


「なるほど。君が煉獄王バロウスの代行者ということか」


 確信を抱く。


「ならばもう容赦はしない」


 宝玉が消えて空になった掌に光が集まっていく。

 ややあってそれは結晶となる。

 ガンダルフにも与えた力の種だ。

 だが、細やかな規模に過ぎなかったガンダルフの種とは密度が違うが。


「ダイアン=ホロット」


 もう一人の駒に告げる。


「我が加護をお前に与えよう」


 疑い深いあの男は、ガンダルフほど簡単には受け取らないだろう。

 だが、それも踏まえてある程度の妥協はしてやるつもりだった。

 そこまでして対処すべき相手だからだ。


「特別サービスだよ。ダイアン君」


 少年は苦笑を浮かべた。


「君の望みは可能な限り叶えてあげるよ。力も地位も君が欲しがっていたお姫さまも。ただその代わりに」


 力の種を強く握りしめる。

 そして、


「身命を賭し、我が力を以て神敵を滅せよ」


 そう呟き、彼は姿を消した。



       ◆



「おいおい」


 ガサゴソと繁みを越えて。

 メルティアたちに遅れて、ジェイクたちもその場に到着した。


「こいつはまた修羅場ってんな」


 苦笑を浮かべるジェイク。

 視線の先にはメルティアたちと、行方不明中だった親友の姿がある。

 元気そうな様子にホッとするが、どうもこの場には知らない人間の姿もある。

 年齢は自分たちより少しだけ上だろうか。

 騎士服を着た褐色の肌の少女である。それもスタイルも美貌も凄い少女だ。

 彼女は豊かな胸を押し付けてコウタの首を羽交い絞めにしていた。

 そんなコウタにメルティアたちが詰め寄っているのだ。

 察するにあの褐色の少女は、コウタが無自覚にまた色々とやらかしてしまった新しいメンバーといったところか。


「ああいうところを見ると……」


 ジェイクの隣で、アルフレッドも苦笑を浮かべていた。


「つくづくコウタってアシュ兄の弟なんだなって思うよ」


「……はは」


 ジェイクは苦笑いした。

 自分の想い人を連れて行ってしまったコウタの兄。

 あの人なら、何があってもきっと彼女を幸せにしてくれると信じているが、やはりまだちょっと辛い思い出だった。

 次の恋を迎えるまでこればかりはまだ胸を痛めるしかない。


「ともあれ、これで目的の一つは遂げたわね」


 と、アンジェリカが言う。彼女の隣にはフランがいて。


「うん。これで後はアヤメとアイリって子と会うだけだね。ヒラサカ君と会えたからそっちの方も問題なさそうだし」


 と、前向きな言葉を告げる。

 それにはジェイクたちも同意見だった。

 と、その時。

 ――ガシュン、ガシュン、と。

 零号が歩き出した。

 しかし、向かう先はコウタの元ではない。


「……? チビ。どこに行くんだ?」


 ジェイクがそう尋ねると、零号は振り向き、


「……《ディノス》ノトコロダ。アソコニ、サザンXノ機体反応ガアル。マダネムッテイルカラ再起動サセル」


 そう答えた。


「お、そっか」


 そう呟くジェイクを置いて零号は再び歩き出す。

 視線の先には両膝をつく《ディノス》の姿がある。

 その傍らには、地に突き立てられた漆黒の大剣の姿も。

 大剣は月光で刀身を輝かせていた。


(……焔魔ノ大太刀)


 臣下に授けた懐かしき剣。

 今や我が御子を守護する剣だ。


(……焔魔ヨ)


 零号の裡に宿る大いなる存在は忠臣を想う。

 よくぞあの剣を今日まで守り続けてくれたと感謝する。

 あの剣が無ければ、とてもこの危機は乗り越えられなかった。

 下手すればコウタは永遠に封印されていたことだろう。

 すべてはあの剣のおかげだった。


「……大義デアル。東方天・焔魔ヨ」


 死者の世界――故郷・・に還っているであろう忠臣にそう告げた。


「……ダガ、コレデオワリデハアルマイ」


 ガシュン、ガシュンと歩き続ける。

 想定外の敵。

 あの忌まわしい連中がこれで諦めるとは思えない。

 恐らくまだ何かを仕掛けてくるはずだ。


「……備エネバ。シカシ」


 そこで零号は足を止めた。

 視線をコウタの方に向ける。

 コウタはあの時、共に封印された少女に頭を抱きかかえられていた。

 それに対し、メルティアが「ふみゃああ――ッ!」と声を上げている。

 リーゼとリノもなかなかに鬼気迫る様子だ。

 あれはあれで相当な危機だった。


「……ムウゥ」


 零号は呻いた。

 そして、


「……トリアエズ、死ヌナ。コウタ」


 自分が選んだ代行者にそう告げるのだった。



 第13部〈了〉


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読者のみなさま。

本作を第13部まで読んでいただき、誠にありがとうございます!


しばらくは更新が止まりますが、第14部以降も基本的に別作品の『クライン工房へようこそ!』『骸鬼王と、幸福の花嫁たち』と執筆のローテーションを組んで続けたいと考えております。


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大いに励みになります!

今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします!

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