第71話「私のはじめてのお友達」
天を
だが、広がる青空はそこにはない。
太陽の光さえ吸い込む破壊神の姿に、シファナ・エルターシャは震えた。そこにもう、親切にしてくれた少年の
そんな
「こ、この力は……いけません、歩駆さん! 負の力に身を
悲痛な叫びが自然と口から
今、ゴーアルターは己を封じて
しかし、
まるで生き血の
そして、リジャスト・グリッターズの戦士達は等しく声を聴いた。
地の底から湧き上がるような、
『お前ぇ……俺の、俺のぉ! ――我を、今……うぬは我の
歩駆の声ではなかった。
そして、フェイスマスクがオープンになったゴーアルターは
その先には、全ての武器を向ける
危機感に満ちた空気が凍りつく。
その緊迫した雰囲気に耐えられないのか、周囲の異形達は絶叫を張り上げた。
大地を踏み締めゆっくり歩くゴーアルターに、たちまち敵意が殺到した。
シファナのジェネスを追い越し追い抜き、バケモノ達が群がってゆく。
思わず口から零れるシファナの声は、悲痛な叫びとなって響いた。
「駄目……それは
次々とゴーアルターは、
それを追いかけようとしたシファナのジェネスを、衝撃が襲った。
目の前に対峙していた黒き
かろうじて避けたシファナは、背後で仲間達の声を聞く。
アレックス・マイヤーズや
『なんです? バルト大尉! ……
『歩駆っ、気持ちを強く持つんだ! お前が目指したヒーローは、そういう力で表現されるべきじゃないっ! くっ、フィリアさんに続いてお前まで!』
『まずいなあ、これは……じゃあ、そろそろこのへんで僕は、って訳にもいかないよね。
すぐに仲間達は動き出した。
三機はそれぞれ、偽ピージオンと尾張十式・改、そして変貌してしまったゴーアルターへと向かう。だが、シファナのジェネスは動けない。
先程から、まとわりつく影のようにシエルが攻撃を繰り出してくる。
スメルの姫巫女は今、自分が振りまいてきた希望の代価を強いられていた。
民のため、自らを
『シファナ、さん……逃げ、て……』
「フィリアさん! 意識が……待ってて下さい。今、助けます!」
『……駄目……逃げて。全ては……私の、
「大丈夫です、必ず助けます。さあ、ジェネス。いい子だから動いてね……行きましょう!」
シファナの祈るような声に、ジェネスが瞳の光で呼応する。
手と手を互いに押し込みながら、押し込まれる手を
だが、そんな彼女を
『
「お
シファナ達スメルの姫巫女は、
だが、シファナが頼るのは祖先の力や血、魂ではない。
そしてそれは、囚われのフィリアも同じ筈だ。
シファナはジェネスを支えてシエルを押し返しつつ、フィリアへゆっくりと語りかける。
「フィリアさん、聞いて下さい。あの時を覚えていますか? あの時……レオス帝国の領内、
返る声は、ない。
ただ、無言で沈黙に沈むフィリアを乗せたまま、シエルが力を力で押し返してくる。
それでもシファナは、素直な気持ちを記憶に
「私は姫巫女、ゼンシア
『……嬉しかった? どうして……私は、怖かった。王女として、振る舞い……父の
「でも、フィリアさんは私に出会ってくれました。そして、お友達になってくれた。私には、同世代の女の子が友達だなんて……とても、嬉しかった。嬉しかったんです!」
『友……達……?』
あの日、レオス帝国の領内で二人は出会った。
シファナは、
そのことを誰よりも、シファナが一番よく知っていた。
己の身分と立場故、常に政治や政争に利用される。
小さな頃からずっとそうだった。
シファナはただ、国や民族を問わず人々を……老若男女を問わず皆を守って導きたいだけなのに。そんな純粋な気持ちすら、国家間の
「私は、嬉しかった……貴女に出会えて、貴女にお友達だと言ってもらえて。そして、知っています。貴女はあの日も、務めを果たすべく自分を奮い立たせていました。その
『それでも、私は……』
「フィリアさん! 続きは直接お顔を見てお聞きします! さあ、黒き闇の力よ……私のお友達を解放なさい!」
シファナの意思を拾って、ジェネスが力を振り絞る。
だが、シエルの束縛を解いた白き
すかさず自由になった両手をシエルが伸べてくる。
ガシリ! と首を締め上げられたまま、ジェネスが空へ高々と
「ジェネスよ! 我が血に連なる歴代の姫巫女よ! 力を……お友達一人すら救えぬ者に、国も民も、星も救えません! これはスメルの姫巫女ではなく、私の願い。私だけの望み! 力を……もっと光を!」
その時、奇蹟が起こった。
息を荒げるがごとく
ジェネスをくびるように吊るしたまま、停止したのだ。
流石に総介も
『ほう? 自ら身を
「ッ……! 佐々総介、覚えておきなさい。フィリアさんは私が守ります。彼女は強い女性です……私と二人ならば、決して闇などに堕ちはしません!」
『ならば、その高潔なる意思を試されよ……そうでなくては、
シファナは自分の力が抜けてゆくのを感じた。
自ら敵の手に落ちてでも、フィリアに寄り添い支えて守る。
自分の光なら、闇の
ゆっくりと意識が薄れてゆく中……彼女は声を聴いた。
そして、仲間達の誰もが振り返る気配を知る。
『サスケッ! あそこですわ! ……ああもぉ、
シファナは、暗く狭く閉じてゆく視界の中に見た。
ナミハナの声を超えて今……激しい怒りの気迫が
邪神降臨……ジェネスとシエルの前に、
古き神を
そして、声が走った。
『お前は……見付けたぞっ、父さんっ! なにを……なにをやってるんだ、父さんは! なにをしようとして、こんなっ!』
少年の叫びは、血を吐くような激情の中で高らかに響く。
それは、子がどこかでまだ父を信じたいと願う、小さな小さな祈り。
『オーケィ、サスケ! クールダウンだ! 気持ちを
『これが落ち着いていられるか……父さんっ! 全て知ってることを話してもらうっ! その前に……俺の仲間を返してもらう! 俺達の大事な仲間を!』
シファナは、その時初めて知った。
自分が人々に灯してきた希望が、今……佐助の雄々しさで自分にも灯るのを。救いを求める時、伸べられる手の暖かさ。炭火のように自分へ浸透する仲間の声があるから、彼女は自分ごと闇へ沈んでフィリアを求めた。
暗闇の中で膝を抱えて震えるフィリアに、そっと気持ちを寄せて支える。
消え行く意識の中、最後にシファナは佐助達の絶望に
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