第2話 時空の通り道


 ジュピター1号機は、時空トンネルの中で激しい振動と揺れに襲われてはいたものの、渦巻く七色の時空を順調に飛行していた。

『ガタガタガタッ! グラグラグラッ!』

「凄い振動だ。車体は大丈夫そうだが、電球のフィラメントが心配だ。予備あったかな?」

 車体の装甲は分厚く頑丈に作られていた為、飛行に問題はなかったが、唯一ヘッドライトと車内の電球の明かりだけが頼りだった。

『少し怖いが、この時空は意外と綺麗じゃないか』

 その内、振動と揺れは収まったが、少しずつ暗くなっていった。

 しばらく、1号機は一直線に地上に向かっていたが突然、目の前に未知の飛行物体が現れ接触した。

「うわーっ!」

『シュバッ!』

 しかし、機体には何の異常もなく問題はなかった。

「なんだ……今のは? 確かに、ぶつかったはずだが……」

 新たな飛行物体の正体は、地上からのものだった。

 健は訳が解らなかったが、そのまま暗闇を真っすぐ進んだ。

 すると、暗闇の直進と左右にひときわ明るくなった三差路の空域が見つかり、左側の七色の少し明るい裂け目を出口と判断した。

「こ、これはY字路か?……どっちだ? よしっ、左だ!」

 健は、迷わずそこに侵入し地上を目指した。

 

 しかし、彼が出口だと飛び込んだ時空の裂け目は、異次元への入り口だったのであった。


*         *         *

 

 地上世界では……

 それは、地上の富士の麓にある研究所でも、数㎞離れた森の中の井戸付近に時空の歪みが見つかり、至急調査の必要が生じていた。

 その為、所長の田島はジュピター1号機で、時空の調査を経験豊富である健にさせようとしていた。


「健、あの時空の歪みがある井戸付近は昔から底なしの井戸で、落ちれば絶対に上がって来れないという因縁がある。今では立ち入り禁止になっている地域だが、しかし最近では、逆にそこから出てくる人も目撃されているらしい」

 所長はその時空の歪みは不安定だが、あまり危険のない任務だと思っていた。


 それは、地上でも地底と同じような研究所が存在し、環境は違えれど、同じ人間が住んでいたのだ。

 そして、どちらの世界も、対称的に異次元空間に存在する世界であった。

 しかし、地底と地上の進化過程だけは、まったく違っていたのであった。


 いよいよ、ジュピター1号機のシャトルは、出発の時が来た。

「所長! 二人乗りのジュピター2号機は、まだ完成しないのですか? 私も健と一緒に行くと決めていたのですよ」

 健の恋人、博美は所長に進言した。

「残念だが、この調査には間に合わないんだよ。しかし、完成すれば絶対二人でいけるよう約束するよ」

 所長は何とか博美を宥めた。

「健、ほんとは私も行きたかったけど、2号機はまだ完成してないの」

 博美は残念がったが、手をしっかり握り、送り出す事に同意した。


 健は博美に無事に帰ることを約束し、高台にある発射台に向かった。

 シャトルに乗り込み早速、発進準備の為、各機器の点検を開始した。


 このジュピター1号機は、当初何の武器も搭載されていなかったが、過去数回、異次元空間に旅したシャトルであった為、その都度、武器及び防御機能など追加され、一段と性能はアップしていた。


「各機器すべて異常なし。エネルギー充填100%完了。いつでも発射できます」

 健はコックピットのスクリーンに向け、指令室の所長に報告した。

「よし解った。成功を祈る。秒読み開始せよ!」

 そして、地底への秒読みは開始された。

『発射10分前……………………5分前……………1分前………30秒前……10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・0・発射!』

 健はシャトルの起動スイッチボタンを押した。

『キィン・キィン・キィン!………・・・』

 シャトルはゆっくりと上昇して停止した。

「それでは、あの時空の井戸に向けて移動後、すぐに出発したいと思います」

 健はコックピットのスクリーンに向かい、初めてのフライトでは無いにもかかわらず、少し緊張した表情で言った。

「気を付けて行けよ…なにが待ち受けているか、解らないからな」

「了解です。任せて下さい」

 そして、時空の歪み付近に到達し、ゼロ設定のマシン起動スイッチを押した。

「ワープ開始オン!」

『ビー…・・・キィン・キィン・キィン!………・・・ピカッ! シュバッ! キィン!………・・・』

 シャトルは目映い閃光を発しながら、轟音と共に、一瞬に時空の渦に呑み込まれ消えていった。


 それは、地底への旅立ちであり、冒険でもあった。

 

 やがて、トンネル内のシャトルに振動と揺れが襲ったが、頑丈に改造されていた為、心配はしなかった。

『ガタガタガタッ! グラグラグラッ!』

 まもなく、振動と揺れは治まり、目の前に渦巻く七色の光が見えだした。

「前と同じ景色だな。これは……」

「健は出口を探す為、一直線に突き進んだが、いきなり目の前に未知の飛行物体が現れた。

「うわーっ! ぶつかる!」

『シュバッ!』

 機体は接触したはずなのに、機体は何の損傷も受けなかった。

「なんだ今のは……何が起こったんだ?」

 健は訳が解らなかったが、周りは次第に暗くなっていった。

 そして、三差路の空域に到達したが、特に直線のトンネルは、真っ暗闇となっていた。

 よく見ると、左右にひときわ明るい時空の裂け目が見つかった。

『どっちが出口なんだ? 右側のトンネルがより明るいと思うが……よし、右だ!』

 少し迷ったが、七色の少し明るい右側を出口と判断し、そこに進路を取った。

『ゴーゴーゴーッ!………・・・』


 しかし、地底へと向かっていた地上からのジュピター1号機だったが、やはり間違ったコースを選んでいた。


 結果、地底と地上のジュピター1号機は、それぞれに間違った時空の裂け目に入り込んだ事により、同じ異次元空間に迷い込んだ。

 

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