第2話 合宿一日目

 さて、キャンプ場での二泊三日の合宿が始まろうとしていた。菱田は買い出しをして、自動車で来ていた。部員たちは皆、自転車で来ていた。白鳥だけは自動車に乗せてもらってきた。荷物が尋常でない。この前買ったリュックサックのほかに、スーツケースと、大きいボストンバッグもある。

「皆さん、お待たせしました。よいお天気でよかったですわね」

白鳥は澄ましてあいさつをした。

「白鳥さん。何ですか、この荷物は。多すぎませんか」

諏訪部長がたずねる。

「いいえ、大丈夫です。私の旅行では、少ない方ですから」

「いやいや、旅行じゃないから」

秋嶌がつっこんでいる。


「まずはテントを立てるところから始めようか」

諏訪部長が言うと、

「荷物は一か所にかためよう」

沢嶺が言う。

 このキャンプ場には、すのこが置いてあるため、それを持ってきて、テントの床シートの下に置く。そうすることによって、湿気防止と雨天時に水にぬれずにすむ。テントは二張りで、男性グループと、女性グループに分かれる。

 さて、テントを広げて支柱を立てて張る。ペグを土中に打ち込んでひもを張る。少し大きめのテントにした。白鳥が荷物を異常にたくさん持ってきたため、テントの中は幾分狭く感じる。それでも白鳥はご機嫌でテントに入り、

「わーい、けっこう広いですね」

と遊んでいる。

「靴は脱いで!」

沢嶺が叫んでいる。

「さあ、テントの周りに壕を掘りましょうか」

諏訪部長はだんどりどおり進めていく。壕は溝のことで、雨が降ったときにテントが水浸しにならないようにするもの。テントの周りに溝を掘って水の流れを作るということだ。

「これはかなりの重労働ですね」

秋嶌が言う。そう、一周分掘るので、かなりつらい労働である。ここはもくもくとただやるのみ。

 

「さて、夕方までにしなければならないことが、山のようにあります。一つずついきましょうか。まず最初は水汲みです。水がないと生活できません。幸いこのキャンプ場は、少し下ったところに水道があるので、そこで水を汲んできます。ただし、水はとても重いです。

 では、ポリタンクを持って、水をめいっぱい汲んできて下さい」

諏訪部長が秋嶌に言う。

「はい、それでは行ってきます」

秋嶌は空のポリタンクを持って走っていった。しかし、帰りが地獄だった。ポリタンクは2つも持てなかった。水汲みがこんなにつらいとは知らなかった。

「水は、飲むため、料理のためなどすべてに使いますので、とっても大切です。

 水を汲みに行ってもらっている間に、料理用かまどを作りましょうか。大きな石を探してきてください。かまどを作ります。また、なべやはんごうをかける丈夫な木の棒も探してきてください」

諏訪が皆に言う。すべてそろったところで、

「では、料理にとりかかりましょう。今日の夕ご飯はカレーライスです。うちの部員の中では、暮林が料理担当になっています。白鳥さん、暮林を手伝っておいしいカレーを作ってください」

二人が了解して、料理を作ることになった。しかし、白鳥は実は料理があまり得意ではなかったので、

「米とぎます。野菜洗います。なべとやかんとフライパンを洗います」

と言って、だれでも出来ることにとりかかった。

 持ってきたはんごうに、米を入れ、汲んできた水で米をとぐ。4~5回水をかえてといだら、はんごうの中に手を広げて入れ、手首まで水を入れる。中ぶたは取って火にかけ、はじめチョロチョロなかパッパ、赤子泣いてもふた取るな。これで、火力に気を付けながら炊く。およそ30分くらいで炊きあがる。

 次にカレーライスを作る。白鳥が、まず野菜を切ろうとしたところ、諏訪部長が近くにやってきて皆に言った。

「今お手すきな方、力を貸してください。トイレを作ります」

残りの部員たちで、トイレを作ることになった。

「さて、竹と荒縄を持ってきてください。その前に穴を掘らないといけないな」

諏訪部長が先頭に立っている。

 テントを張った場所から少し離れたところに穴を掘り始めた。8人分の用便を三日分入れる穴なので、けっこう深く掘らねばならない。それと並行して、竹と荒縄で便器を作る。長椅子のように長い便器を作ることにした。また、トイレの壁を作るために、ブルーシートで周りを囲む。これで個室ができ、落ち着いてすることができる。使用中がわかるように何か目印をつける。

 さて、皆がトイレを作ってもどると、いい具合に料理が進んでいた。ご飯ははんごうをさかさまにしておいてある。カレーは鍋の中で煮えている。

「おいしそうなにおいね」

沢嶺が言う。

「もうできそう?」

「そうですね、あと少しかな」

白鳥が言う。

「そろそろ食べましょうよ」

秋嶌が言う。皆、待ち遠しいようだ。諏訪が皆に声をかけた。

「では皆さん、食器とスプーンを用意してください」

テントの中のリュックサックから食器を探し出している。そして、皆の食器に順々にカレーとご飯をよそっていく。全員に配り終えたら、車座になっていただくことにする。いただきますの歌を歌ってからいただく。

「味はどうですか」

暮林が心配そうに聞く。

「うん、とてもおいしいよ」

諏訪が答える。

皆口々においしいと言ってくれて、暮林と白鳥はほっと胸をなでおろした。おかわりもして、鍋の中をすべて食べつくしてしまった。

 この頃になると、辺りは暗くなってくる。懐中電灯とランタンを持ち出してあかりをつけ、なべやはんごう、食器などを洗う。ポリタンクの水を使うため、無駄遣いをしないようにした。

「夜はキャンプファイヤーをしますか?」

諏訪部長が全員に聞いた。

「やる。やる。やりましょう」

と、秋嶌が言う。ほかの皆もやる気満々のようだ。

「では、ミニキャンプファイヤーにしましょう。八時に始められるように準備をしてください。手があいている人は、まきを積みあげるので手伝ってください」

全員で準備をした。あまり太くない枝を井の形に積みあげていった。

「一人一芸をしてもらうので考えておいてくださいね」

諏訪部長が言った。

「えー、何しようか。えー、どうしようか」

白鳥は困った。実は秋嶌も困っていた。皆はどうするのだろうかと思った。秋嶌は白鳥に、いっしょに歌を歌わないかと誘ってみた。

「それ、いいですね。やりましょう。何がいいですか?」

と、白鳥も乗り気のようだ。

「いっしょに考えようか」

「私は、なつメロがいいです」

「例えば?」

「三年目の浮気や、銀座の恋の物語」

「いつの時代やねん。何で知ってるの?」

「歌、好きなんです。歌は時代を超えますよ」

「じゃあ、何でもいいので教えてください。いっしょに歌いましょう」

二人は決まった。大津と暮林は漫才。河井は手品。沢嶺は菱田といっしょに歌。諏訪部長は落語と、皆それぞれ好きなことをするようだ。

 夜も深まってきたところで、ミニキャンプファイヤーの時間となった。赤々と燃える炎を囲み、皆リラックスしているようだ。

「それではキャンプファイヤー始めます。まずは若手の秋嶌くんと白鳥さんで歌を歌います。どうぞ」

秋嶌と白鳥は、二人の愛ランドを歌った。元気な歌なのでもりあがった。秋嶌もかろうじて知っていたため、何とか数回の練習で身に付けることができ、ほっとしていた。

「では次に、河井さんで手品です。どうぞ」

音楽にのって現れた河井は、趣味が手品だそうで、家でかなり練習しているという。この日は鳩は出なかったが、楽しい手品を披露してくれた。

「次は、大津くんと暮林くんで、漫才です。どうぞ」

「はい、こんばんはー」

と言って、二人が前に出てきた。日頃からボケとツッコミの役割分担をしているため、こういった場でもものおじせずにできる。おもしろいかどうかは別にして、いっしょうけんめいやる二人に拍手がわいた。

「次は、私諏訪が落語を一席。座らせていただきます」

と言って始まった。何でできるんだろう、と秋嶌は思った。

「最後に、菱田先生の歌と、沢嶺さんのハーモニカです」

「遠き山に日は落ちてを歌います」

と言って始まった。キャンプには欠かせない名曲で、ついつい皆もいっしょになって歌った。このあとも、いろんな歌を皆で歌って夜は更けていった。明日もあるので、適当なところで終わり、炎も消して安全確認をして寝ることにした。

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