第239話 再会と、新たなる出会い②

「うわ」


 桟橋に足をかけたコウタは、思わずそんな声を上げた。

 眼下には、すでに降船しているリーゼ達も含めると、かなり大人数がいる。

 が、その中でも目に止まるのは、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムに着たメルティアだ。

 彼女は、一人の少女を抱き上げて、グルグルと回していた。

 淡い栗色のショートヘアに、時折見える水色の瞳。

 メルティアには劣るものの、素晴らしいスタイルを持つ彼女は、この国の騎士学校の制服なのだろうか、中央に赤く太いラインを引いた橙色の服を着ていた。


 ルカ=アティス。

 メルティアの愛弟子だ。上空には飛翔するオルタナ――ルカが制作した、飛行型ゴーレムが飛んでいる。


『素晴らしいです! ルカ! よくぞ、これほどの子を!』


 と、ルカを抱き上げたまま、メルティアが絶賛している。


「ありがとうございます! お師匠さま!」


 ルカもまた満面の笑みだ。

 グルグルと振り回されるもの些細なことのようだ。


(ははっ)


 遠く離れていても仲の良い師弟の様子に、コウタは柔らかく微笑んだ。


(良かった。早速、ルカと再会できたんだ)


 これほど早い再会は予定していなかったのだが、どうやら、ルカはわざわざ自分達を出迎えに来てくれていたらしい。

 近くには送迎用か、大型馬車が二台。その近くには、見ただけでかなり地位が高いことが分かる、カイゼル髭の騎士の姿もある。

 そして、迎えに来てくれたのは、壮年の騎士と、ルカだけではないようだ。

 ざっと見ただけでも、五人の姿がある。

 全員が、コウタとほぼ同年代。

 少年が二人。少女が三人という構成だ。

 少年の方は、若草色の髪の大柄な人物と、ブラウンの髪の小柄な人物だ。

 二人ともルカと同じ、騎士学校の制服らしき服を着ていた。

 一方、少女達の方は、一人だけ白いワンピース姿なのだが、他の二人は、やはり橙色の制服を着ている。


(……もしかして、彼女達って)


 コウタは少女達の容姿を改めて確認した。

 一人目は、銀髪の少女だ。

 温和そうな顔立ちと、琥珀色の瞳。何故か彼女だけはヘルムを片手に抱え、女性的なフォルムのブレストプレートを装着していた。鎧の上のため、確証は取れないが、恐らくメルティアにも劣らないぐらい抜群なスタイルをしている。


 二人目は、髪の長い少女。

 まるで絹糸のように綺麗な髪だ。切れ長の蒼い瞳を持ち、顔立ちも美しい。スタイルこそ銀髪の少女とは対照的でスレンダーなのだが、すらりとした長い脚には、しなやかな美があった。少しリーゼに似ている気もする。


 そして三人目。唯一、ワンピースを着た少女。

 実は、彼女だけは見覚えがある。

 友人であるアルフレッドが、大事そうに持ち歩いている写真の少女だ。

 年齢は他のメンバーより少し幼い。見た目的には十二、三歳ぐらいにみえるが、アルフレッドの話ではルカと同い年のはずだ。

 空色の髪と、翡翠の瞳。まるで人形を思わせる美麗な顔つきの少女。

 ワンピースから伸びる四肢は、とても華奢で透き通るように白い。コウタにとって、かなり特殊な立ち位置にいる人物である。


(彼女が、ユーリィ=エマリアさん、なのか)


 兄の――養女である少女。

 正確には、兄が保護者代理ということであるらしいが、ミランシャやシャルロットの話では、兄は彼女を実の娘のように愛しているらしい。

 コウタにとっては、義理の姪ということになるのだろうか?


(もしかすると、兄さんはサクヤ姉さんと結婚して、姪っ子が産まれていたりするのかなとは思ってたけど……)


 まさか、自分とほぼ同世代の姪っ子がいるとは思わなかった。

 コウタは、微かに嘆息した。


(まあ、いいや。それはともかく)


 改めて、コウタは、視線を彼女達に向けた。

 彼女達は揃って、どうにも困ったような顔をしていた。

 その視線は、メルティアとルカに注がれている。


(あ、なるほど)


 コウタは、苦笑した。

 すると、たまたま視線が合ったリーゼが、呆れたふうにかぶりを振った。

 それだけで彼女の言いたいことが、伝わってくる。


『コウタさま。止めてあげてくださいな』


 そんな声まで聞こえてきそうだ。

 きっとメルティアは、挨拶もそっちのけでルカとの談話を始めたのだろう。

 コウタは苦笑を浮かべたまま、


「ダメだよ。メル」


 はしゃぐメルティアに声を掛けた。

 途端、全員の視線が、コウタに集まった。


「いくら嬉しくても、まずは初めて会う人達にご挨拶しないと」


 と、幼馴染に告げる。


「コウ先輩っ!」


 メルティアに抱き上げられていたルカが、嬉しそうにコウタの名を呼んだ。

 彼女との再会も、実に久しぶりだ。


「ルカ。元気そうで良かったよ。そして」


 コウタは優しく微笑んだ。

 それからメルティアの横まで来ると、異国の少年、少女達に視線を向けた。

 そして、コウタは告げる。

 恐らく、自分にとって特別であろう彼女達に。


「初めまして。ボクの名前はコウタ=ヒラサカです。エリーズ国騎士学校の二回生で、アシュレイ家の使用人をしている者です」

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