第3話 地上の驚くべき世界
その頃、地底からのジュピター1号機は、時空の裂け目に侵入後、しばらくして、出口付近に達した。
渦巻く時空間の中で、シャトルは時空のトンネルから脱しようとしていた。
『あそこが出口らしいな? よし、一気に出るぞ! ドリル高速回転開始!』
健は蒸気の圧力を上げ、加減弁を目一杯引き上げ、最大限にスピードを上げた。
『シュッ! シュバッ!………・・・ゴーゴーゴーッ! キュルキュルキュルッ! ピカッ! シュバッ! ガチャッ、ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
目映い閃光を発しながら、轟音と共に、時空のトンネルから脱出に成功し、キャタピラーは地面に着地した。
『よしっ、やったぞ!』
が、そこは驚くべき世界だった。
真夜中に着いた場所は、森の中にある井戸付近であった。富士山と地底の研究所によく似た建物も見えた。
『シュッ! シュバーッ!』
健は、1号機から外に出ると、空を見上げた。見た事もない月、そして数多くの光り輝く星を見て、しばらく茫然とした。
「なんだあれは? あっ、あれがもしかしたら、星と言うものなのか?」
しかし、機関の煙突から出る黒煙で、次第にその景色を汚していった。
『凄い、ここが地上か。何と美しい景色なんだ』
その時、異変を察知した研究所の所長達と博美が、車で急いで駆けつけて来た。
『ブゥ、ブゥゥゥウ……キィッ!』
「健、どうしたんだ。もう帰ってきたのか?」
健の目の前には、田島所長と恋人の博美がいたが、何かがおかしいと感じた。
「あのーここは地上で間違いないですよね?」
「当り前じゃないか。しかし、シャトルはどうした? その後ろにあるリベットだらけの装甲車のような乗り物は何だ? でも、ジュピター1号機に少し雰囲気が似てるな」
所長は不審な顔で答えた。
「しかし、この黒煙はなんとかならんのか? ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」
健は急いで機関を停止させた。
「健?」
博美は様子がおかしい健を訝しんだ。
「これは、我々が送り出したシャトルじゃまったくない……昔の蒸気機関か?」
「あのー、あなた方は、田島所長と君は博美なんでしょう?」
健はある疑いに動揺しながら、おそるおそる聞いた。
「当たり前じゃないか。なんで君はそんな質問をするんだ?」
「……」
「疲れてるのね」
「健、研究所に戻ろう」
所長は、健に違和感を感じつつ、車に促した。
『ブゥ、ブゥゥゥウ………・・・』
所長は健を研究所に連れ帰ったが、異次元から来たのではないかと思っていた。
「君は私の知っている健ではないね」
健は言葉を失った。
「まあいい、明日の朝、詳しく話を聞かせてくれ」
「は、はい」
「ゆっくり休んで、疲れを取りなさい」
所長は優しく迎え入れ、研究所内の宿舎に泊まらせる事にした。
『おかしいな? 地上人はすべて邪悪な犯罪人の追放者だと聞いているが……なぜ、この地上に所長と博美がいるんだ?』
すると健は、上空に赤と白、緑の航行灯を点滅させ、飛行している旅客機を見て、びっくりした。
『あれは、いったいなんだあ?』
内心、この地上人はとんでもない技術と化学力を持っているのではないかと思った。
健は宿舎内を見まわした。何もかも初めて見るものだった。
室内はLED照明で非常に明るく、自動販売機、全自動洗濯機、食道らしきところには、冷蔵庫、電子レンジ、電磁調理器、薄型テレビ、DVDデッキなど完備していた。
そして、数人の所員がソファーに座り、何やら、薄い板のようなものをタッチしたり、それを耳に当て、独り言を言って話している。健には信じられないものばかりが周りには存在していた。
『この地上世界はいったい何なんだ? 何か未来に来たような感じだよな……』
健は寝る前にトイレを済ませようと入ったが、地底のトイレとは比較にならないほど綺麗で、なかでもウオッシュレットのシャワートイレには、無茶慌てた。
便座の横にあるスイッチを触ると、温かいお湯が出て、おしりを洗ってくれる機能だったからだ。
「なんだ、これは!」
戸惑いと驚きの連続だったが、用意された部屋で寝る事にした。クーラーの気持ちの良い温度と風に、すぐに眠りに就いた。
翌朝、健は気持ちよく目覚める事が出来た。顔を洗い、外へ出てみると、目の前には美しい富士山の山が聳えていた。空は青く澄んで、白い雲がただよっていた。
「空は青く、地上はなんて美しい所なんだ」
その後、食堂で朝食を摂ったが、地底では存在しない食べ物が多かった。
まず、和食と洋食どちらを選ぶか迷ったが、所員達が食べているものと同じパンとハム、目玉焼き、サラダ、オレンジジュースなどを選んだ。
所員達は何やら黒いお茶らしいものも、美味しそうに飲んでいた為、健も飲んでみようと思った。
『美味しいのかな? 熱っ!苦っ!……まずいな。何だこれは……よくこんな飲み物飲めるな』
よくよく観察してみると、砂糖とミルクを入れると、美味しく飲めると気づいたが、二杯目は遠慮した。
地底ではコーヒーなどの飲み物は、存在していなかったのだ。
次に健の興味は薄型テレビに移った。
『あれは何だ? 色付きの絵が動いているじゃないか。どういう仕組みになっているんだ?』
興味津々に、健はテレビを観察した。
「任務を遂行しなければならない。でも、誰に聞けばいいんだ? この世界の所長達にはばれているようだから、正直に話すしかないかな」
二時間後、所長は地底から来たと思われる健を事情聴取の為、指令室の隣の部屋に案内した。
その場に、博美も同席した。
「朝早くからすまないな。君は我々が送り出した健ではないのだね。すべてを正直に話してもらえないだろうか」
所長はいきなり質問をぶつけた。
「はい、僕はこの世界の人間ではありません。実は……地底の国から来ました。
地底の研究所の所長からの指示で、地上の環境状況、技術及び科学力、人口数、それと、破壊兵器と及び戦闘能力を調査しに来たのです」
健は正直に告発し答えた。
「やはり、そうか。実は先程、シャトルに付けていた追跡装置が、地底にあるのを突き止めたんだ」
「そうだったんですか」
「それでは私からも質問させてもらうが、なぜ、そんな調査が必要なのかね? 場合によってはその協力をしても良い」
所長は協力姿勢を見せた。
「実は地底に住んでいる私達の祖先は、もともと地上に住んでいたのです」
「何だって? それがどうして、地底に住むことになったんだね?」
「それは、50万年前、私達の祖先の多くは、核戦争で滅びました。ですから、僅かに生き残った祖先たちは、過去を繰り返さない為に、すべての技術及び科学力を放棄し、地底に潜ったのです」
「50万年前というと、最古の人類がいた時期だが、そんな昔に、科学の発展した文明があったなんて……」
所長は信じられないような話で驚いた。
「そうなんです。我々祖先は、50万年も頑なに地底に住み続けてきたのです。が、現代に住む私たちは地上に戻りたいと悲願しました。すると、最近国のトップが代わり、実現に向かう事になりました。
その為、地底から地上に戻るという計画が着々と進んでいるのです。したがって、地上の調査が必要となったという事です」
「なるほど、君の調査には、協力をしてもいいが……」
「ちょっと待ってください。私には、心配している事もあります。それは、トップが技術と科学力を急速に発達させ、すでに百台以上の戦車が完成させたらしいのです」
「戦車を? どうして?」
「もちろん、この地上に侵攻する為です。まだ、噂の段階ですが。だとしても、大変残念な事です」
「そうか、君は我々と同じ考えを持っているようだ。よしっ! 君の調査に協力しよう。
この世界の人口はおよそ70億人だ。環境は国によって異なるが、この富士のふもとの環境はいい方だ。
残念ながら、地上の世界にも、大量破壊兵器が大量にある。なかでも核兵器は164000も存在し、一つ間違えば世界は絶滅する可能性も秘めているんだよ」
所長は真実を説明した。
「えーっ! それは本当なんですか? 人口も破壊兵器もすべて、地底国の千倍ですよ」
健は驚きを隠せなかった。
すると、上空を見ると超スピードの鳥のような物体が飛んでいて、あれは何だと疑問視した。
「昨日の夜も見たと思うが、あれは、数百人が乗っている旅客機という飛行機だ。まあ、時折、ジェット戦闘機も飛んでいるがね」
地底国では、まだプロペラ飛行機も発明されていなかった為、この技術力には驚く以外言葉も出なかった。
「技術及び科学力は見ての通りだ。君たち、地底国が攻めこんできても、勝ち目はない」
「…………」
「研究所内は、後で案内させてもらうよ。いや、昼から予定を入れとくよ、それまでゆっくり昼食を食べ寛ぎたまえ」
そう言って、所長は健の乗って来た、地底で開発されたジュピター1号機に興味を持ち、秘かに観察しに行った。
「なるほど、このリベットだらけの分厚い装甲は、だいぶ重量感があるな。超頑丈という事だな。前にドリルが付いているという事は、まさに地底から来た証しだな。どれどれ、車内はどうなっているのかな?」
所長は健の断りもなく、隅々まで観察しだした。
「よくできた車体と操縦席だが、内部は意外と広いじゃないか、これで一人乗りはもったいない感じがする。ヘッドランプと車内灯は、もうフィラメントが寿命だな……、いつ切れてもおかしくない状態だぞ」
所長はフィラメントの電球すべてを、LED電球に変えようと思った。
『問題は電圧と電球の口金が合えばいいのだが……』
そして博美に連絡し、あらゆるサイズのLED電球と、電圧測定用のテスターを持って来させた。
「所長、数種のサイズ持ってきましたが、いったい、何をなさっているのですか?
「見て解るだろう。電球交換だよ。まあ、電圧と口金サイズが合えばいいのだが、ちょっとテスターで電圧測定してくれないか」
「解りました。でも、なぜ所長自ら電球交換なんかしているのですか?」
「こんな切れかけの電球じゃ、健が困ると思ったまでだ」
「そうなんですか。では、私も手伝わさせてもらいますね」
さっそく所長は、左右のヘッドランプをガードしているガードカバーを外し、切れかけの電球を回し外した。
『クイッ、クイッ、クイッ、クイッ、クイッ、クイッ!』
「どうだ、口金サイズと電圧は合いそうか? 合わなければ部品交換、もしくは抵抗器の取り付けで、多少手間がかかるぞ」
「今から合わせてみます」
『クイッ、クイッ、クイッ、クイッ、クイッ、クイッ!』
「所長、奇跡です。口金サイズと電圧、一致しました。電球取り付け問題ありません」
「そうか、この車体の持ち主は、まったく運が良かったな。まあ、これだけサイズの違う電球の内、どれかは合うと思っていたけどな」
所長と博美は、ヘッドライトと車内灯を交換後、ついでにブレーキランプ及び後退灯まで、すべての電球をLEDに変えた。
「やっと終わったわね。でも、地底から来た健は、あっと驚くでしょうね」
「そうだね。最後の点灯確認できたら終了だが、彼は地底からの大事なお客さんだ。こんなお土産というかサプライズがあってもいいんじゃないかな。はっはっはっはっ!」
やがて昼となり、真上には太陽の強烈な日差しが降り注いでいた。外は強烈に暑くなったが、クーラーが効いていた為、健にとっては、それはあまり気にならなかった。
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