第5話 無謀な地上戦
地上では……
その頃、地底からの訪問者、健は、博美の案内で新しく開発した二人乗りジュピター2号機の見学をしていた。
「凄い! こんなカッコいい最新鋭の機体に乗れるなら死んでもいいよ」
健は感動していた。
「この2号機は二人乗りのタイムマシンで、あらゆる防御機能が付いているのよ」
博美はあえて、戦闘用の機能は言わなかった。
「えっ! タイムマシンだって嘘だろう」
健は驚きを隠せなかった。
すると、研究所内に突然、警報が鳴り、パトランプも回転を始めた。
『ウィン・ウィン・ウィン・ウィン・ウィン!』
『プルルルルッ・プルルルルッ・プルルルルッ・プルルルルッ・プルルルルッ!』
博美の携帯が鳴った。
「所長、何事ですか?」
それは所長からの緊急電話だった。
「今、警戒レベルを4に引き上げた。あの時空の歪みの井戸付近から、黒煙を噴出しながら、戦車らしき未確認物体が続々と出て来て、こちらに向かって来ているんだ。
健の話から推測すると、おそらく地底人の侵略だろう。至急、2号機の出撃準備をしておいてくれ!」
所長は電話を切ると、首相官邸の危機管理センターに緊急電話を入れた。
政府の首相官邸では即座に、緊急危機特別対策室が発足され、空将の渡辺司令官に自衛隊機の緊急スクランブル要請がなされた。
そして、命を受けた航空自衛隊の隊長星野二尉と斎藤三尉のF35戦闘機二機が緊急スクランブル発進した。
『ゴーッ! ゴーッ!』
【実は戦車隊も時空の三差路のトンネル内で、まっ暗闇の直進の道は避け、左右に別れた薄明るい出口らしい付近で迷った結果、二手に分かれていたのであった。
したがって、半分の500台は右の出口に侵攻していた】
研究所では、田所所長からジュピター2号機に、緊急発射指示が出された。
「所長、このシャトルは、まだテスト段階ですが、大丈夫なんですか?」
博美は戸惑っていた。
「テスト飛行を兼ねて、すべての機能をテストしてくれないか。絶好のチャンスだぞ。自衛隊機もまもなく、この空域へとやってくるから、お互い協力して地底人の侵略を防いでくれないか」
「解りました」
所長は地底人の技術力と戦闘能力は、150年遅れていると思っていた為、機能テストにはいい機会だと思っていた。
それは敵の戦車隊が、黒煙を噴出しながら走行しているのを見て、地底人か開発した蒸気機関と判断していた為であった。
『凄い黒煙だわ。急がなくては……』
博美もその様子を確認後、搭乗準備を開始した。
2号機のシャトルはすぐ様、発射場に運ばれた。
博美と健はパイロットとして搭乗の為、急いでシャトルに向かった。
「健、何してんの。早く来なさいよ。置いて行くわよ」
博美は、二人乗りのジュピター2号機は、完成次第、健と一緒に行くことを決めていた。地上世界の健との約束ではあったのだが……
「ぼ、僕も一緒に行っていいのですか! 足手まといになるかもしれません」
健は、ぜひにも乗ってみたいと考えていた為、内心非常に喜んでいた。
「私が教えてあげる。その通り、手を動かせばうまく行くから」
二人は早速乗り込み、博美は各機器の点検をテキパキと開始した。
地底から来た健は、戸惑いながらも見た事もない最新コックピットに驚き、博美の様子を見ていた。
「各機器の点検完了しました。すべて異常ありません。いつでも発進できます」
コックピットのスクリーンに映し出された所長に報告した。
「よし、解った。まもなく秒読みに入るぞ」
「凄い! なぜ指令室にいるはずの所長の声が聞こえ、目の前にいるんだ?」
健は地底では存在していない技術と科学力を目の当たりにし、とても、地底人には真似できないと思った。
「しかし、なぜ、あんな大量の戦車隊が地上に侵攻してくるんだ? 調査報告はまだしてないぞ。まったく馬鹿な事を。いったい誰の命令なんだ……」
健は悔しがった。
『これは止めなければ……』
健はそう思った。
「秒読み開始せよ!」
『発射5分前……………1分前………30秒前……10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・0・発射!』
博美はシャトルの起動スイッチを押した。
『キィン・キィン・キィン!………・・・』
シャトルはゆっくりと上昇して停止した。
『凄いっ、宙に浮いているぞ……』
そして、博美は驚いている健の顔を横眼でちらっと見た後、時空の歪みから出てくる地底人の戦車隊に向け、全速力で飛び立った。
『キィン! ゴーッ!………・・・』
まもなく、スクランブル発進した戦闘機隊二機が、その空域に到達し、攻撃態勢を取った。
『あれが攻撃目標だな……』
その時、木場隊長率いる地底軍も、迫り来る戦闘機隊を確認した。
「ここが地上か? だが、あの見た事もない空中飛行物体は何だ? 敵に間違いないぞ。さあ、制圧にかかれ!」
命令を受けた地底軍の戦車隊から、銃弾と大砲が一斉に研究所と、戦闘機隊に向け放たれた。
「攻撃開始せよ! 撃て!」
『ドン・ドン・ドン・ドン・ドン! バババババッ! バババババッ!』
研究所では警戒レベル3が発令され、周りにはバリアが張り巡らされた。
弾丸はバリアではじき飛ばされていたが、さらに戦車隊は、目映い閃光を発しながら、轟音と共に、続々と時空のトンネルから現れ、研究所に近づいていた。
『ピカッ! シュバッ! ガチャガチャガチャッ! ピカッ! シュバッ! ガチャガチャガチャッ!』
結果、黒煙を上げた地底からの戦車隊、総数五百台が、地上世界に出現した。
『ピカッ! シュバーッ! ガチャガチャガチャッ!』
「研究所が攻撃されています。攻撃許可お願いします」
渡辺司令官から即座に攻撃の許可が下りた。
「研究所には一歩も近づけるな!」
戦闘機隊は地底人の戦車隊に、ミサイルの発射を決め、ロックオンした。
すると、そこに到達したジュピター2号機のシャトルから、星野二尉達戦闘機隊に連絡が入った。
「待って下さい! 私達に考えがあります。ミサイル攻撃は威嚇のみに留めて下さい」
博美は、攻撃となれば多くの地底人に死傷者が出ると判断し、なんとか追い返せないかと思っていた。
「解りました。威嚇攻撃に切り替え、しばらく様子を見ます」
そして、戦闘機からのミサイルが発射され、戦車隊周辺に着弾して爆発した。
『ドォォォオン! ドォォォオン!』
ミサイルは戦車隊を驚かしたものの、依然進行は止まらなかった。
「おっ、地上人は的を外すばかりで、命中させる能力は低いぞ!」
木場隊長以下地底人達は、大きな勘違いしていた。
博美はテストで、あらゆる防御と戦闘能力を試す事にした。
「さあ、テスト開始するわよ。健はレーザービーム砲を担当してもらうからね。私はミサイルと銃器を担当させてもらうわよ」
健はレーザービーム砲を担当し、最低の熱設定の為、迷わず連続照射した。
『ビビビビビビッ!…………・・・』
すると、戦車隊数台に命中したが、短時間の為、少し車体は熱くなった程度だった。
「健、今度は中程度に熱設定し連続照射するからね」
『ビビビビビビッ!………・・・』
博美はテストの為、ミサイルと銃器を威嚇発射した。
『ヒューン! ヒューン! ヒューン!………・・・ババババババッ!』
ミサイルと銃弾は、戦車隊周辺に着弾したが、銃弾は一部命中した。
『ドォォォオン! ドォォォオン!』
銃弾は分厚い装甲で、はじき飛ばされた。
「怯むな、反撃しろ! 撃て、撃て、撃てー!」
すると、500台の戦車隊から一斉砲撃と射撃が、シャトルと戦闘機隊に向け、連続発射された。
『ドン・ドン・ドン・ドン・ドン! ババババババッ! ババババババッ!』
「シールドオン!」
戦闘機は急速旋回でかわし、シャトルはシールド機能で、弾丸をはじき飛ばした。
「なんだ、この機体は? 無敵なのか、すべて命中手前で弾をはじき飛ばしているじゃないか……」
健はこの2号機はとてつもない機能のシャトルだと思った。
「健、次のテストは戦車を冷却ビームを連続照射で狙ってね。大丈夫、地底から来た人達には危害は与えないからね」
博美は最終テストで、地底人に対しては危害を加えずに引返させようと考えていた。
「じゃあ、シールド解除するから即、発射してね]
「シールドオフ!」
数発銃弾がシャトルを掠めたが、装甲が厚く改良されている為、問題なくはじき飛ばしていた。
『ビビビビビビビビッ! ビビビビビビビビッ!』
その作戦は数十分間、連続で照射された。
すると、大気中の水蒸気も急激に冷やされ細氷となり、太陽の光でキラキラと輝き、まさにダイヤモンドダストの舞う美しい光景となった。
『綺麗だ……』
健はそう思ったが、ビーム照射はまもなく終わった。
その為、地底人達は寒い寒いと数台の戦車から、ぶるぶると震えて飛び出してきた。
「うわっ! 路面が凍結し足が滑るぞ。しかし、あの光線は何だ? 最初は暑く感じたが、急に寒くなり車体が凍りだしたぞ」
博美は空となった戦車を狙って、数発ミサイルを発射した。
『ヒューン! ヒューン! ヒューン!…………・・・』
全弾ミサイルは数台の戦車に命中し、一瞬で破壊された。
『ドォォォオン! ドォォォオン! ドォォォオン!』
「くそっ! 戦車がやられている。いったい、どうなっているんだ? 我々の放った弾丸は、すべて命中してるはずなのに、すべて弾き飛ばされているぞ。
だが、あの見た事もないビームと、ロケット弾はいったい何なんだ? このままでは全滅だ。仕方がない全軍退却しろ!」
慌てふためいた木場隊長以下地底人達は、博美の予想通り撤退を決め、500台の戦車隊は膨大な黒煙を上げ、元来た時空の穴へと戻って行った。
『シュッ! シュバッ!………・・・』
「急げ、急げー!」
『ガチャッ! ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
その膨大な黒煙と戦車隊は、次第に時空のトンネルへと入り、目映い閃光を発しながら、轟音と共に、吸い込まれ消えていった。
『シュッ! シュバッ!………・・・ピカッ! キュルキュルキュル! シュバッ! ゴーゴーゴーッ!………・・・』
博美のテスト飛行を兼ねた作戦は、見事成功したのであった。
戦闘機隊もそれを見届け、基地に帰還した。
そして、研究所にジュピター2号機は戻り、テストはすべて成功、地底人達もすべて追い払うことにも成功したと報告した。
「そうか、まずは無事で良かった。健、君はどうするんだ? おそらく、君が無事に地底に帰る事が出来なければ、この世界から送った健が帰って来れない恐れがある。
だから、君は地底に帰り、ここで起こった事を、正確に地底の指導者に伝えてもらえないか。そして、地上への侵略を二度としないよう、思いとどまらせてくれないか」
「解りました。僕もそう思っていたところです」
「健、この地上世界は君達から見れば、異次元の世界だ。それは我々も同じだ。
したがって、同じ人が同じ場所では、存在できないという事だ。もし、大勢がこの世界に来たならばパラドックスが起こり、やがてこの世界は消滅するかもしれない。解ってくれるか?」
所長は、はっきり言い切った。
「大丈夫です。よく解りました」
健は早速、帰りの準備の為、1号機に向かった。
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