第3話 合宿二日目(ロープワーク)
二日目の朝になった。秋嶌は、寝袋からもぞもぞと起きだしてテントの外へ出てみた。今日もよい天気。暑くなりそうな予感がした。皆次々とテントから出てきた。あいさつをかわした後、ポリタンクの水で顔を洗った。諏訪部長が大きな声で今日の予定を発表した。
「午前中はロープの結び方を、午後は救急法を学びましょう。気分の悪い人がいたら、私か菱田先生まで教えてください」
今日もまずは朝ごはんから。ごはんとみそ汁とつけもののシンプルな食事。昨日同様、ご飯ははんごうで、みそ汁はなべで作る。暮林が中心となった。
「いただきます」
食事が始まると、あちこちで悲鳴が聞こえた。
「みそ汁に、みそのかたまりが入ってる」
「それはあたりです。ありがたくいただきましょう」
などと暮林が答えている。彼は朝が苦手なのだった。
「つけものがからすぎる」
「もしかしたら、洗うのを忘れたかも」
「ねぎがつながっている」
「包丁の切れが悪かったかな」
暮林が返答していた。
ご飯は上手に炊けたようで、おいしくいただいた。
「昨日のご飯の残りと今日のご飯の残りで、昼ご飯のおにぎりを作りましょう」
暮林が言った。おにぎり係と洗い物係に分かれて作業をした。暮林と大津と白鳥と諏訪がおにぎり係に任命された。三角のものから丸いものまで、いろんな形のおにぎりが出来上がった。全部梅で、すっぱそうだ。
お茶も煮出して作った。できたおにぎりは昼まで保管しておく。
「おにぎりって案外難しいですね」
白鳥が言う。
「形をきれいにするところが簡単ではないね」
諏訪が答える。
「部長、それ大きすぎませんか」
「いいの、いいの。このくらい食べられるよ」
巨大なおにぎりがいくつかできたのだった。
また、ポリタンクの水がなくなってきたので、秋嶌に水汲みに行ってもらうことになった。秋嶌は、めちゃめちゃ重いなあ、誰か助けに来てくれないかと思い、小さい声で呼んでみた。
「おーい、おーい……」
誰も来ない。仕方ないので二往復しようと決めた。
午前中に、やるべきことをやろう。
「それでは、ロープの結び方をマスターしようか」
諏訪が大きな声で皆に向かって話した。諏訪と沢嶺が先生になって、部員たちに教えた。
「まずは基本からいこうか。皆、ロープを持ってきなさいな」
皆うなづいてテントに取りに行った。
「さて、まずはほつれ止めだが、やってきた者はいるかい」
河井が手を挙げた。
「やってみましたが難しすぎて。簡単にはできませんでした」
「そうですか。でもやってみたということが大事ですね」
「はい!」
「それでは順番に紹介していきますので、実際にやってみましょうか。まずは基本からです」
諏訪はとめ結びをした。
「これは基本中の基本です」
皆、自分のロープを結んでいる。続いて、二重とめ結びと8の字結びをした。このあたりは簡単なので、皆ついていくことができた。
「次に本結びとひとえつぎです」
本結びはロープ同士を結ぶのに適しており、ひとえつぎは太さや素材の違うロープ同士を結ぶのに適している。秋嶌と白鳥はよくわからないと言って、諏訪と沢嶺に教えてもらっていた。
「ロープを木などに止めるときには、ふた結びや自在結びがある」
秋嶌と白鳥は完全にギブアップだが、二年生部員三人組(大津、暮林、河井)はがんばっていた。
「忘れてしまった。でも確かこんな感じだったような気がする……」
大津がつぶやきながらロープを木に結んでいた。ロープをこねくり回している間に、偶然形になった。
「できた。でも,かなり忘れているなあ」
「わたしも忘れてしまっている」
と、河井は言いながら、それでもなんとかしようとしている。暮林は、手元にふた結びと自在結びができた木を持っていた。
「暮林くん、できているじゃないの」
沢嶺が驚いて言った。
「次は、もやい結びにしましょう」
これは簡単に結べて解くのも簡単だ。
「もやい結びはこんなふうに覚えたよ。まず、池からカエルが飛び出して、ほとりの電柱をぐるりと回って池に帰る」
ロープで輪を作るための方法だ。また、この結び方は、昔、舟を木につなぎとめるのに使ったという。
さらに、ふたもやいという結び方は、緊急時にけがをした人を引き上げるのに役立つ。
「次は、木と木をロープでしばる方法です」
諏訪は巻き結びをした。丸太や竹などを使って何かを作るときに、最初と最後にする結び方が、巻き結びだ。例えば二本の木をしばるときに、最初に巻き結びをして、次にはさみしばりをして、最後にまた巻き結びをする。はさみしばりとは、二本の木をいっしょに巻き、割りを入れてしめるしばり方をいう。例えば二本の木を十字にしばるとき、最初に巻き結びをして、次に角しばりをして、最後にまた巻き結びをする。角しばりとは、二本の木を十字にしばり、割りを入れてしめるしばり方をいう。
「これから、床しばりを説明します」
諏訪が皆に向かって話す。テーブルやいかだなど横に並べた丸太や竹を固定するときに使うしばり方だ。ロープを丸太の上下に交差させながらしばっていく方法で、これも最初と最後に巻き結びをする。
「ここまでロープの結び方の説明をしたので、それを応用して立ちかまどとテーブルを作ってもらいます」
諏訪が言った。
「二チームに分かれましょう。チーム1は秋嶌、白鳥、沢嶺。チーム2は大津、暮林、河井でいきましょう。チーム1は立ちかまどを、チーム2はテーブルを作ってください。それでははじめ!」
諏訪と菱田は皆が作るところを見守ることにした。さすがに秋嶌と白鳥は初めてなので、なにがなんだかわからない。秋嶌が白鳥に聞く。
「白鳥さん、わかったかい?」
「いえ、ぜんぜんです。どうしましょう」
「うん、ここは沢嶺さんの指示で動きましょうか」
「それしかないですね」
沢嶺は丸太を指さして言った。
「秋嶌くんは、ここにはさみしばりをしてください」
秋嶌は巻き結びすら忘れてしまっていて、沢嶺に聞きながら結んだ。そしてはさみしばりをした。
「おーっ、こんな感じなのですね」
秋嶌はやり遂げた。
「白鳥さんは、ここに角しばりをしてくださいね」
白鳥もまた、巻き結びから教えてもらいながら角しばりをした。秋嶌が角しばりを手伝う。そして、床しばりをして、なんとか立ちかまどを完成させた。
「できましたね、皆さん。うん、今晩これを使ってみましょうか」
沢嶺がうれしそうに言った。
さて、テーブルの方は、三人で力を合わせて作っていた。巻き結びと角しばり、床しばりだけで椅子付きのテーブルができようとしていた。さすが二年生部員は基礎ができていたので、あとは自分たちで設計をし、作っていくだけだったようだ。ただし、強度が必要なので、しっかり力を込めて、また、割りもしっかり入れて作る必要があった。そのあたりも大丈夫だったようで、立派な椅子付きテーブルが完成した。
「俺たちがんばったよな」
大津が言った。
「うん、しっかりとした大理石ができたよ」
暮林は満足げだった。大津がつっこむ。
「それはマーブルや」
「あっ、昆虫記のね」
「それはファーブルや」
「紫色かな」
「それはバイオレットや」
「じゃなくて、パープルでしょうが」
最後は暮林がつっこんていた。
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