4 覚醒二日目
つぎにめざめたら、人数がやけにふえていた。
ジイサン
例の医者らしき坊主
医者らしき別の男 一人
五十歳くらいのオッサン 一人
十代後半~二十代の若い男 三人
五十代のオッサンは、ジイサンと同じくちょんまげヘア。
布団の横であいさつしたとき、
【
医者その二は三十代中盤。
ヘアスタイルは、ちょんまげでも坊主でもない
字幕は、【
三人のニイチャンたちにもそれぞれ、
【
【
【大野冬馬・小姓頭】という表示が。
なんで、最後のニイチャンだけ傍点つきなんだ?
それに、小姓って時代劇で殿様のうしろで刀持ってすわってる子供のことだよね?
でも、こいつらちょっと歳いってねぇか?
一番若そうな森でも俺と
浅田と大野は二十代半ば?
あれ、なんでだろ?
目線が……自然にあの傍点のヤツにいってしまう。
え、なんで? なんで?
大野をはじめ、小姓たちはみんなちょんまげ。
いでたちは、黒い羽織袴スタイルで、両胸に各々の家紋入り ―― って、また大野に視線がもどる。
死人みたいな顔色。
ゲッソリこけた頬。
血走った目。
はた目にも憔悴しきってるのがわかる。
その濁った眼で、さっきから俺をガン見している!
……こ、怖いんだけど。
にしても、昨日の坊主医者以外には出る字幕の謎は、まだ解明されていない。
「家中一同、まことに案じておりました」
西郷が代表であいさつした。
こいつら全員、バーチャル仲間なのか?
「殿の一日も早いご快復を、お祈りいたしております」
(殿じゃねぇよっ!)という俺の叫びは、なぜか言葉にならない。
一方、西郷とやらは忙しいらしい。
長々と妄想ゲームにつきあっていられないのか、一礼すると部屋からさくっと出ていった。
「西郷殿はこれより登城せねばなりませぬ」
今日も江戸城では、黒船対策会議が開かれ、西郷はまた欠席届を出しに行くそうだ。
幕府内の議論はかなり紛糾していて、なんでも井伊が「病気が治りしだい、早く登城してほしい」とリクエストしてきたらしい。
松平容保ってそんな大物だったか?
いやいやいやいや。
幕末史でも、松平容保は1862年の『文久の改革』で新設された京都守護職就任あたりからしか出てこないはずだ。
よっぽどのマニアが、『桜田門外の変』後、幕府と水戸藩の間を取りもったエピソードを知ってるかどうかぐらいの薄~い存在だったような。
ジイサンは、松平容保ファンなのか?
だからって、史実曲げちゃうのはどうなんだろう?
でも、大道具やコスプレ的にはなかなか凝ってるよな。
この部屋も……柱梁に使用されているのはかなりいい木材。
襖絵や床の間の掛け軸も、京都の寺や博物館収蔵品級のクオリティに見える。
ジイサンたちの衣装・ズラには、本物っぽい『着慣れ感』すらにじんでいる。
「あれ? ここ、本当に江戸時代じゃね?」みたいな錯覚におちいりそうだ。
時代考証だけはバッチリなんだよなぁ……なんて、感心している場合じゃなかった!
脱出するには早く回復しなくちゃいけないのに、体力的には歩くのもムリそう。
とりあえず、なんか食べて力つけなきゃ。
井伊に派遣された(設定の)医者は、朝の診察を終えると帰り支度をはじめた。
「意識ももどられ、症状も安定していらっしゃいますゆえ、とりあえず危険な域は脱したものと。なれば、私はこれにて」とゲーム離脱宣言。
「肥後守さまのご病状につきましては私から掃部頭さまに申しあげておきます」
(肥後守=松平容保 掃部頭=井伊直弼)と、瞬時にうかぶ。
まただ。
なんか……気持ち悪い。
井伊家の医者は、木製の薬箱とともに去っていき、部屋には字幕の出たやつだけが残る。
スキンヘッドの字幕は、最後まで出なかった。
傍点ガン見男が、部屋の外になにか合図を送る。
ほどなく、蓋つき椀の乗った盆がうやうやしく運ばれてきた。
覚醒後初の食事。
お粥の上澄み ――
担当は、小姓頭の大野冬馬さん。
近くだと、さらに迫力あるんっすけど。
ギンギンに血走った目でお口アーンしてもらっても全然うまくないから、できたらほかのやつにかわってほしい。
食後、(トイレにいきたいな)と思ったら、俺が言う前にいきなりお姫さま抱っこ。
長い廊下を通って厠に連れていかれる。
え、なんでわかったの?
読心術?
ここでも抱っこ係は、またあの男。
こいつの方こそ病人みたいな顔色してるし、途中落とされないかハラハラドキドキ。
大野は、背は百七十センチそこそこの背丈で、マッチョ系じゃないすらっとした体型なのに肩・腕・胸の筋肉はかなり発達し、大の男を抱っこしても揺らがない強靭な下半身をもっている。
なんかのスポーツで、しっかり鍛えぬかれたような身体だ。
不思議なことに、抱っこされた瞬間、全身をかけぬけた妙な安堵感とハイな気分。
こ、この感覚は、なに???
用足し後、ふたたびお姫さま抱っこ。
心配していた落下事故もなく、もといた座敷に無事ご帰還。
部屋にもどると、布団の横には湯気のたつ桶が置かれていた。
着物を脱がされ、あたたかい布で身体を丁寧に拭かれる。
そのあとは、あたらしい寝間着にお着がえ。
これだけでなんかもうドッと疲れが……。
知らぬ間にまたうとうと眠ってしまった。
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