第240話 再会と、新たなる出会い③

『は、初めまして』


 コウタに続き、メルティアが声を張り上げた。


『メ、メルティア=アシュレイです。コウタの幼馴染で、同級生で、ア、アシュレイ家の長女、です』


 続けて、ブオンと頭を下げる。ハンマーを振り下ろすような挨拶に、アティス王国の少年達は表情を強張らせた。少女達も少しだけ腰が引けている。


「これは申し遅れました」


 そんな中、壮年の騎士が堂々とした佇まいで挨拶を返してくる。


「私の名は、ガハルド=エイシスと申します。アティス王国第三騎士団の団長を務める者です。アシュレイさま。ヒラサカ殿。どうか、お見知りおきを」


 言って、騎士はコウタに一礼をし、メルティアの着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの手の甲にキスをした。

 礼儀正しい騎士団長の対応を見て、少年少女達も続いた。


「おう! 俺の名はエドワード=オニキスだ!」


 まずは、ブラウンの髪の少年が名乗る。


「エドと呼んでくれ!」


 二カッと笑ってそう告げた。

 とにかく明るそうな少年だ。

 コウタとメルティアは「宜しく」と返して、エドワードと握手を交わした。


「ロック=ハルトだ。二人とも宜しくお願いする」


 続けて、そう名乗ったのは大柄な少年。ジェイク並みの巨漢だ。

 少し武人のような雰囲気を持っている。

 コウタ達は彼とも握手した。


「サーシャ=フラムです。よろしくお願いします」


 楚々たる仕草で名乗るのは、銀髪の少女だった。

 甲冑まで着た見た目は、まさに騎士そのものなのだが、何というか良き母、良き妻になりそうな穏やかさを持つ少女だ。


(やっぱりこの人がサーシャ=フラムさんか)


 コウタは、少しだけ複雑な想いで彼女と握手を交わした。


「私はアリシア=エイシスよ」


 長い髪をなびかせて、活発そうな少女が名乗る。

 顔つきからして凜々しさを感じさせる少女だ。

 ただ、少し気になる。


「……エイシス?」


 コウタは、壮年の騎士の方に目をやった。

 エイシス騎士団長は、苦笑を浮かべる。


「娘です。礼儀知らずで申し訳ない」


(き、騎士団長の娘っ!?)


 コウタは、顔には出さなかったが驚愕した。

 その事は、ミランシャからも聞いていなかった。


(に、兄さん、そんな娘にまで好かれてるの……)


 まじまじと少女――アリシアを見つめる。

 彼女は、怪訝そうに眉をひそめた。


(ま、まあ、それを言うのなら、ルカに至っては王女さまか)


 気持ちを立て直す。メルティアと共に、アリシアとも握手を交わした。

 そして、最後の一人と向き合った。


「……ユーリィ=エマリア。ルカの友達。よろしく」


 空色の髪の少女が名乗る。

 やはり、この子こそが兄の義娘らしい。

 コウタは一瞬沈黙するが、すぐにニコッと笑って彼女と握手を交わした。

 それから、改めて少女達に目をやった。

 アリシア、サーシャ。そしてユーリィを。

 事前に聞いた話では、彼女達は、全員が兄に想いを寄せているらしい。


「……コウタさま」


 その時、不意に、リーゼがコウタに声を掛けてきた。

 コウタは、リーゼに目をやる。

 彼女は、何とも言えないような表情を浮かべていた。

 わざわざ言葉にしなくとも、想いはよく伝わってくる。

 コウタは、とても困ったような表情を見せた。


「……うん。分かっているよ。リーゼ。彼女達に加えて、さらに……」


 そこで、視線をルカにも向ける。

 可愛い後輩は、不思議そうに首を傾げていた。


「……多分、ルカもなんだよね。はぁ……」


 思わず溜息が出てくる。


「あ、あの……」


 すると、サーシャが、おずおずと手を上げた。


「ど、どうかしたんですか? その、ヒラサカ君」


 優しそうな少女が、心配げな眼差しで尋ねてくる。


「あ、コウタで構いません」


 コウタは内心では苦笑しつつも、笑った。


「ボクらも、出来れば皆さんのことを名前で呼びたいですし」


「それは、別に構わないけど……」


 続けて、アリシアがコウタに尋ねてくる。


「じゃあコウタ君。何かさっきから奇妙な感じなんだけど、何かあったの?」


 随分と直球な質問だ。


(これは露骨だったかな?)


 確かに、心情を隠しきれていなかったように思える。

 リーゼやジェイクの方に目をやると、彼らは嘆息したり、肩を竦めていたりした。


(う~ん)


 コウタは、頬をポリポリとかいた。


「いえ。本当に話通りの容姿の人達なんだなって思って。実は、ボクらはここにいる皆さんのことをあらかじめ聞いていたんです」


「「「………………え?」」」


 アリシア達は目を丸くする。

 これもまた当然の反応か。コウタは心の中でふっと笑う。


「もちろん、ここにいないオトハ=タチバナさんや――」


 そこで、コウタは少し躊躇った。

 が、すぐに意を決し、その名を呼んだ。



「……さんの、ことも」



 ――兄の今の名を。

 一瞬、沈黙が降りる。

 驚くルカも含めて、アリシア達は呆然としていた。


「ルカ」


 ユーリィが、訝しげな様子でルカに尋ねる。


「私達のことを事前に教えてたの?」


 それに対し、ルカは、ブンブンとかぶりを振った。


「ア、アリシアお姉ちゃんのことや、サーシャお姉ちゃんのことは少し話したことはあるけど、ユーリィちゃんや、仮面さんのことは話したことはないよ」


「……じゃあ、どうして私達のことを知ってるの?」


 ユーリィが眉根を寄せる。

 それはアリシアやサーシャ、ロック達も同様だ。

 ユーリィに限らず、アティス組にしてみれば、訳の分からない状況だろう。

 と、その時だった。


「それは簡単な話よ。ユーリィちゃん。だって、アタシが教えてあげたのだから」


 その声は、唐突に響いた。

 それは聞き覚えのある声だった。

 コウタ達のみならず、アリシア達にとっても、だ。

 事実、アリシア達はギョッとしていた。

 エイシス騎士団長も桟橋に目を向けて「ッ! あなたは……」と目を剥いている。

 彼女を知らないのは、この場ではルカだけだった。

 そして――。


「「「ミ、ミランシャさん!?」」」


 桟橋に目を向けたアリシア達が、驚愕の声を上げた。

 現れたのは、三人目の公爵令嬢。

 ――嵐を呼ぶ赤髪娘。

 ミランシャ=ハウルの登場である。

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