第72話「父と子とを見送る比翼」
今の今まで飲み込んできた、
だが、ケイオスハウルの中の自分を見上げる眼は、不思議と
父一人子一人、愛犬との
高鳴る心臓を胸の上から押さえつけ、佐助は落ち着いて言葉を選ぶ。
「父さん……父さんなんだろ! なあ……俺に説明してくれよ。どうしてこんなことに? そして、どうしてそんなことをするんだ」
じっと見詰めて見上げる
その声音も口調も、自分のよく知る父のものだ。
いつでも落ち着いていて、どんな時も佐助を優しく
『佐助か。久しぶりだな』
「父さん……」
『まだ、僕と父と呼んでくれるのか。……優しいな、お前は』
「色々あって、事情を知りたくて、でも父さんは……なにがあっても俺の父さんだよ。だから困ってるんだよ! ……苦しいんだよ」
だが、今という状況は異常だ。
周囲には無数の異形が満ちて、まるで
そして、大事な仲間の
その歩む先へと眼を向けて、うっそりと総介は言い放った。
『見なさい、佐助。人を
「結実……? なんの
『この世界、地球を
「な、なにを言って……それよりっ、話はあとだ! みんなとまずは歩駆を!」
だが、遅かった。
バケモノ達の血と体液を浴びながら、ゴーアルターは自衛隊の部隊へと歩み寄る。隊員達の恐怖がすぐに、佐助には見て取れた。
唯一冷静な機体から、隊長機である
『楯野隊長……いやっ、楯野ツルギ!
すぐさま銃声が響き、小さな爆発と共に戦陣が崩れ落ちる。
脚部を撃ち抜かれた部下の機体を
そこには、
『
部下達を捨て置いて、ツルギの尾張十式・改が加速する。
全ての武装はセフティを解除され、ゴーアルターはロックオンされていた。だが……思わず手を伸べ割り込もうとするピージオンやヴァルク、アカグマは間に合わなかった。
無造作にゴーアルターは手を突き出す。
まるで
突然肉薄された尾張十式・改は、攻撃のタイミングを失った。
次の瞬間にはもう……ゴーアルターの手は敵の顔面を
「速いっ! まるで瞬間移動だ」
驚きに思わず佐助は声をあげる。
だが、どうやら父の総介には驚くに値しないようだ。
『縦、横、高さ、そして時間……次元や空間といった
尾張十式・改は全身を
だが、怒りの鬼神が握る手の中で、胴体から引っこ抜かれた頭部が圧縮されて潰れる。そして、ツルギの声はどんどん悲壮感を帯びる中で平常心を失っていった。
『まだまだぁ! とっておきだ……戦略級の殲滅兵器で、バケモノ共ごとぉ! 消し飛べぇ!』
半壊した尾張十式・改が空へと舞い上がる。
その胸部が開いて、ミサイルと思しき弾頭が射出された。
すぐに佐助にもわかった……通常弾頭ではない。
同時に、かつて歩駆が中東で使ってしまった
アームドウェアは身を守る装甲である以上に、危険を封じる
だが、それは既に脱ぎ捨てられてしまった……もっとも危険な力の発現と共に。
とっさのことに、周囲の仲間達もすぐに動き出す。
『アレックス、
『
『クソッ、俺はシファナさんとフィリアさんを!』
――神は
ただ、望む結果を選んで決定するだけだ。
佐助が見上げる空で、ゴーアルターはあっさりと大型ミサイルをキャッチし……そのまま見えない力で粉砕してしまう。周囲を消滅させる程の力が、ゴーアルターの手の中で眩く光って消えた。
同時に、空へと舞う尾張十式・改を追ってゴーアルターは飛ぶ。
二機はあっという間に見えなくなった。
すぐに動き出したのはアレックス・マイヤーズで、ゴーアルターを追いかけようとする。だが……炎に包まれのたうち回りながらも、偽ピージオンが行く手を
最悪の事態は回避されたが、危機は終わらない。
そして、総介だけが楽しそうに目を細めている。
『さて、ではそろそろおいとましよう。……来るか? 佐助』
「なっ、なにを――」
『ついてきたかったら、僕と共に来なさい。お前もまた、必要だ』
「なんで……なんでそんなこと言えるんだよっ! 説明が先だろ!」
『事態は
総介が両手を天へ高々とかざした。
呼応するように、モノクロームの
遠ざかる仲間達へと、佐助の声が言葉にならぬまま叫ばれる。
絶叫する中、
「父さんっ! 俺は……父さんとは行かない! 行けないよ! ……仲間がいるんだ!」
『……そうか。よかったな、佐助。仲間を大事にしなさい。僕は愛を選び、愛ゆえに孤独、そして孤高。だが――』
「もっと話してよ! どうしてか教えてよ……目の前にいるのに、父さんが遠いよ」
黙って見上げる総介を
耳元でチクタクマンの声がして、佐助を緊張感が包む。
そして、激しい衝撃と共にケイオスハウルは吹き飛ばされた。辛うじて仲間達が支えてくれるが、ピージオンやヴァルク、アカグマも大地から引っ剥されそうになる。
周囲のクリーチャー達を巻き込んで、巨大な質量が目の前に現れていた。
例えるならそう、城……そびえ立つ
『佐々総介! 時間である……さあ、
それは、山のような巨大機動兵器だった。
赤い装甲は直線的な無骨さで、巨体はまるで
重々しくも
『我が名はタブ! キィボーダーズの
まるで甲冑のバケモノの
その頭部、
そして、タブと名乗ったジェネシードの騎士は……そのまま大地をゆるがせ飛び立つ。先に天へと消えたジェネスとシエルを追って、鈍重そうな姿が嘘のように雲を引く。
あっという間に総介は、不可解な笑みを残して佐助の前から消えた。
だが、まだ終わりではないとチクタクマンが告げてくる。
『サスケ! 気をしっかり持つんだ。まだショーの幕は降りていない……周囲の神話生物達と、あの異形!
「あ、ああ……だが、どうやって。沢山の人が、まだ中に」
どうしても佐助は、父の総介が頭の中から振り払えない。
そんな彼に、
『みんな、あれの動きを少しだけ止めてくれるかい? 僕が……僕と一緒の
偽ピージオンはまだ、多くの人々の悲鳴を内包していた。模造獣としての防御力が、皮肉にも吸収した人達の大半を炎と爆発から守ったようだ。
そして、世代のヴァルクが右の拳を引き絞る。
ヴァルクの握った手が光り出すのと同時に、佐助はケイオスハウルを押し出した。自然とアカグマもピージオンも続いてくれる。
『やるぞ、みんなっ! まずは目の前の障害から取り除く。あの人達を助けるんだ!』
『ああ、絶対に助ける……誰かを助けるために僕は、ピージオンに乗ってるんだ!』
佐助もまた、チクタクマンの補佐で偽ピージオンへと
彼女ができるなにかとは?
今は考えるよりも動く時、そうとわかれば佐助は全力を尽くす。
そして、仲間達の期待に応えるようにヴァルクが偽ピージオンへと、振りかぶった鉄拳を叩きつけた。
光が眩く輝く中、美央の声が響く。
『私だって許せないから! ちょっと、世代! 全部頂戴っ! 残ってる力っ、全部!』
『バッテリー残量の全てを回して……なんだ? この力は。美央さん、
ヴァルクの一撃が世界を白く染めた。
真っ直ぐ偽ピージオンに吸い込まれた拳は、光芒の中へと敵意を消してゆく。おぞましい声を張り上げていた人型の模造獣は、ピージオンの姿を維持できなくなって溶け出した。まるで、浄化されるように薄れてゆく。
そして、佐助は目撃した。
同時に動かなくなるヴァルクの背に……巨大な光の比翼が
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