第361話 そうして、彼女は運命を知る③
――ガギンッッ!
ぶつかり合う処刑刀と、金棒。
二つの武具は、火花を散らした。
《ディノス》は、処刑刀を振り抜いた。
それに合わせて《黒鉄丸》が後方に跳ぶ。
鎧機兵の巨体とは思えない身軽さで回転し、着地する。
まるでネコのような身軽さ。着地の振動もない。
(……凄いな)
その姿に、コウタは舌を巻いた。
(本当に凄い。凄い戦い方をする子だ)
アヤメの愛機・《黒鉄丸》の戦い方はかなり独特だ。
主に跳躍を主体にしているのである。
《雷歩》の多用はもちろん、空中で竜尾を揺らし、突然の方向転換。先程のようにくるりと回り、着地もする。
本来、鎧機兵でこんな戦い方をする者はいない。
ここまで縦横無尽に動くと、操縦席の中はシェイクされているのと変わらないからだ。
特に、空中で前転や後転など狂気の沙汰とも言える。
そんなことをすれば空中に放り出されて、操縦席の内壁に叩きつけられる。よしんば操縦シートにしがみつけても、今度は動くことも出来なくなるだろう。
しかし、アヤメは、それを生まれながらの身体能力の高さと、人間離れの三半規管で成し遂げていた。
その上、
『《焔魔ノ法》上伝! 土の章!』
アヤメが叫ぶ!
『《
――ガガガガガガッッ!
直後、巨大な土の壁が数壁乱立する。
その一つを《黒鉄丸》は蹴りつけ、方向転換の足場へとする。
金棒が振り下ろされた。
(――クッ)
コウタは表情を険しくし、《ディノス》が機体の位置を一歩ずらした。
削岩機のように回転する金棒は、大地を打ち砕いた。
『逃げるなのです!』
『いや、流石に避けるよ』
そう返しつつ、《ディノス》は横薙ぎに処刑刀を繰り出すが、《黒鉄丸》は後方に跳んでクルクルと回転。土壁の一つの上に着地した。
相変わらずの鎧機兵とは思えないほどの身軽さだ。
(それにあの力、大なり小なりあるけど、自然物を操る力なのか)
《黄道法》の闘技とは違う力。
それは、対人戦から鎧機兵戦へと移っても変わらない。
恐らくは、アヤメ個人による力なのだろう。
興味深くはあるが、厄介な力でもある。
発動前に対象の自然物が光ってくれるのはありがたいが、どんな力なのかは発動するまで分からない。回避はともかく、先読みはしづらい力だった。
コウタは《万天図》に、ちらりと視線を向けた。
(あの機体の恒力値は六千三百ジン。ノーマルモードの《ディノス》と、ほとんど変わらない。出力自体は少し高い程度だ)
その点はありがたいと思う。かなりあり得ないモノばかり見てきたので、鎧機兵もあり得ない出力だったら、どうしようと考えていたのだ。
(《黄道法》の闘技に加えて、あり得ない機動。不可解な力。厄介だけど……)
コウタは、双眸を細めた。
とは言え、《九妖星》を相手にするほど手強い状況でもない。
『シキモリさん。君は強い』
『……当然なのです』
アヤメは答える。
『鎧機兵の使い方を学んだのは一年程度です。けど、焔魔堂の里では、物心ついた時から修練を積んでいるのです』
『……里か』コウタは少し苦笑を浮かべた。
『そこら辺も詳しく聞きたいな』
『だったら勝つことなのです』
アヤメは、ふんと鼻を鳴らした。
『お前が勝ったら、お前の腕の中で何でも話してやるのです。里についても、焔魔の秘伝についても。全部お前のモノです』
『いや、そんな尋問みたいな真似までする気はないけど……』
コウタは、ふっと笑う。
『君の不思議金棒には興味があるな』
『……何故、お前はそこまで金棒に拘るのです』
何故か、金棒にやたらと執着するコウタに、アヤメは嘆息した。
『いや。だってカッコイイじゃないか』
コウタは、珍しく少年らしい言葉を口にした。
『武器の伸縮自在だよ。要はあれだよ。無手で戦いながら、後になって「仕方がない。ボクも愛用の武器を使わせてもらうよ」が出来るんだよ』
意外にも、メルティアにも見せたことのない無邪気な顔でコウタが言う。
強いて挙げるのならば、ジェイクにならたまに見せる表情だ。
要するに、少年心が刺激されているのである。
アヤメにしてみれば、全く分からない感情だった。
『まあ、いいのです』
アヤメは淡々と告げる。
『どうせ、お前はここで負けるのです』
『そうはいかないよ』
コウタはそう返す。同時に《ディノス》が処刑刀を薙いだ。
『金棒は一旦置いとくとして。ボクは負ける訳にはいかないんだ。だって……』
すうっと瞳を細める。
かつて、敗北したせいでメルティアを奪われそうになったあの日を。
『負けたら何も守れない。ボクは二度と負けたくない。だから』
ズンッ、と《ディノス》が地面に処刑刀を突き立てた。
『今から全力で行く』
コウタは、グッと操縦棍を握りしめた。
――ビシリッ、と。
処刑刀を中心に地面に大きな亀裂が奔る。
アヤメが顔色を変えた。
コウタは告げる。
『君を「あの男」クラスと見立てて臨む。手加減をする気もないよ。君は充分強いから。多分、かなり荒っぽくもなるけど許して欲しい』
『……望むところです』
アヤメは、神妙な声でそう返した。
声は緊張しているようだが、そこに怯えはない。
コウタは笑う。
そして、
『行くよ。シキモリさん』
直後、大地が爆発するであった――。
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