第4話 合宿二日目(応急手当)

 昼ごはんの時間になった。早速テーブルを使って、八人が椅子に座り、朝作っておいたおにぎりを食べた。

「なんて、おいしいんだろう」

秋嶌は思わずそう叫んだ。皆が、そうだ、そうだと言っている。梅がすっぱいが、それもまたおいしかった。お茶もまたおいしかった。

「そういえば、菱田先生。先生って、野外活動したことあるのですか?」

沢嶺が聞いた。

「ええ、学生時代に少しやってね。でも仕事が忙しくて、その後は全然。今、久しぶりでとても楽しいわ」

「そうなんですか。山とか登ったりしましたか?」

「えっと、高い山はないわね。むしろハイキングやオリエンテーリングをして、テントで宿泊してました」

菱田は遠くを見つめて、記憶をひっぱり出そうとしていた。

「だから、野外生活もおおよそのことはわかります。でも、すでに忘れたことも多く、先ほどのロープワークも見ているうちにだんだんと思い出してきた感じですね」

沢嶺はさらに聞いてみた。

「サークル活動か何かだったんですか」

「そうね、そんなようなものです」

「いい人とか、いましたか?」

沢嶺は目をきらきらさせながら質問した。白鳥も叫んだ。

「きゃー。素敵だわ。うらやましい」

「いやいや、そういった話はまた、夜テントの中でしましょうか」

「それもいいですね。そうしましょう。早く夜にならないかな」

 午後からは救命救急について学んだ。沢嶺が講師となって皆に教えることになった。

「まず応急手当てをする場合、落ち着いて行うこと。これが一番大切です」

そして、大きめのバンダナを取り出して、半分に折って言った。

「三角巾の使い方を勉強しましょう」

まずは三角巾で包帯を作る。腕のけがの場合の使い方、頭のけがの場合の使い方、足のけがの場合の使い方をそれぞれ実際にやって説明した。担架の作り方も説明した。

 次に、心肺蘇生法(人工呼吸と心臓マッサージ)を学んだ。

「倒れた人がいた場合、まずは声をかけて意識があるかどうかを確認します。意識がない場合は救急車を呼んでもらいつつ、口の中を調べ、気道を確保します。そして呼吸があるかを調べ、ない場合人工呼吸を行います。その後、脈があるか調べ、ない場合は心臓マッサージをする。救急隊員が来るまで人工呼吸と心臓マッサージを続けます」

皆、真剣に聞いているが、覚えきれないような気がする。今なら何とかできるかもしれないが、時間がたてば忘れてしまうと思われる。そこで、この心肺蘇生法を部活動で定期的に練習することになった。

 次に、出血したときに行う圧迫止血法を学んだ。傷口にガーゼ等を当てて、圧迫することによって止血する。それでも止まらない場合には、指圧止血法を行う。出血している場所より心臓に近い動脈の止血点を探し、強く圧迫する。最終手段として、止血帯法がある。

 さらに、骨折した時の対処法について。けがをした部分が動かないように副木をする。副木には、ある程度の強度があるものを使う。枝や板のほかにも、折りたたみ傘やテントのペグなどで代用できる。

 また、やけどもよくあるけがであり、料理をしているときなど注意をしてもしすぎることはない。やけどを負ったときは、まず流水で冷やす。痛みを感じなくなるくらいまで冷やす。重症の場合は至急病院へ急ぐ。

 熱中症になったときは、涼しい場所に連れていく。衣服を緩め、体温を下げるために体を冷やす。


 時間があったため、手旗信号について学ぶことになった。手旗信号――知らない人がほとんどかと思う。右手に赤い旗を、左手に白い旗を持ち、遠く離れた仲間と連絡を取り合う。数字や五十音を覚えてやり取りする。これらは覚えるのが一苦労である。

 諏訪は得意ではなかったため、皆に聞いてみた。

「だれか、教えられる人はいないかい?」

皆、首をふる。

「わたしもそれはだめだわ」

沢嶺が残念そうに言った。

「私でよければやりましょうか」

意外な人が手を挙げた。菱田先生である。

「先生、やったことがあるんですか」

諏訪がたずねた。

「ええ、少しね」

そこで、菱田が講師となって勉強することになった。

「まずは数字からいきましょう。ゼロはこう。右手を大きく回します。次にイチ。横に一となるように。二は縦に。三は……」

菱田は淡々と進めていく。

「では、数字だけ順番にやってみましょう。はい、秋嶌くん」

「えーっ。そんな急に言われても、できませんて。まずは覚える時間をください」

「できるところまででよいのでやってみたら」

「そうですか……、では」

秋嶌は仕方なく、ゼロから順番にやってみた。途中までできた。

「これ、できるとおもしろい」

途中からを菱田に教えてもらった。

「秋嶌くん、きみ、筋がよいよ。その調子だよ」

「本当ですか。わーい、もっとがんばろう」

「つぎは、白鳥さん、いきましょうか」

白鳥は、はいと答えて順番にやってみた。

「しっかりと覚えたいですね」

「本当? 実は手旗信号は、フェスティバルでやるかどうかはわからないのです」

菱田は少し困った様子で言った。

秋嶌は、何をどこまでがんばればいいのかよくわからなくなった。でも、この手旗信号をおもしろいと思った。

 さて、夕食の準備をしないと、すぐに暗くなってしまうので、早速始めた。

「暮林先輩、出番ですよ。料理を始めましょうか」

白鳥が言う。

「そうだね。献立はラーメンでしたか」

「そうです」

即席ラーメンを八個持って、白鳥が答えた。

「だれでも簡単においしくできるよ。白鳥さん、やってみたら」

「いやいや、まだ無理です」

「そんなこと言わずに、やってみたら。案外できるかもしれないよ」

「では見ててくださいよ。アドバイスをくださいね」

立ちかまどを利用して、はんごうでラーメンを作る。白鳥は作業を進める。暮林はラーメン一本を食べてみて、そろそろいいかなと言った。

まあまあの出来かなと、白鳥は思った。

皆でラーメンを食べ、とてもおいしかった。

「今日も、ミニキャンプファイヤーをしたい人いますか?」

諏訪が皆に聞いた。

「はい、はい、したいです」

白鳥が大きな声で賛成していた。

「まあ、夜は暇なので、八時に昨日の場所にということで、どうでしょうか?」

「そうですね」

白鳥がうなづく。

「全員で、再びキャンプファイヤーをやれることになって、とてもうれしいです。皆で楽しみましょう」

「今日は何をしましょうか」

諏訪が菱田に聞いている。

「今日は、皆でいっしょに歌でも歌ったらどうでしょうか」

「いいですね」

「皆が知っている歌と言ったら何でしょうか?」

「野外活動にふさわしい歌を、もっと覚えないといけないですね」


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