第9話 他人の結婚式を嗤うな

先日、私事で大変恐縮だが結婚式を挙げてきた。妻とは入籍して一年経ってからの挙式だったが、大したトラブルや喧嘩もなく無事に終える事が出来た。


半年以上の準備を経て挙式をしたワケだが、合間を縫って小説の投稿をし続けていた不真面目な私に見て見ぬふりをしてくれた妻に対し、本当にありがたい気持ちで一杯である。


さて、最近は挙げる人口がめっきり減ったと言われる結婚式だがここでその体験をしたばかりの人間が書くフレッシュなレポートをお送りしたいと思う。


結婚式のカタチなんざ十人十色なワケだが、これを読んで少しでも現代に生きる者の結婚式の良さ悪さを知っていただきたい。


それではいってみよう。


いらっしゃーい(義務感)



今回一生に一度の行事を執り行ったワケだが、先ずは私と妻の結婚式に対するスタンス先に述べておかねばなるまい。


二人とも始めはまるで興味がなかったのだが周りからの半ば強制的とも言える熱烈なプッシュにより渋々取り組む事になった。これにより私たちの中では「自分たちの為にやる」というのではなく「他人様をおもてなしする」という意識が生まれていた。


そのお陰でだいぶ苦労する事になったが、元々の性格的に自分たちの為にというのが好きでない為、精神的には楽だった。


「これは自分たちの意思でやっている事ではない。言ってみれば仕事の様なものだ。というか仕事だ」


そう言い聞かせる事によって、持ち前のクソ真面目さを生かし次々にやってくる準備をこなしていた。


私は仕事終わりと休みの時間をフルで使い準備。妻は専業主婦だが家事をする以外は全てこれに費やしていた。


何事にも用心深い私たちだったので、準備期間としてはやや長めである7カ月という時間をかけた。平均は5か月であるというから私たちは2カ月のアドバンテージがあったワケである。結果的に言うとこの2カ月は無駄であった。何故ならプランナーは当然の如く私たち以外の案件を抱えており日々追われている人種なので私たちの様な余裕有り余る者は


「ああ、それはもう少し後で決めていただいても大丈夫です」


という具合に何かと後回しにされてしまうのだった。まあ普通に考えたら解ることなのだが、何しろ初めての事尽くしでビビっていた為こうなった。準備期間は長過ぎず短過ぎず。


一番突っ込んだ話をしよう。幾らかかったか。単純に式場に払った金額はかなりのものである。しかしコレは余分な物をギリギリまで削ぎ落とし、かつそこそこに値切った結果である。ここに更に色々かかってくるので、やはり祝儀で支払ってもプラスマイナスゼロとはいかない。どうあがいても金と時間はかかる。だがそれを工夫する事によって、抑える事は幾らでも可能だ。もちろん豪華にする事もまた然りである。どちらが自分たちの望む形かを、二人でよく話し合う事が一番大切だ。


一番大事な事は身の丈にあった事をする。分相応な式を挙げる事だ。コレである。妻は準備期間の最中、何かと


「いや、それにお金かけるなら新婚旅行に回して下さい」


そう言い続けてくれた。これには私も大いに共感するところであったので、本当にありがたいと思った。


これから結婚を控えている方がもしいるならば一つだけ助言させていただきたい。結婚するならひとまずありとあらゆる事をすっ飛ばして、価値観が共有出来る人がいい。心からそう思う。


そして結婚式を考えている女性の方におこがましいとは解っているがひとつだけ、助言をさせていただきたい。


もしも貴女が挙式並びに披露宴の打ち合わせの時、色々と思い悩み傍らに座る貴女の夫になる予定の男性にこう尋ねたとしよう。


「ねえ、どうしよう」


彼はくたびれた顔できっとこう言うだろう。


「何でも良いよ。任せる」


貴女はこのヤル気のない台詞を聞いて、きっと大いに怒るだろう。貴女はこう思う筈だ。


「何よもう!私ばっかり考えて!」


こうも考えるだろう。目の前のこの男よりもよっぽどプランナーさんの方が親身になってくれるし私の事を考えてくれている。と。


だがここで貴女がとるべき行動は隣の男性を怒鳴りつける事でも、彼を無視してプランナーさんと盛り上がる事でもない。


ひとこと優しくこう言ってあげれば良い。


「任せてくれるのは嬉しいわ。でもね。これにかかるお金って凄く大金じゃない?私は良いけど、貴方のお金も含まれてる。貴方がせっかく汗を流して稼いだ大切なお金だから、大事に使いたいの。だから解らなくて退屈かもしれないけど、少しだけ一緒に考えてくれないかな、お願い」


何だったら手の一つでも握ってあげれば良い。こう言われてハッとしない男はいない。この台詞を聞いても「何でも良いよ」という男なら、結婚自体を考え直した方が良い。プランナーさんは式が終わったら一生会う事は無いだろうが、隣の男性は式が終わったら一生共に生きなくてはいけない。どちらに気を遣うべきかは自明の理である。ちなみにプランナーさんは貴女の事を思って親身になっていると言うよりは、仕事なので当たり前の事をしているだけというのが現実だ。貴女のお金の為。


さて、今度は男性諸君である。


男性諸君に対して容赦ない。おこがましいなどと言わない。先輩として助言させてもらう。肝に銘じておいた方が良い。いつかきっと私に感謝する。


まず一つ。打ち合わせの際に関して。


退屈だと思うかい?何でこんな事って思うかい?何でも良いよって、思うかい?


だろうね。そうだろう。


しかしね、これだけは解って欲しい。


諸君がヤル気になろうとなるまいと、結婚式は平等にやってくる。打ち合わせは平等に行われる。


だったら諸君。せっかくだ。ぼーっと長い時間を手持ち無沙汰で過ごしているより、自ずから参加して忙しく過ごした方が有意義だと思わないか。生産的だと思わないか?ドレスや花の事がイマイチ解らなくったって良い。


「いや、それよりさっきの方がキミのイメージに合ってる気がする」


それくらいの言葉で十分なのだ。


仕事で疲れてる?そうだろう。


大事な休みだから遊びたい?そうだろう。


何でこんな大金を?そうだろう。


だが全ては、物事を円滑に進める為なのだ。打ち合わせが終わった後に傍らにいる女性が上機嫌である方が良いだろう。彼女にとって協力的である事が、諸君らにとって平穏で安寧な日々をもたらしてくれるのだ。


目の前でドレスを選んでいる女性と、レベル85、地獄級のダンジョンをクリアする事とどっちが大事か。天秤にかけるまでもあるまい。ソシャゲに飽きたら別のに乗り換えられるが、大切な女性に飽きられたら捨てられるのは諸君だ。


なあに、たった5カ月さ。一生懸命やればあっと言う間さ。そこを頑張ればこれからの結婚生活で何か失敗した時、諸君らの奥様は「まあでも、この人。結婚式の時あんなに頑張ってくれたからなあ。悪い人じゃないんだよね」と思ってくれるに違いない。


ソシャゲのフレンドにとって、諸君はさほど大事な存在ではないが、傍らの女性にとって諸君は何よりも大事な存在なのだ。


今のところはね。


かしこ


(準備編 完)

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