第123話「激神絶唱、波濤は怒りに割れて」
リジャスト・グリッターズの一員になってから、水中戦の訓練も十分に受けてきた。
それも全て、守りたいもの、戻りたい場所があるから。
響樹だってそうだったが、暗い水の底にいると息苦しさが込み上げてきた。
「これ、
同じコクピットに密封された、
すぐ間近に、身を寄せてくる確かな体温があった。
だからこそ、寄り添い
「わかってる! でも、水中じゃ……クソっ、スサノオンが重い! 理屈じゃわかってたが、この水圧と抵抗じゃ」
シミュレーションでは、アキラを始めとする多くの仲間と、それこそ数え切れないくら特訓した。もともとが普通の高校生で、巨大な
それでも、ユート・ライゼスに
毎日が
だが、暗い海の底は、積み上げてきた自信を飲み込んでしまう。
「とりあえず、
「やれやれ、気負い過ぎじゃな」
スサノオンは、太古の古き神々が生んだ、言うなれば
だが、地球の危機は成長を待ってくれないし、逃避も許してくれない。
だからこそ、どうしても響樹は焦ってしまうのだ。
「ヘルプダイバーが助けに来てくれた? あいつはヘルパーズの中でも水中戦のプロ……なら」
「なら、すべきことは一つじゃな」
「ああ! 美李奈を助けて、あのザリガニロボを倒す。その上で――」
「じゃから、一つじゃと言っておろう。どれ」
不意に、
突然、リリスはキスしてきた。
行き交う
そっと唇を放したリリスは、うっそりと
「落ち着いたかや? 主様」
「え、あ、お、おう……って、今なにを!」
「今なにを? おう、それよな、それ。今はまず、落ち着くが肝要。こうしている間にも、美李奈めは」
「あっ、そ、そうだ! 美李奈! 応答してくれ、美李奈!」
頬が熱くて、顔から火が出そうだ。
慌ててリリスから顔を背けると、響樹は回線の向こうへと叫んだ。
だが、普段と同じ落ち着いた声が返って来る。
どうやらまだ、
『響樹さんですか? 大丈夫です、浸水は止まりました』
「浸水!? コクピットに水が!」
『ですから、大丈夫です。脱いだ制服で浸水箇所を塞ぎましたので』
「脱いだ! それって……痛っ! な、なんだよリリス」
だが、危機を脱したにしては美李奈の声は
それが全て、自分へ向けられた心配だとすぐにわかった。
『残念ですが、敵は
「美李奈っ! クソっ、無線の調子が」
すぐにリリスが耳元で教えてくれた。
スサノオンは、
そのスサノオンの通信能力が不調なのは、響樹が未熟だからにほかならない。
面と向かって言われると、納得はできても気持ちのいいものではない。
そう思った瞬間、激しい衝撃にコクピットが揺れた。
「ぐっ! 奴か……リリス、どこかに掴まっててくれ! 揺れるぞ! ……って、なあ!」
「じゃから、掴まっておる。ほれ、遠慮せずブン回さんか」
肌で呼気を感じる距離だ。
同時に、二度目の攻撃と共に勝ち誇った声が響き渡る。
『カカカッ! 大したことないのう! シーベッドマイナーの敵ではないわ!』
初老の男の声だった。
どうやら、シーベッドマイナーというのがザリガニ型ロボットの名称らしい。
そして、水中ではスサノオンといえども、圧倒的に不利だった。
懸命に防御を固める響樹だったが、次々と四方から連撃が浴びせられる。
さすがの負けん気にも
『見ちゃいられねえな……どけ、小僧。鬼神の流儀、その覇気を……見せてやらぁ!』
突然、頭の中に声が響いた。
それは言葉を
まるで自分が上書きしてゆくように、意識が薄れる。
「むっ、いかん……主様! 気を確かに持つのじゃ!」
「こ、これは……俺の、中で、俺じゃない、俺が……!」
同時に、スサノオンが怪しい光を
神をも超える鬼の化身は今、獣の闘争本能を身に招いていた。
あっという間に、襲い来るシーベッドマイナーを片手で掴んで押し止める。無造作に伸ばした腕だけで、力を込めた素振りも見せずに
『なにぃ!? ワ、ワシのシーベッドマイナーが!』
「ぬりぃな……ぬるいんだよ、心底なあ! うおおっ、吼えろぉ! スサノオンッ! 今こそ神話を取り戻せ……神をも殺す力となれっ!」
響樹とは違う自分が叫んでいた。
同時に、周囲の海水が
そして、信じられないことが起こった。
抱きつくリリスの声も、心なしか強張って聞こえる。
「むっ、
だが、応える声は荒ぶる鬼神そのものだった。
「響樹? 違うぜリリス……俺だ! そう、俺だよ。御門……御門っ、響鬼だ!」
「この間の! お主はスサノオンの中に沈んで消えた
「そうさ、数多の英霊と共に今も俺は戦ってる……こうして、手だって! 貸して、やるっ!」
精神体として傍観者へ追いやられた響樹は、見た。
黒海が、割れた。
そう、スサノオンが立つ場所を中心に、海が真っ二つに割れたのだ。信じられない奇跡が、目の前に広がっている。そして、水を奪われたシーベッドマイナーに、もはや戦闘能力は残っていなかった。
だが、文字通り陸に上がった
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