第13部

プロローグ

第400話 プロローグ

 長らくお待たせしました。

『悪竜の騎士とゴーレム姫』第13部スタートします!

 毎週土曜更新予定です!

 よろしくお願いいたします!m(__)m


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 その日。

 グレイシア皇国騎士団は、少しばかり困惑していた。


「これはまた困りましたね」


 ポツリと呟かれる声。

 場所は、皇都ディノスの中央に坐するラスティアン宮殿。

 その七階にある団長室。

 呟きの主は、執務席に座る女性だった。


「一体、何が目的なのでしょうか」


 今度は嘆息する。

 年の頃は二十代後半。白のサーコートと、黒い騎士服を纏う肢体は抜群のスタイルであり、軽くウェーブのかかった亜麻色の長い髪が印象的な美女だ。

 髪と同色の眼差しは本来、温和なのだが、今は困惑した様子だった。


 ――ソフィア=アレール。

 グレイシア皇国騎士団の美しき団長である。


「聖アルシエド王国……」


 と、彼女の傍らに立つ男性が呟く。

 年の頃は五十代に入ったほど。鍛え抜かれた長身にはソフィアと同じ白いサーコート。随分と無愛想な顔つきの騎士だ。


 彼の名は、ライアン=サウスエンド。

 皇国騎士団の副団長を務める人物である。

 そしてまだ公には秘密にされているが、ソフィアの恋人兼婚約者でもある。


「建国して百三十年ほどのオズニア北部の新興国。初めて聞く国の名ですな」


 仕事上の口調で告げるライアン。


「ライアンさんも初めて聞きますか」


 一方、ソフィアは嘆息した。

 執務机の上には、一枚の報告書が置かれていた。


「情報によると、武力を以て建国した国。《夜の女神》信仰が強い国らしいですね」


「そのようですな」


 ライアンは渋面を浮かべた。


「あまりに離れすぎて、その程度しか分からないのが現状です。むしろ入国ルートだけで国の名まで追ったのですから国境管理局はよくやったものです。しかし、問題はその一団ですな。二個小隊程度ですが、皇国領に訪れた。いや、二個小隊も訪れたと言うべきか。恐らく武力を所有している集団が商隊に偽装してまで何故、国交もほとんどない皇国に訪れたのか……」


「……斥候隊でしょうか?」


「それよりも、諜報部隊と考えるべきかと」


 ソフィアの独白をライアンが否定する。


「かの国と皇国では国力が違いすぎます。敵対行為はよしとは考えないでしょう。何かしらの情報収集のために訪れたと考えるのが妥当かと」


「確かに、その可能性が高いですね」


 椅子の背もたれに体を預けて、ソフィアは頷く。


「果たして彼らの目的は分かりませんが、いずれにせよ、しばらくは監視が必要ですね。誰に任せるべきか……」


「……? それは――」


 ライアンは、ソフィアの方に目をやった。


「ミランシャ=ハウルに一任すればいいのでは? 先日帰還したと聞きましたが?」


 先日、帰還したばかりの《七星》の第五座。

 彼女が手空きのはずだ。任務を調整する必要もないため、適任と言える。

 しかし、ソフィアはかぶりを振った。


「ミランシャちゃんはもう無理です」


 そう告げて、ふうと吐息を零した。


「無理とは? どういうことです? 団長?」


 眉をひそめるライアンに、


「ミランシャちゃんは先日退団しました」


「……………は?」


「今頃、実家で出立の準備をしている頃だと思います」


「……おい。少し待て」


 ライアンは額に指先を当てて、プライベートの口調に変えた。


「それはどういうことだ? ソフィ」


 ソフィアの愛称を呼ぶ。


「いつそんな話になった? 聞いていないぞ。まさかお前は、ミランシャ=ハウルの退団を認めたのか?」


「え、えっと……」


 対し、ソフィアは視線を逸らした。


「その、だって仕方がないじゃないですか。ミランシャちゃん、遂に覚悟を決めちゃったみたいで、もう引き止めれないなって感じで……」


「……ソフィ」


 ライアンはソフィアの横まで近づくと、彼女の両頬を掴み、強引に視線を自分に合わさせた。恋人ゆえの気安さだが、鉄面皮のライアンの額には青筋が浮かんでいる。

 ソフィアは「あうゥ」と呻いた。


「だって、だってェ」


 ソフィアはライアンの両腕を掴んで言う。


「意外と奥手なミランシャちゃんが、遂に覚悟を決めたんですよ? 背中を押したくなるのも仕方がないじゃないですか……」


「ミランシャ=ハウルは、クラインのところに行くつもりなのか?」


「……はい」


 頬を押さえられたまま、ソフィアは頷く。


「どうもアッシュ君のところ、凄いことになってるみたいです」


「……そうか」


 恋人の頬を押さえこんだまま、ライアンは呟く。

 ミランシャ=ハウルの退団は痛い。

 しかし、アッシュ=クラインの場所に行くのならば、まだ許容もできる。

 アッシュ=クラインに関しては、いずれ騎士団に引き戻すつもりだった。

 そして、アッシュ=クラインに皇国に戻れば、ミランシャ=ハウルも戻ってくる。恐らくオトハ=タチバナもだ。


(その際に全員を騎士団に入れることも可能かもしれんな)


 今代の《七星》を全員入団させる。

 今回の件は、その布石とすることが出来るかもしれない。


「……まあ、いいだろう」


「本当ですか!」


 ソフィアが、ぺかあっと表情を輝かせた。


「なら私の寿退職も!」


「お前の狙いはそっちか……」


 ライアンは嘆息した。


「お前はダメだ。絶対に認めんからな。そもそも同じ《七星》とはいえ、団長のお前と一隊長に過ぎないミランシャ=ハウルを一緒にするな」


「意地悪! ライアンさんの意地悪!」


 ソフィアは不満そうに頬を膨らませた。


「ともあれだ」


 ライアンは、ソフィアの頬から手を離して告げる。


「ミランシャ=ハウルが抜けたことは痛い。こうなると尚更、クラインの弟を入団させなければならないな」


「ああ。コウタ君ですか」


 ソフィアはポンと柏手を打った。


「彼は今、ハウル邸にいるはずですよね」


「ああ」ライアンは頷く。


「恐らく近々エリーズ国に帰国するだろうが、良い機会でもあるからな。一度、彼とも話したいと思っていたところだ」


 と、ライアンが呟いた時だった。

 不意に、団長室のドアがノックされた。

 ソフィアとライアンは、互いに目を合わせた。

 そして、


「どうぞ」


 と、ソフィアがドアに向かって告げる。

 すると、「失礼しやす」と言って、部屋に入って来たのは髭面の大男。上級騎士の一人であるバルカス=ベッグだった。


「ベッグか」


 ライアンが部下に視線を向ける。


「どうした?」


 率直にそう尋ねると、


「へえ。実は……」


 バルカスは頭をかいて困惑した顔を見せた。


「その、アルフレッドの坊ちゃんから伝言を受けまして」


「アルフ君からですか?」


 ソフィアは小首を傾げた。


「彼は今、休暇中でしたよね。コウタ君たちの歓迎のために」


「ええ。そうなんですが……」


 バルカスは、困惑した表情のまま告げた。


「どうも困ったことになったようで」


「困ったことですか?」


 ソフィアが眉根を寄せた。

 バルカスは「へい」と頷く。

 そして、


「どうもコウタの叔父貴、攫われちまったようなんです」


 そんなことを告げた。

 一拍の間。


「……はい?」「……なに?」


 歴戦の《七星》たちは、目を丸くした。

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