格
「由良氏、三池氏のやらかしプロポーズを未だに真に受けている模様。いい加減訂正するべきでは?」
「三池さんの妻などとその気になっていたあなたの姿はお笑いだったね、って言うのも優しさですよ、知りませんけど」
「やめぇや。『然るべき時に打ち明けるんでそれまで秘密』って妙子姉さんが言うとったやろ、どう考えても問題の先延ばしやけど」
「真実はちゃんと俺の口から言います。それがケジメですから。ただ、叶うなら電話越しの上、公務とかで由良様が海外に居る時を狙いたいです、はい」
現在、由良様は「申し訳ありません、電話が入りまして」と携帯電話を片手に席を外している。
鬼の居ぬ間に何とやら、俺たちは雰囲気を緩くして駄弁り中だ。もちろん人外聴力の由良様に聞かれないよう、読唇術手前の声量なのは忘れない。
憂鬱だ。改めて考えると結婚が厄介過ぎる。
(由良様視点で)結婚破棄すれば、凄訴パワー暴走で不知火群島国が
結婚すれば全世界のタクマファンがキレてワールドワイドな暴動待った無しだし。昨日のプチ
日本に帰りたい。
タクマのアイドル活動によって世界に希望が生まれた、イキイキと活気(オブラート表現)も出てきた。
もう大丈夫だ。みんな、超元気でタクマ無しでもやっていける。
巣立ちの時だ。逞しくなったみんなの背中を寂しさ
「お待たせいたしました」
げぇ、由良様!? 障子が開くまでまったく気配が無かった。バーサーカーがアサシンスキル持っちゃダメでしょ。
「イルマ様を中御門領にお送りした、と部下からの電話でございました……あら、拓馬様」
お淑やかな瞳を爬虫類リスペクトのギョロッとした形に変えて「今、なにか良からぬ思いに
「……あは、あははは。ま、まさか、俺はいつだって正道を行く男。良からぬとは無縁ですよ」
「ええ、ええ、そうでございましょう。ワタクシのお慕いする拓馬様が邪道に手を染めませんよね。愚問、失礼いたしました。うふふふ」
やだ、由良様ったらカエルを執拗に追う蛇よろしく絶対に逃がさない意志に満ち満ちていらっしゃる、うふふふ(絶望)。
由良様がお戻りになられた事で、話し合い再開だ。
「部下の報告によりますと、イルマ女王のご様子は平静なもので、事件による動揺は見られなかったとの事です」
「ああ、やっぱり、そうですよね」
「やっぱり、とおっしゃいますか…………ショッキングな出来事のため思い出していただくのは心苦しいのですが、襲撃の際のイルマ様のご様子。皆様にはどう映りましたでしょうか」
「不意をつかれた感が皆無。まったくもって被害者らしくない、役者として圧倒的不合格」
由良様の問いに、一番に答えたのは椿さんだった。
その道のプロ故か、もの申したいことが溜まっていたようだ。
「素人のうちからしても違和感ありましたわ。襲撃者は車の陰から……死角から突然現れたのに即対応していて、まるで始めから知っていた動きでした」
「俺も同意見です。イルマ女王には余裕がありました。知っていなきゃもっと焦ると思うんですけど」
だから襲撃事件はイルマ女王の自作自演です、と暗に伝える。国主の前で隣国の主を咎めるのは、
そう思う俺だったが、そう思わない者も居た――音無さんだ。
「静流ちゃんも真矢さんもタクマさんも、もっとハッキリ言えば良いじゃないですか。ヤラセですよヤラセ! イルマのド下手な演技で一目瞭然です!」
「ちょ、音無はん!?」
「南無瀬組の中では結論が出ているじゃないですか。分かり切った事はさっさと共通認識にして、実りのある議論に移りましょ」
相変わらず音無さんはストレートでぶっ飛ばす系である。だが、その豪胆さが頼もしくもあるな。
「率直なご回答ありがとうございます。ワタクシもイルマ様の反応に作為的なものを感じております。問題は『なぜイルマ様が策謀を巡らせているのか』でございますね」
「それだったらバッチリ推測してくれました、タクマさんが! イルマの目的は~~」
「まっ、待って、音無さん!?」
前言撤回、そこまでの豪胆さは求めていない。最近の由良様は清楚な外面がガタガタなんだぞ、刺激を与えちゃ――「あたしとタクマさんをくっ付けたいみたいですよ、もろちんネットリと
あああああああああああああああっっ!!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「………………」
由良様が目からハイライトを消して、お静かになった。音無さんの爆弾発言を受け、自分も爆発すべきか迷っているのだろうか。
しばし俺の部屋に沈黙が降り、そして。
「詳しく…………」
うっ。
「説明してください」
ううっ。
「今、ワタクシは冷静さを欠こうとしています」
ううぐぐぅぅぅ。
「あ、あくまで推測ですよ。イルマ女王を見ていますと、俺と音無さんの仲人をやっているようで――」
南無瀬邸や南無瀬テレビや(由良様がご機嫌直角にならないよう『結婚式』という単語は使わず)デモンストレーションの場で、俺と音無さんの仲を取り持とうとしてアヘアヘしていたイルマ女王。その痴態とか醜態とかを低刺激な言い回しで伝え、命だけはご勘弁と内心添える。
「理解できません。イルマ女王は欲望に忠実な方とお見受けしました。ご自分の成したい事は何があろうとやり遂げる、その覚悟が……いいえ、覚悟を持つまでもなく必然として行う方です」
「由良様のご慧眼に異見はありません。ですが、イルマ女王の覚悟はちょっと特殊でして」
「どういう事でしょうか?」
「……世の中は広く、人の性癖も広いという前提でお聞きください。おそらく、イルマ女王は『奪われる事に快感を得る』タイプではないかと」
「――――あらあら?」
由良様が小首を傾げた。仕草が可愛らし……くはない。未だに目がノーハイライト。巫女服の相乗効果もあり、
怪奇現象に発展する前に畳みかけよう。
「イルマ女王は婚約者候補を実の母親に奪われた過去があります。きっと想像も出来ない苦痛があったに違いありません。心が壊れないためにイルマ女王は『奪われた事』に折り合いを付けようとしたのではないでしょうか!」
根拠? んなもんはない。想像だ、口をペラペラ回してそれっぽく繋げるのだ。重要なのは事実じゃない、由良様を
「普通の人間は嬉しかったり楽しいと快楽物質が分泌されます。しかし、母親によって捻じ曲げられたイルマ女王は『奪われる』とドバドバ快感しちゃうのです、頭おかしくなっているんですよ」
適当に不敬しているけど、あながち間違いじゃないかもしれないな。ほら、イルマ女王って時々頭を押さえて得も言われぬお顔をしていたし。
「ず、随分乱暴なお考えではありますが、イルマ様が独特な感性をお持ちなのはワタクシにも思い当たる点が少々ございます。以前、ご自身の精力的な活動を『脳を整える』ためとおっしゃっていましたし。まさか、アレはあえて奪わせて自傷行為を愉しむ事を指していたと……」
由良様は押し黙った。性欲の量は極大だけど、性欲の方向性は王道だからな。真の変態を推し量るのに時間が掛かるのだろう。
「まだ、理解が及ばない点がございます。なぜ、奪わせる対象が音無様なのでしょうか。他の者ではならないのでしょうか」
むっ、た、たしかに。
「ふっふ~ん! そりゃあ、タクマさんと心もカ・ラ・ダもベストマッチするのはあたし以外には考えられない! ってイルマが観念したからですよ。性癖は狂ってますけど、人を見る目は正確なんですね」
「と、目と頭が節穴な凛子ちゃんの雑音はガンと無視して――思うに、イルマ女王は格を気にしている」
「「「
椿さんの意見に、雑音を垂れ流し続ける音無さん以外の三人でオウム返しする。
「イルマ氏は上級者。脳を破壊されるなら最大火力を求める。薄い本でありがちのポッと
どうしよう、椿さんの解説は始まったばかりなのに、もう脳が拒否反応を示し出したぞ。うごごごごご。
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