第104話「人の狂理、神の聖櫃」
空へと開けた道が、戦いの炎と煙に飲み込まれてゆく。
大空港は今、銃声と絶叫が響く戦場と化していた。
だが、今の歩駆には
自分の弱さが招いた結果を、自分の手で精算するのだ。
「歩駆さん、こっちです……確かに、欧州への便が離陸中止になってる。積荷は向こうに!」
一緒に行動してくれるのは、ザクセンのパイロットの
思えば、彼とは惑星"
「この先……輸送機からコンテナを下ろして、七番倉庫に一時保管するつもりみたいですね」
「おっし、わかった。……サンキュな、零児」
「
インカム越しに回線を沸騰させる、敵味方の声。
その
惑星"r"と呼ばれる地球は今、滅亡の危機に瀕している。謎の侵略者パラレイドに
行く先々、戦いばかり。
だが、それを知って
ヒーローになりたいのではない……争いを無くしたいからこそ、ヒーローでありたいと願うのだ。
「零児、お前さ。確か以前は……だからか? 落ち着いてるよな」
「うん? そうだね……戦争が長く続きましたから。気付けば身よりもなくて、ジャンク屋まがいの何でも屋。でも、それで生きていけたから。銃も覚えたし、ザクセンがあったから困らなかったかな」
「お互いさ、なんか……機体がないって、
「だね。でも、だからこそ、歩駆さん……絶対にゴーアルターを取り戻しましょう」
同時に、インカムに
『
同時に、地響きを立てて眼の前へと〝オーラム〟が着地する。その背から被弾したバックパックをパージするなり、
その影を縫い付けるように、上空のゴーアルターから光が注いだ。
砕けて割れる大地が空へと吸い上げられる中、〝オーラム〟は向かってくるバックパック換装用の自律飛行式無人飛行機〝メルキュール〟から長銃身のビームライフルをもぎ取った。
「アキラ君!? ギアをあげてる……でも、それじゃあ身体がもたない!」
「クソッ、俺は……俺達はなにをやってるんだ! アキラを助けてやれないばかりか、俺のゴーアルターが」
〝オーラム〟は狙撃用のライフルを両手で構えて、ビルの影へと転がりながら腹ばいに射撃体勢を取る。スイッチと同時に
出力を上げすぎたのか、一度の射撃で赤熱化した銃身が溶けて爆発する。
その時にはもう、アキラの〝オーラム〟は空中で振動長刀を手に突進していた。
『つば
ユート・ライゼスの声が走って、皆ができる最善の手を尽くしている。
だが、それでもゴーアルターは神の
そのコクピットで笑うアルクの声が、歩駆の焦燥感を泡立てる。
『無駄な抵抗だ、人間。神の
だが、それを黙ってみていられる程、歩駆は
「行こうぜ、零児! 俺達の仕事は、七番倉庫で補給物資を確保することだ。……悔しいけど今は、それしかできない。なら、それだけはきっちりやりたいんだ!」
「その意気ですよ、歩駆さん。……じゃあ、行ってください!」
「お、おいっ、零児!」
物陰から飛び出た零児が、狙いを定めてアサルトライフルの
その発砲音で歩駆は、初めて自分達を狙った歩兵部隊を知った。
ここは敵の勢力圏内で、エークスの空軍も使う空港なのだ。当然、こうした事態が発生すれば、あらゆる兵科がてんてこ舞いになる。空港の職員や積荷を保護するため、歩兵部隊も展開しているのだ。
迷彩服の一団を牽制しながら、零児が叫ぶ。
「行ってください、歩駆さん! この先、奥に七番倉庫があります! 走って!」
「けど……いや、わかった! 悪ぃ、頼む……すぐ戻るっ!」
発砲音を背で拾いながら、歩駆は走った。
ゴーアルターのない自分が、ここまで非力だとはわからなかった。
だが、ゴーアルターの力は無敵でも、それは歩駆の力ではない。
それでも、ゴーアルターの力は歩駆に強さをくれた。自分の意志を体現し、理想や夢を追いかける強さ、理不尽と不条理に
「見えたっ、あれが七番倉庫か! って、逃がす、かよっ!」
目的の倉庫から丁度、大型のトレーラーが出てきた。巨大なコンテナを
歩駆は銃を投げ捨てると同時に、
自ら投げ出した身体が、コンテナを並べたデッキに転がる。そのまま落ちそうになるが、痛みに耐えて歩駆は手すりの鉄パイプを握った。そのままなんとか立って、荒い運転に揺られながらコンテナの一つに潜り込む。
「
強烈な衝撃と共に、歩駆の世界がひっくり返った。
トレーラー自体が横転したのだと知った時には、歩駆は上下も左右もわからない闇の中に放り出されていた。まるで
だが、不思議と怪我はない。
後頭部になにか、柔らかい体温を感じていた。
同時に、同世代と
「イタタ……なんです? もぉ、なんなのです! って、どちら様? ちょっと、離れてください! どこになにを突っ込んでるんですか! ……あ、突っ込んでるのは……お顔ですね。それなら……駄目に決まってますわ!」
乱暴に蹴り飛ばされた。
ようやく闇に目が慣れてきたところで、わずかな光が差し込んで周囲を照らす。
眼の前に、なにかのハッチを開けた少女の姿が浮かび上がった。
「誰だ……あんた」
「わたくしは、
突然、竜華と名乗った少女は、ガシリ! と歩駆の
間近でみれば、かなりの……いや、物凄い美少女だ。
彼女は、
そして、驚く歩駆を開いたハッチへと引きずり込む。なかば押し倒されるように、
竜華は歩駆の
すぐにメインモニターに、ゴーアルターの姿が映った。
「あら、ゴーアルターがこのコンテナを……ピンチです! さあ、歩駆様!」
「さあ、ってあのなあ……いや、わかる。わかるぞ、これは……な、なんだ? なんなんだ、コイツは!」
誰にといわず発した問に、自分の全身が答えてくれた。手足は普段ゴーアルターを扱うように、全く違うレイアウトの操縦席にフィットしてゆく。そして、メインモニターに大映しになったゴーアルターが、鉄拳を振り上げたその時だった。
コンテナを破壊する衝撃を、歩駆の意思が受け止めた。
思って動かした、その操作に謎のマシンが応えたのだ。
そして、冷たい蒸気を発散しながら、白く煙る中でコンテナが解放される。
「歩駆様! どうぞ、ご存分に……本当は、欧州での地球統一コンサートの時にお渡しする
「な、なにを……いや、こいつをか!」
「ええ。トヨトミインダストリー製のサーヴァント……限りなく
開けた視界が陽の光に染まってゆく。
そして、ゴーアルターの鉄拳を受け止める、
その名は、G
そして、見る……人を
戦火に燃える空の港に、奇跡を詰め込んだ鉄巨人が立ち上がった瞬間だった。
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