第4話 驚くべき地底世界
その頃、地上からのジュピター1号機も、地底に到着しようとしていた。
それは前方に、七色に輝く出口らしい個所が見え始めた為であった。
「よし、出るぞ!」
健はスピードを上げ、一直線に突き進んだ。
『キィン!………・・・ゴーゴーゴーッ! キィン・キィン・キィン! ピカッ! シュバッ! キィン・キィン・キィン!………・・・』
シャトルは目映い閃光を発しながら、轟音と共に、渦巻く時空のトンネルから脱出に成功した。
健は、シャトルを徐々に下降させながら、着陸場所を探した。
『キィン・キィン・キィン・キィン!………・・・』
「よし、あそこに降りるぞ」
『キィン・キィン・キィン!………・・・ガチャ!』
「さあ、外に出るぞ」
そして、無事着陸後、暗闇の外に出ると、少し離れた場所に研究所によく似た建物があり、健は迷わずそこに行こうと思った。
「前と同じだな。これは……」
すると、異変を察知した田島所長達と、恋人の博美が黒煙を噴出させている車から降り、駆けつけてくるのが見えた。
『ガチャ! ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
「誰だ君は?……健、じゃないか」
懐中電灯の光が健を照らした。
「健、その乗り物はいったい何なんだ? あの山の時空間移動装置から、何かが、空中から下りてくるのが見えたが……これなのか?」
所長は不信感丸出しで問いただした。
「あのー……僕は間違いなく健ですが、あなた方の知る健ではありません。実は、あの時空のトンネルは異次元と通じていて、その地上からあのシャトルに乗って調査に来ました」
健は以前と同じ状況の為、やはりここは異次元世界だと思った。
「なんだと! シャトル? 異次元の地上から来た? 健、いったい何を言ってるんだ?」
すると、博美が「詳しく説明してもらいましょう」と提案した。
「そうだな……先ずは研究所に入りたまえ」
そう言って健の肩をぽんと叩いた。
博美は地底で開発されたジュピター1号機に比べ、格好良いシャトルを見回していたが、健と共に蒸気機関の車に乗った。
「しかし、この黒煙は凄いな。ゴホッ、ゴホッ!」
『ガチャッ! ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
研究所に着き、内部に入ったが、中は明るかったが、充分な明かりではなかった。
「どうだ、この研究所は最新鋭の設備で非常に明るいだろう。
あの最新鋭の車も凄いだろう。開発に数十年はかかっているからね。まあ、我々の技術力の賜物という事だよ」
所長は誇らしげに、数台の蒸気機関の車を見せた。
「はあっ? じょ、蒸気機関ですか……」
健はそれ以上、言葉が出なかったが、150年余り、技術力が遅れているなあと思った。
「今日はもう遅いから、話を聞くのは明日にしよう。宿舎を用意したから、ゆっくり休みたまえ」
宿舎は電燈一つの薄暗い部屋だったが、寝るのに支障はなかった。
翌朝早速、指令室に招かれ事情聴取の為、博美も同席し、所長からの質問が始まった。
「なるほど、話は理解した。君はあの山にある時空間移動装置の歪みを調査する為に、この地底に来たんだね。実は、我々も地上の調査を健に行って貰っているんだよ。まあ目的はだいぶ違うんだけどね。ところで、地上はどんな所か教えてくれないか」
所長はいよいよ本題の事を聞き出した。
「実は…こんな地底に国があったなんて、想像もつきませんでした。
私達の世界は、昼は青い空には太陽が、夜には月という惑星が地上を照らしています。環境は植物が群れを成し、山や大地に林や森を形成しています。そして、空から雨が降り、川と湖そして、広い海もあります。都市には数百mの高層ビルが数多く建っています。」
健はより詳しく答えた。
「そうか……美しい景色が目に浮かぶようだ。ところで、技術と科学力はどこまで進んでいるんだ? 我々が開発した蒸気機関などは、もう開発されているのか?」
所長は地上の健の答えをすっかり信じ、本気で質問し始めた。
「空には数百人を乗せた飛行機という乗り物と、地上では三百㎞で走る超高速鉄道の乗り物がレールの上を走っています。最近では磁力の力で浮上して五百㎞で走るリニアモーターカ―という乗り物も開発されています。まあ、地上では自動車という車が各家庭にはありますが、最近ではガソリンと電気で走るハイブリッド車に変わってきています。そして将来は、すべて排気ガスが出ない水素とか電気に変わるとは思いますが……」
「な、なんと……地上はそんなに進歩しているという事なのか?」
『…………』
「ちょっと待ってくれ。数百人が乗る飛行機とは何だ? 空を飛ぶ機械の事か? それは、ありえないだろう。万有引力で我々は常に地面に接しているんだからね」
所長は信じられない、嘘だろうと疑問視した。
「飛行機は、開発当初、プロペラで飛んでいたのですが、最近ではジェットエンジンで、より早く飛べるようになっているのです。まあ、最近ではロケットで大気圏外へと出て、惑星観測など行い、宇宙ステーションも各国の協力で造られているのです」
所長は驚きの為、沈黙した。
『なにっ! 宇宙もだと?…………』
「蒸気機関の事なんですが、地上の世界でも150年ほど前に開発されていました」
「そ、そうなのか?」
「ですがその後、ガソリンを燃料とする内燃機関のエンジンというものも開発され、今では蒸気機関は存在しません。まあ、数十台は残っていますが……」
所長は蒸気機関が最新鋭の機械と思っていた。
「そうか……もうないのか? 時代遅れという事だな。その内燃機関とは、どういうものだ?」
「石油から作られた燃料を、吸気、圧縮、燃焼、排気でピストンを動かすという動力です」
「なるほど、石油から作られた燃料か……我々も参考にさせてもらうよ」
所長は次の動力源として、採用を考えた。
「しかし、戦闘能力というか武器など破壊兵器などは、どの程度保有しているんだ?」
質問は核心に迫った。
「人口も73億と増え続けていますが、国も200以上もあり、陸、海、空など途轍もない軍備をしているのは間違いありません。一番怖いのは核兵器です。世界中には、1万6000発もの弾頭が存在しています」
「なにっ!……我々の祖先は数十発の核兵器で滅亡したというのに、君の話ではすべて、その千倍じゃないか…………」
所長は余りにも突飛な答えを保留し、地底世界の健が地上から帰り次第、その調査報告と照らし合わせ、答えを出そうと決めた。
健はそっと携帯を取り出し、調査報告の為、この地底国を撮影し始めた。
「なんだ。その薄い小さい板は?」
所長は、のぞき込み興味を示した。
「えっ、何々!」
博美も興味津々で、のぞき込んだ。
「あーこれはね、携帯電話といって、遠く離れた相手と話したり、メールなども出来るものだよ。写真も動画も撮れるんだよ」
そう言って、今まで撮った写真と動画などを見せた。
「凄い、色が付いてるわ」
「まさしく、この活動写真は音付きの総天然色だ。トーキー機能もあるようだが、スピーカーもこの中にあるとは、まったく不思議だ」
この地底世界の文化は、明治時代初期そのものだった。
所長は今まで半信半疑だったが、健が話は、すべて真実だと思った。
「これは……途轍もない地上人の技術と化学力だ。そう簡単には地上への移住はできないぞ」
所長は考え直す必要があると思った。
その頃、防衛大臣の郷田は調査報告も待たず、独断で地上へ1000台もの戦車隊を向かわせようと、目論んでいた。
「どうだ。この新型戦車は装甲も分厚く、連射の機銃が前部に二、後部に一、大砲も長距離用だぞ
郷田は自信満々だった。」
「なるほど、これなら地上制圧は容易そうだ?」
戦車部隊の隊長を命じられた木場も、満足そうに見ていた。
「そういう事だ。この1000台の戦車があれば、簡単に地上を制圧できるはずだ。その時は私の時代が始まるという事だ。その時は君にも、それ相応のポストを用意させてもらうよ。はっはっはっはっ……」
そして夜半、戦車隊は続々と時空間移動装置のある山に向け、秘かに進行していた。
『ガチャッ! ガチャガチャガチャ! ガチャガチャガチャ!』
「よし、地上へ侵攻せよ! 良い報告を待ってるぞー」
「了解しました。それでは出発します。全戦車隊、発進せよ!」
隊長の木場は、1000台の戦車隊を率いて地上へ向け発進した。
『シュッ! シュバッ!………・・・』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます